54話 暗殺者は強硬捜査をする
「待て! カイン!」
早足で急ぐカインにティシアが追いかける。
彼女はカインよりも小さく、歩幅が狭い。故に同じように早足で追いかけても追いつくことはできず、走っていた。
「ちょっと待ってほしい! どこに行く気だ!」
やっとの思いで追いつき、ティシアはカインの肩に触れて引き留める。
「どこに行くかって? それは簡単だ。大臣派の騎士の家だ」
「騎士だが貴族だ。そんなことしてただでは──」
ただで済む訳がない。
貴族は権力を行使する。それは裏の世界に住む人間も使うことができ、悪ければ死ぬことになる。
しかし、それはカインも分かっていた。
「ただで済む訳がない? そりゃあ知ってるさ。だがな、こっちはフィラルシア様の命がかかってるんだ。ならティシア、一つ聞きたいが騎士一人と王女一人の命、秤にかけるのはどっちだ?」
「それは……」
顔を伏せ言い淀むティシア、それが答えなのだ。
彼女も既に答えは出ている。しかし、突き進むカインを見て、止めない訳にはいかなかった。
誰も止めなければどこまでもいってしまう、ティシアはそんな気がしていたのだ。
「気持ちは分かるさ。だがな、こっちも黙ってられねえんだよ。あんな事をされて黙って見てろって? 御免だね。それに、あっちは過去にも反逆しようとしていたという話じゃないか? 自業自得なんだよ」
言い終えるとティシアは何も言い返す言葉が見つからず、止めないと悟ってカインはまた歩き出した。
「カイン!!」
背後から呼び止められた。もう止まらない。
時間が一刻でも惜しいからだ。
「大臣派の騎士の家がどこか、分かるのか?」
足を止めた。
……どうしよう、分からない。
顔から冷や汗が流れる。
ぶっちゃけて言えば、言われるまで気づかなかった。
ティシアに止められなければ、どこか分からないまま突き進む所だ。
振り向き、ティシアの所まで戻る。
「いえ、分かりません」
その解答にティシアはやれやれ、と頭を左右に振ってため息を吐く。
「だと思ったよ。カインは最近、ここに来たばかりなんだ。だから知らないかも、とは思ったけど本当に知らずに行こうとしていたなんて」
「すみません、返す言葉もありません」
一気に形成が逆転していた。
さっきまではカインのペースであったが、今ではティシアが完全に会話の主導権を握っている。
「ラディアント第一王子の所に行って、大臣派の騎士のリストでも貰って来るといい」
「そうするよ」
ラディアント第一王子の元に足を進めようとした時、隣からため息が漏れたのを耳は逃さなかった。
「いいよな、カインは仕事があって。私は……」
彼女の言いたい事は分かった。理解した。
護衛である前に元暗殺者であるカイン。そんな彼は今の状況であれば仕事として向いている。
それに対し、ティシアは生粋の騎士。護衛することが本命であり、今回のような仕事は特に向いていない。
なんて励まそうか、と言葉を考えた時ふとある人物の事を思い出す。
「ティシア、頼みたいことがある」
あのあと、ラディアント第一王子から大臣派の騎士のリストを貰う。そのリストには家の情報もあるため、探す手間が無くて済む。
「さて、今日は三件だ。平和的な話し合いで済めばいいが」
空は暗く、月明かりで光が満ちている。
その暗闇の中で、屋根の上に立つカインは違う屋根に跳んで移動した。
貴族の家に見張りがあるか、と言われればない事が多い。
いるとしても貴族が雇った私兵。
騎士は国の宝であり、一貴族が手軽に自宅の警備に入れるほど甘くない。
そういう理由もあって警備をするのは私兵なのだが、その私兵も魔法学院を中退した者や魔法の素質がない者だ。
城に入るよりも気楽である。
隠密魔法。簡単に言ってしまえば気配を操る魔法であり、それを使えば侵入は容易い。
さて、ここか。
お目当ての扉の前に辿り着く。
本来なら調査をじっくりとしてから家に侵入するのが基本なのだが、この手にはラディアント第一王子から入手したリストがある。
お蔭でどこの部屋にいるかも分かるし、扉の施錠情報も丸わかりという訳だ。
この扉は……特定の魔力で反応して開くタイプの扉か。となると、ここの一族でしか開かないな。
開けるには一族の魔力が必要であり、開ける方法は三つ。
一つ、親族に開けてもらう。一つ、気を失っている時に無理矢理開ける。一つ、一族の魔力を封じ込んだ魔石を使って開ける。の三つである。
だが、それ以外の方法で入ることが一つだけある。それは賭けに近いがやるしかない。
カインの足元が影の中にどんどん沈んでいく。
それはまるで底なし沼に落ちているかのようだが、不思議と不快感はない。
目を閉じて数秒、目を開けるともう部屋の中に入っていた。
影魔法、影移動。影の中を自由に移動できる魔法だが、基本的には見える場所しか移動しない。
ただ、見えない場所も移動できるがそれは賭けだ。
何かしらのトラップがある場合、避ける事は不可能だからである。
なので基本的には推奨しない。
命を狙われる人間ほど、寝室の守りが手薄な訳がないのだから。
ただ今回は騎士。命を狙われる可能性が限りなく低く、トラップはなかった。
騎士はベッドの上ですやすやと寝息を立てている。
さて、聴取の時間だ。
ナイフを引き抜き、気配を殺して近づいて騎士に馬乗りしてナイフを持たない手で首を絞める。
酸素が入って来なくなり、目を覚ます騎士。
目の前に写り込む黒の男に声を上げようとする。しかし、ナイフを開けた口の中に半ばまで突っ込まれて声を出すのをやめた。
本気でやりかねい、そう思ったからだ。
相手は殺すことがいつでもできる。しかし、生かすということは何かしらの使い道があるから。
ただ、寝起きの騎士にはその判断はできずただただ恐怖で声を出すのをやめた。
想像してしまったのだ。自分の口の中にナイフが突っ込まれる所を。
「俺が喋る事にお前は頭を僅かに動かせ、いいな? 従わなければ殺す。余計な動きをとっても殺す」
その声はどこまでも冷たく、それが余計に凄みを増していた。
コクコク、と僅かな動きで顔を上下に振る涙目の騎士。今の彼にとって、できる事はそれだけだ。
「貴様は大臣派だな?」
こくり、頷く。
「フィラルシア様が誘拐された。何か知っているか?」
ふるふる、と首を横に振る。
必死だ。自分が生きる事に。
ここで嘘を言うこともできる。しかし、自分が死ぬことを考えた時にそんな嘘を付くほどの余裕はなかった。
首を横に振ってから、男は何も言わなくなった。
ただ、まるで嘘を付いているか確認するような鋭い目つきに睨まれ、生きた心地がしない。
「嘘を付いているな」
心臓に刃物が突き刺さるような衝撃が、騎士を襲う。
嘘は付いていない、本当だ!! 信じてくれッ!!!
騎士は心の叫びをあげる。しかし、口の中にナイフが突っ込まれている以上、声を上げることができず必死に首を横に振った。
涙目だった目からは本当の涙がこぼれ落ち、必死に命乞いをする。
「そうか、死ね」
ナイフを突き刺すような動きをしてみせる。すると、騎士は意識を失った。
「三件とも、外れか……」
カインは一仕事を終え、リストを見直す。
今日襲撃した三件とも、知っているような感じはしなかった。
まあいい。このまま釣りをするとしよう。そうすればいずれ大物が釣れる。
カインはその日の夜以降、大臣派の騎士を、貴族を襲撃するようなになった。
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