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6話 誘拐

 無事に冒険者になれた。

 なってもそんなに変化はない。

 幼少の頃だったら、期待で胸一杯。だったかもしれない。

 しかし既にカインは十八。

 十五で成人なため、大人の仲間入り。

 子供の頃に暗殺者として生活したためか、精神が異常なまでに成長した。

 

 今思えば、幼少の純真な心はどこにいったのだろうか?

 うーん、分からない。

 

「登録できたか?」


 少し考え事をしていると、戦士に声をかけられた。

 

「ああ」


 首にかけた認識票を見せる。

 鉄の認識票。一番最低のDランクだ。

 これで彼らの仲間入りだ。

 

「これからどうする? 何か簡単な依頼でも一緒にやるか?」


 戦士からのお誘い。非常にありがたいが、やることがある。

 今日中に宿を見つけておきたい。

 

「悪いが、宿をみつけておきたいんだ。流石に野宿はしたくない」


「それなら俺の住んでる宿ならどうだ?」


 まさかの戦士からの紹介。

 宿の良し悪しは分からないので、ここは素直にお願いしておくことにする。

 

「なら頼む。王都の宿なんて、どこも知らないんだ」


 暗殺者だった頃に王都レルベンにいた事はあるが、あのときは全てやってもらった。

 食事の準備、寝床。色々と。

 だから、どこに宿があるとかは知らない。

 それを教えてくれるのは非常に助かる。

 

「よし。紹介するけど今からにするか?」


 宿を探すからと昼から探そうとしたが、教えてくれるということなので時間が余る。

 夕方前に紹介してもらうので大丈夫だろう、まだ部屋は余っているはず。

 

「昼過ぎにしよう。その時に紹介してくれ」


「よし! そうと決まればこっちは明日に備えて準備をするとするか。そっちはどうする?」


 昼時、ということもあって食事を取りたい。次いでに、色んな所を見ておきたい。

 

「観光でもしてくるよ」


「分かった。なら、中央の噴水広場に集合しよう」


 集合場所を決め、彼らと別れた。

 

 

 

 昼は食事時。それ故に出店が多く並んでいた。

 パンに肉を挟んだサンドイッチ。肉串、など。

 中でも魔物のオークの肉を使った肉串に目を惹かれ、思わず買ってしまった。

 背もたれのないベンチに座り、肉串を食べる。

 

 豚の魔物だけあって脂身が多くタレもあり美味であるが、どちらかというと脂身の少ない方がカインは好物であった。

 肉串を食べながら、一人故か少し考えてしまう。

 

 どうして人の名前を覚えなくなったんだろうか?

 カインは、人の名前を覚えるが苦手。いや、覚えようとはしない。

 それは何故か? 決まっている。暗殺者をしていたからだ。

 人を殺すという仕事。逆に殺される事も覚悟した上でやらないといけない。

 

 暗殺者として生き、今まで多くの師がいた。

 その彼ら全てが故人だ。今まで育ててくれた師全てが仕事をして返り討ちに合っている。

 他にも色々な人達が子供だった時にお世話になった人達もいる。その彼らも死んだ。

 それからだ。名前を覚えるのをやめたのは。

 覚えても死ぬ。なら覚えない方が良い。

 

 覚えればそれだけ感情移入してしまう。

 見知った人が多く死に、心が削れていく。

 それを防ぐために名前を覚えるのをやめた。感情移入をやめた。

 ただ、もう暗殺者をやめた。もう覚えてもいいのではないか?

 

 本音を言えば、彼ら戦士たちあの四人のパーティーと一番初めに出会えたのは凄く嬉しい。

 彼らは友好的だ。これからも今の関係を続けていけるはずだ。

 そのためにも名前を覚えないといけない。

 

 二本、三本と肉串を食べながら名前を覚えるように頑張ろうと意気込んでいた時、違和感を覚えた。

 路地裏の入り口にフード付きマントを羽織った三人が中に入っていくのが見える。

 マントの色は黒。誰にでも目についてしまう。

 しかし、まるでそこに何もいないとばかりに見られている様子がない。

 

 さらに、その三人の中に一人、背丈の低い者がいる。

 明らかに子供だ。

 彼ら三人の内二人の背丈の大きい、大人が路地裏に入るときに左右を見渡して確認している。

 傍から見れば、完全に誘拐犯だ。

 

 気になる。

 好奇心で思わずついて行ってしまう。

 パク、パクと肉串を食べながら路地裏に入る。

 日の光が入ってこないせいで暗く、人通りは少ない。道は五人が横に並んで通れるほどの狭さだ。

 

「こんな所で何をしてるんですか?」




 重要目標を確保して運搬している時だった。

 依頼人が用意してくれたフード付きマント。これは人の注意を引かないようにする魔法道具≪マジックアイテム≫で、かなり貴重なものだ。

 それを前金代わりに渡してくれたのは、それだけ重要且つ危険な依頼。

 そして、期待されているということだ。

 

「こんな所で何をしてるんですか?」

 

 だからこそ、声をかけられるとは思いもしなかった。

 振り向くと、そこには少年が青年に成長しかけているような、そんな男? 女? が立っている。

 

