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7話 救出1

 フィルは王族でした。

 誘拐されたフィルを返すために、城に行くとするだろう。

 つれていけば、誘拐された王女で何かしらが起きている城の人間はなんと思うだろうか。

 二択。親切な人か、それ以外だ。

 城の人間と交流があればいい。が、つい最近来たばかりか、昔に城の人間を一人殺している。

 糞最悪の騎士様だったか。

 

 俺が暗殺したことはばれていないだろう。が、俺が連れていくと攫ったと疑われて、牢屋で犯罪者だ。

 誰か、城の知り合いに任せる必要がある。

 そんな知り合いがいるわけがないのだが。

 

 

 

 どうにか城に伝手のある者を探す間に、フィルと遅い昼食をとっていた。

 そもそも、食事は既にして取ろうとは思っていなかった。だが、露店で売られている食べ物。

 外で肉を焼いたりしているため、タレや塩など香辛料の香しい匂いが鼻腔に入って空腹を刺激する。

 その結果、両側に露店の並ぶ道を歩いているとフィルが空腹でぐう、と腹を鳴らす。

 

 フィルはお腹を鳴らしたことで恥ずかしくて顔を赤くし、俯いている。

 こちらには目を合わせようとしない。

 

「何か食べるか?」


 その言葉に顔を勢いよく上げ、目を輝かせている。

 赤くしていた顔はもう戻っていて、子供相応の顔をしていた。

 さっきまで警戒してか人形のような無の顔をしていたが、こっちが素の顔なのかもしれない。

 

「何が食べたいんだ? 好きなものいいぞ」


「えっと、それじゃあアレ」


 そう言って指差した先には肉串のお店があった。

 店まで行って何を買うかと聞くと、ん! と指差したのはオークの肉だ。

 脂身の多いオークの肉は非常に美味で、子供なら好んで食べるはず。

 タレ味を一本買ってあげた。

 俺も何か買おうかと選ぶ。前にオークの肉を食べたが、脂身がくどくて別の肉を選ぶことにする。他にある肉はオーク含めて二種類。リザードマンの肉だ。

 

 塩味を買い、ベンチまで向かってフィルを座らせてリザードマンの肉串を食べる。

 リザードマンの肉はオークと違って脂身は少なく、しっかりと肉の旨味が詰まっていた。

 魔物の肉は魔力が詰まっているからだろうか? 魔物の肉は美味しい。不味いのもあるが。

 

 食べていると、隣から視線を感じてそちらに目を向けるとじー、とフィルが観察するような眼差しで見ている。

 肉串には手をつけておらず、こちらを注目していて食べないのだろうか。

 フィルとは目線が同じはずなのに視線はかみ合わず、どこを見てるんだろうか、と思いながら頬張る。

 モグモグと肉を噛んでいると、ようやくフィルの視線が肉串に向いているのが分かった。

 

 もしかして、食べ方が分からない?

 

 彼女は城で住んでいる、と教えてくれた。

 王族とは言っていないのだから、王族ではない。関係者かもしれない、と少しばかり現実逃避しながら肉串を頬張る。

 もうなくなりそうだ。

 いい加減、食べ方を教えたほうがいいだろう。口の端から涎が垂れようとしている事だし。

 まるで、餌をお預けされている犬だ。

 

「こういう風に食べるんだ」


 肉を齧り、串から離して食べる。これで最後の肉を食べてしまった。

 モグモグと肉を齧ってフィルの方に目を向けると、一口で食べようとするが食べきれず、ハムハムと肉を齧っている。

 小動物のようで、可愛い。

 まだ足りないな。追加で買いたいけど……。

 

 フィルの方を見ると、まだ食べている途中だ。三分の一にもまだいっていない。

 置いて買いに行くのは無理だな。食べ終わるのを待つ事にした。

 

 彼女をどうやって返すか……。

 手持ち無沙汰になると、そんなことを考えてしまう。

 彼女を連れてお城に行けば、怪しまれて捕まる。なら、彼女を誰かに頼むべきだ。

 ただ、普通の人に頼むのとは違う。城と関わりのある人間だ。

 関わりのある人間なら、信用度が全然違う。

 

 その関わりのある人間。知り合いはいないが、一番近い人間は冒険者ギルドのマスターだろう。

 そう考えると、冒険者ギルドに行くのが一番だ。次、行くとすると冒険者ギルドか。

 

 考え事をしている間にフィルが一つの肉串を食べ終え、追加を買うことにした。

 今回は二本。

 両手に一本ずつ持つ肉串にフィルは嬉しそうな顔をする。

 子供なら両手に一本ずつ持つのは嬉しいもんな。

 

 彼女の笑顔を見るだけで、癒されるような気がした。

 もしかして、幼女趣味か?