 声は中性的だが男。しかし、顔が女顔でどちらだか分からない。

 全身黒の服に黒いフード付きマント。

 それに、このマントの効果があるにも関わらず見つけられるというのは考えにくい。

 何かしらの訳があるはずだ。

 

 警戒して目の前の人間を観察していると、首からかけているそれを見て警戒を解く。

 

「おい、首のものを見ろ」


 言われた相方が声をかけた男の首を見る。

 あるのは認識票だ。

 冒険者の身分証であるそれは、自分のランクを意味する。

 ランク=強さ。

 認識票は鉄。一番下、要は弱いという事実だけだ。

 

「俺が連れて帰る。お前はアレを倒せ」


「はい、先に行っておいてください」


 これで大丈夫だろ。

 自分よりは弱いが、相方を務めてきた男だ。

 要領は良いし、頼りにしている。

 重要目標を連れて遠ざかろうと一緒に歩きだした時、後ろから気配を感じた。

 

 思わず振り向くと、そこには先程の男女がいる。

 しまっ──。

 

 相方に任せていた事。そして相手が弱いと思い、侮っていた事を含めて油断していた。

 重要目標と手を繋いで一緒に歩いていたため、空いているのは片手。

 利き手で手を繋いでいたため、最初は利き手で防ごうとする。しかし、手を繋いでいる事に気づいて空いたもう片方の手で防ごうとするが、遅かった。

 

「ア゛ッ」

 

 腹部に右拳が突き刺さった。

 その勢いに身体がくの字に曲がり、肺に溜まっていた空気が吐き出される。

 思わぬ強烈な一撃。その痛みで意識が刈り取られた。

 

 

 

「やっぱり、初めに倒すのは強くて敵を侮る奴からだよね」

 

 一番強い相手を優先的に倒すのは定石。

 ただ、倒せないのが当然なのだが油断している場合は違う。

 油断しているなら真っ先に狙った。

 振り向いた隙に、足止めしようと向かってくる相手が瞬きをした瞬間に隠密魔法を起動。

 

 意識の外に抜け出して横を通り過ぎて、誘拐犯を一撃で昏倒させた。

 やはり、初見で隠密魔法は便利だ。奇襲に最適だ。

 残りは一人。あとはどうとでもなる。

 

「てめえ!!」


 もう一人の敵が憤怒の表情で憤る。

 マントの下に隠してある剣を抜いた。

 斬られるのは怖いが、怒りの感情に飲まれた相手は御しやすい。

 さて、殺さないで無力化するのは骨が折れるが、もう暗殺者をやめたのだ。そのための一歩だと思えば気分が楽になる。

 

 武器は何一つ使えない。殺すからだ。

 影魔法も、日の光が入ってこないここではあまり効果を得られない。

 縛りだ。良いハンデだ。だからこそ、油断しない。確実に倒す。

 

「うわああああああああああッ!!」


 男が剣を上段に、声を上げながら吶喊してくる。

 隙がありすぎる。初心者か? という疑問が湧く。

 もしくは、知り合いがやられたことで気が動転しているのかもしれない。

 まあ、仕事が楽で済むのだから嬉しい限りだ。

 

 右手の軽くブレスレットを叩く。手首から反りのある魔法刃を展開。

 突然の事に、男は困惑したがすぐに行動を再開。上段に構えた剣を振り下ろす。

 戻りの速さ、流石裏の仕事をしただけはある。が、遅い。

 剣とぶつかり合うように、魔法刃を右腕を振り上げる。

 魔法刃と剣。ぶつかり合うそれはまるでバターのように剣が斬れていく。

 

 一瞬だった。斬れて折れた剣は弧を描いて後ろに飛んでいった。

 目の前で男は止まる。

 剣が文字通り斬れる、その斬れたのが剣だと誰が予想しようか。

 その僅かな隙を見逃さない。

 手の平を向け、顎に掌打を叩き込む。


 衝撃が頭から脳に伝わり、脳震盪を起こす。

 ぐわん、と頭が揺れて身体が前後に揺れて倒れようとして膝をつく。

 足が震えて、立ち上がろうにも立ち上がろうとしていない。

 

「ほい」


 軽い口調で顎を蹴り上げ、気絶させた。

 

 

 

 仲良く気絶させた二人を建物の壁にもたれさせる。

 綺麗に横並びにし、身包みを剥ぐ。

 勝者の特権だ。金目になる物、全てを奪う。

 何か、職業が暗殺者から盗人とグレードダウンしているような気がするが、気のせいだろう。

 

 世の中、そう思ってしまえばそうなってしまうもの。盗人だと思わなければ問題ない。

 探っていると、隣から何やら騒がしくなる。

 目を向けると、誘拐犯が攫おうとした少女。彼女に触れようとする浮浪者がいた。

 髪がぐちゃぐちゃ、不衛生。偏見だが臭そうな男だ。

 

「おい、触れるな。それは俺のだ」


 剥いだ金の入った袋一つを浮浪者に向かって投げる。

 袋は浮浪者の所まで届かなかったが、地面に落ちて金の音に浮浪者がお金だと気づいて慌てる素振りで取りに行く。

 浮浪者とすれ違い、フードを被る少女の前に立って目線を合わせるためにしゃがむ。

 

 こちらと目線は合うが、焦点が定まっていない。

 意識があるのかないのかと問われれば、ないはずだ。

 フードを外すと、それが余計に分かる。

 目が濁り、焦点が定まらずどこか一点を見続ける。まるで人形だ。

 実際、フードを外したことで露になった風貌は驚くほどに綺麗。

 艶のある金色の髪。藍色の目。顔は整っていて、目が大きく可愛らしい。

 まだ幼いということもあって愛玩のような可愛さがある。これがどれだけ成長して可愛くなるか、期待してしまう。

 

 首から金色の鎖のネックレスをかけている。

 胸元には紫紺の宝石があり、それが怪しく光っていた。

 これだな。魔法道具の類か、もしくは呪いか。

 

 ネックレスに触れてみる。

 見て、触れて、普通のだと思う。

 呪いのアイテムではないように思える。

 そもそも、誘拐するために呪いのアイテムを使うか?

 

 危険があるから使わないだろうな。

 そうなると、選択肢としては魔法道具の一つだけ。

 呪いのアイテムではないだけマシだ。

 金のネックレスを外す。

 すると、焦点のない眼が色彩が戻りはじめた。

 

 完全に戻ると、幼女はえ? え? と忙しそうに辺りを見渡して困惑している。

 今までの記憶がなかったのかもしれない。

 

「大丈夫?」


 声をかけると、警戒した素振りこちらを見ている。

 

「誰、ですか?」


「俺はカイン。君があれに攫われているのを見て助けたんだ。攫われている記憶はある?」


 幼女は少し考えて、首を振る。

 

「ないんだね。まず、名前を教えてもらっていい?」


「……フィル」


 かなり警戒されている。まあ、当然だろう。

 いきなり知りもしない男が現れて信用されるはずがない。

 

「そうか、良い名前だね」


 できるだけ安心してほしいように、目線を合わせて優しく声をかける。

 

「まずここから出ようか。ついてきて」


 こんな暗い場所にい続ければ、こっちが誘拐犯に間違えられる。もしくは、性犯罪者だ。

 どうしよう。今の犯罪歴が泥棒に誘拐犯か性犯罪者。

 糞野郎じゃないか。

 

 後ろを警戒しつつ、先を歩いていく。

 流石に横に並んで歩くわけにもいかない。

 だからこそ前を歩くのだが、その分後ろががら空きになる。

 時折、後ろに顔を向けながら歩いていると、視界の端に倒れた男達が写った。

 

 ……あ、そうだ。

 

「ちょっと待ってろ」


 手でフィルに止まるように合図をし、倒れた男達に近づく。

 彼らは俺が倒した誘拐犯二人だ。

 金目のものは盗んだが、マントを奪……回収するのを忘れていた。

 俺は泥棒じゃない。ただ、ごみを回収するだけ。

 暗示でもかけるように、自分の事を泥棒ではないと心の中で思い続ける。

 

「何をしてるの?」


 コソ泥している所を見られ、フィルは不安そうな顔をしている。

 いきなり盗人行為をすればそんな風に見られるのは当然だ。

 ただ、これはしょうがない。相手には不相応なものだ。こちらで有効利用するしかない。

 

「ちょっとこれを貰おうと。襲ってきたんだ、それぐらいいいでしょ」


 回収を終え、マントを影の上に落とす。

 すると、影がトプンッ、と水溜まりに物が落ちたように波紋が広がって影の中に入っていく。

 影魔法の一つ、影収納だ。

 魔力の量によって収納できる量が変わり、魔力の量が多いほど収納できる。

 便利な魔法ではあるのだが、利点ばかりではない。致命的な欠点が一つあった。


 それは、何が出てくれるか分からない事。

 収納はできるのだ。ただ、目当ての物が出てくるとは限らない。

 狙ったものが出てこない、というのは致命的で咄嗟な時に出そうと思っても違う物が出てくる可能性があるため、事前に出す必要がある。

 だが、収納というのはそれだけで便利だ。余分な荷物を持たなくていいのはそれだけで利点だ。

 

「よし、行こう」


 マントを収納し、まずはこの薄暗い路地裏から出ようと移動する。その後ろをフィルはついてくる。

 裏路地に出ると、先程の事が嘘のように日常が流れていた。

 この日常を崩さないためにも、フィルを早く住んでいる家に送らないといけない。

 しかし、送っても誘拐の手引きをした人間がいるはず。

 できればフィルの家族に説明できる人がいるといい。

 

 そんな事、望みはするが無理なのは分かっている。

 自分のできる事をしよう。

 

「フィルの住む家がどこか教えてくれ」


 膝を地面につけ、目線を合わせてフィルがどこに住んでいたか尋ねる。

 

「あそこ」


 フィルが左手で指を指す。

 その先にあるのは巨大な白亜の城がある。

 ……城? もしかして、王族?

 彼女をつれていくことが無理なのではないか、と思い始めてきた。

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