 その癒される、という気に思わずそんな言葉が脳裏に過る。

 いやいや、ないない。あんな糞野郎とは違うんだ。

 脳裏に過った言葉はすぐに消え去った。

 

 俺も新しく肉串を一緒に一本買い、今回は早く食べるわけにはいかずゆっくり食べていく。

 いつ冒険者ギルドに行こうかなと考えていると、

 

「カイン!」


 声を掛けられ、振り向くと戦士がいた。

 

「よう! 宿を教えに来たが……誰?」


 彼の顔を見て、ここで待っている理由を思い出す。

 フィルとの出会いが印象的すぎて、戦士との約束が吹っ飛んですっかり忘れていた。

 

「迷子なんだ。家に帰してあげたいんだが、ちょっと訳ありでな」


 フィルに聞こえたら悪いと思い、小声で隣まで来てもらって耳元で喋る。

 人前では喋れない内容だとすぐに理解し、頷く。

 

「宿に行く前に、一旦彼女を送りたいんだ」


「分かった。どうすればいい?」


「まず、冒険者ギルドに寄りたい。それで……」


 視界の端に一人の女性が写る。

 女性が早歩きで路地裏に入っていくと、その後を遅れてマントで身を包んで隠す男が追いかけていく。

 怪しい。

 人混みに紛れ込めば、市民のように見える装いだ。

 しかし、暗殺者として育ってきた嗅覚が疑えと囁いている。

 

「すまん。ちょっと用事ができた。フィル、このおじちゃんに美味しい物でも買ってもらえ」


 屈んで目線を合わせ、頭をポンポンと触る。

 コクコク、と頷くフィルの両手にはまだ肉串が残っていた。

 食べ終わるにはまだ時間がかかるだろう。

 それまでに終わらせないと。

 女性の後を追った。

 

 人混みを抜け、肉串を食べながら路地裏の中に入る。

 裏路地は人一人が十分に通れるほどの幅で、道の先に女性が一人いる。こちらに背を向けていて後ろ姿を見て、先に入った女性だと分かった。

 この女性を追いかけていた奴はどこだ?

 探すような素振りをすれば、相手にバレてしまう。

 

 顔は動かさずに視線だけで探していると、

 

「ずっとつけていたのは分かっていたわ」


 勘違いをして……彼女を追ってきたのは俺も同じか。否定できないな。

 反省、と思いながらも肉串を食べる。

 

「だけどもうこれまで。いい加減、決着をつけましょう!!」


 風が起きるような勢いで振り向く女性。こちらに敵意を向けていたが、じっくりと確認したあとに首を傾げる。

 

「誰?」


 こっちが聞きたいんだけど。

 まあ、女性が俺をストーカーだと決めつけなくなっただけでもよしとするか。

 女性が俺をストーカーではないと分かり、あれ~? という感じに首を傾げたりして身体全体で疑問符を露にしている。

 少女、よりも美女に近い女性。

 見た目年齢でいえば、二十後半っぽいかもしれないが半ばにも見える。

 

 年齢の割には少し幼ない顔つき。幼い顔つきの割には大人びた表情で、その子供っぽい仕草をすると、少し違和感を覚えてしまう。

 身体付きは平均的。どこか秀でている部分があるという訳でなく、全体的に一般的。一言で済ませるなら普通。

 暗めの紺の髪はショートカット。肩口まであり、綺麗に整えられている。

 翠色の目に魔法使いのような淡い青のマントを羽織り、その下には影ではよく見えないが紅のロングスカートが見えた。

 

 見た感じでは、魔法使いだ。ただ、杖を持っていない。まあ、収納しているのだろう。

 問題は、ストーカーのほうだ。

 どこに消えたんだ? 姿形、どこにもいない。

 ん? なんか見られてる?

 

 上から視線を感じる。暗殺者として生きたからだろう。こういう視線は感じやすい。

 ここは一本道。周りに隠れる所はないし、魔法で擬態したとしても上から視線を感じるのはおかしい。となると、上に逃げたか。

 

 フィルのこともあるし、早めにケリをつけたいな。

 決意をして顔を上げると、やはり暗殺者がいた。

 建物の壁に貼り付き、こちらを見下ろしている。

 手足に粘着物が付いているかのように、器用に手の平と足の裏を壁に着けていた。

 よく見れば、手首足首に何やら黒い物が巻き付いている。

 その根本にあるのは、影だ。

 

 ああ、影魔法の使い手か。本当、暗殺者は影魔法を使うよ。

 自分が使えるからこそ、一瞬で相手の魔法を理解した。

 暗殺者と目が合う。

 来る!

 

 女性に注意しようと顔を下げると、その女性は俺が視線を上げた事に釣られて見上げていた。

 その視線の先には暗殺者がいるのは必然。

 注意しようとしたが、それより先に暗殺者が動く。

 

 魔法を解除して、飛び降りてくる。

 それに合わせて、女性が魔法を使う。右手の隣に、風の渦のようなものが現れた。

 ただ、それよりも先に暗殺者のほうが速い。

 

「こっち来い! 飛べ!」


 年上だろうが、咄嗟の事にため口になる。

 だが、そんなこと気にしていられない。命がかかっているのだ。

 女性は俺の言葉に、魔法に向かって伸ばそうとしていた右手を躊躇して止める。

 彼女の目線は変わらず、暗殺者のほうに向いていた。

 魔法を使い暗殺者を倒すのと、暗殺者の凶刃が襲い掛かるのを脳内で計算しているのだろう。

 

 その計算は一秒程度で判断し伸ばしていた手を戻して前に、俺の方に向かって飛び込んでくる。

 キャッチする余裕なんてない。

 もしすれば、明らかな隙となる。それは女性も分かっているのだろう。

 彼女は少し手前で受け身を取って着地し、ゴロゴロと転がって起き上がった。

 

「お姉さん。無事?」


「ええ、助かったわ」


「下がってて、守るから」


 転がったせいで髪が崩れた女性は、後ろに下がって暗殺者の方を向く。

 その前に入って、彼女の壁となる。

 壁から降りた暗殺者は、着地して尚襲い掛かってくることはなかった。

 俺が終始警戒していたからだ。

 迂闊に襲ってくることはなかった。

 

 さて、どうするべきか。

 

 俺と女性、暗殺者が向かいあっていた。

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