52話 人の皮を被った
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前に一度、話した事があった。
カインが直接戦闘に参加するのは苦手で支援に徹する、と言った時にもし相手の数が多かった場合にどうすればいいかを相談したことがある。
ティシア一人が戦い、カインはその支援をする。そして敵が仮に二人としよう。
その二人を一人で相手にしないといけない。明らかに不利だ。
支援をする、といっても一人で戦うのは厳しい。
それだけ数の差というのは致命的だ。
どうすればいいか相談した時、彼は答えた。
「魔法を使ってみれば? ティシアは水の魔法が使えるんだ。なら、騎士もどきを作ればいい」
それだと、戦闘しながらは操作が難しい。
前に一度同じ事を思ったことがある。
戦いは数だ。数の多い方が戦いに勝つ。
しかし、実際にやってみれば思っていたことと全く違った。
戦闘中は自分の事で手が一杯。
そのせいで人形の操作が覚束なくなり、すぐにやられてしまった。一度実験していこう、使うことはなくなった。
「一度使ってみたけど、全然駄目だった。戦闘中に操作なんて戦うことで手一杯なのに」
「別に本当に騎士にする必要なくないか? 人型の水作って抱き着いて拘束すれば、それだけで時間が稼げる」
確かに。
言われてみて、気づいた。
抱き着くというだけなら、操作は簡単。それに、抱き着く人形を倒すのにも少しばかり時間を稼げる。
「その時間を稼ぐ間に、俺も参加すれば一時的にだけど一対二の状況を作れる」
「その間、護衛はどうするつもり?」
「少しの時間だ。すぐに戻るさ」
そんな会話をしていたのを思い出す。
扉の前から後ろに跳んで距離を取る。
水の魔法で剣を生み出しながら、その前方に水の人形を幾つも生み出した。
まるでゾンビのように生まれる水の人形。それはただの壁、時間を稼ぐ。
「ゲイルバッハさん! 魔法で応援を。この数は流石に時間は稼げません」
「分かりました」
ゲイルバッハが魔法で騎士に応援を呼ぶ片手間で、側使えに指示を出して主のフィラルシアを守るように命令した。
側使えも魔法学院に入学している。だから魔法が使えるのだ。
彼女達だって自分の命を犠牲にしてでも守るはず。
これで少しは時間が稼げる。
そう僅かな希望、光が暗闇の中から見え始めた時、ダダダダダダダダッ!! と聞き覚えのないけたましい音とともに無数の水飛沫が顔に当たって濡らす。
壁として生み出した水の人形、それがいとも簡単に弾け飛んでている。
何故? 疑問が脳裏を過った。
倒すにしても、魔法で一層することができる。しかし、もう少し時間がかかるものだ。
その疑問は相手の持ち物ですぐに解消した。
先程の激怒した騎士より別の騎士二人が、その騎士の前に立って中腰になりそれを持っている。
銃。懐に仕舞えるほどの小型のもので、連射でき弾速はあるが射程と威力を犠牲にしたタイプだ。
あれは帝国が開発した武器、どうしてここに!?
闇市に流れてくることはある。しかし、その数は僅か。
ここにある、ということはそういうことでしかない。
水の人形を生み出しても、そんな余裕を相手が与えるとは思えなかった。
だから、速度を重視して水の壁を幾つも作る。
薄いだろう、脆いだろう。それでも、時間を稼げればいい。
「早く逃げて!!」
この部屋の出口は正面の扉。そして反対側の窓。
魔法があるから窓から飛び出しても無傷で済む。
すぐに逃げるように指示する間に、相手はまた水の壁を破壊して行動を開始する。
水を破壊した二人の騎士、そして激怒して今は威張ったような顔をしている騎士。それ以外の三人がフィラルシア様を捕まえようと、私を倒そうと動く。
この身を以て!!
フィラルシアを守ろうと、後ろに一歩だけ下がった時に身体がぐらりと揺れる。
何、これ?
視界が揺れる。ぐにゃぐにゃと物や人が歪む。
見たことのない景色に、脳の処理が全く追いつかない。
一人、こちらに近づく男がいた。
騎士だ。騎士の恰好をしている。それだけ見れば騎士ではあるが、帝国製の銃を見ていればどちらか分からない。
近づく騎士はゆっくりとした歩みで、不気味な笑みを浮かべていた。
「無臭の麻酔薬です。まあ、この声ももしかしたら聞こえていないかもしれませんが」
しかし、その笑みは歪む視界のせいではっきりと見えていない。声も鮮明に聞き取れない。
歪む視界、そして意識も徐々にぼんやりとしていく。
駄目だ、これは。
眠る、と認識した時に何が何でも起きてやろうと決意をするが、身体が言う事を聞かず意識が途切れる。
その視界の端で、何かが入ってくるのが見えた。
「なんだ、これは」
辿り着いた。
全力で走ったことでそう時間はかからない。
しかし、肩で息をして汗が顔や身体から垂れている。
ただその疲労は全く感じていない。目の前の景色を見ては。
ティシアが倒れている。ゲイルバッハや他の側使えも倒れている。
息はしているらしく、死んでいない。しかし、昏倒させられたのは事実。
フィラルシア様だけは無事だ。
彼女を拘束しようとした騎士の手が青く燃えていた。お守りの効果だ。作ってよかった、と心の底で思う。
部屋には騎士の恰好をした逆賊が六人。これはもう、そういうことだろう。
「お前ら、死ぬ覚悟は良いんだよな」
影収納から獲物を二本、真上に飛ばして握る。
剣を抜く、という動作すら時間の無駄だ。
握った物は短剣、そして斧だ。選り好みしている余裕はない。
カインを認識した時、倒れたティシアに跪いて何かをしようとした騎士が舌打ちをしてすぐに離れる。
その先はフィラルシア様、そして窓だ。
逃がすものか、一人たりとも逃しはしない。
駆けようとした時、ティシアに近づいていた騎士が顔で指示をした。
それはまた別の二人の騎士。手には帝国製の銃を持っている。
そういうことかい。
理解した。殺そうとして、止まる。
「おい」
それを感じ、理解した時低い声を漏らす。
血の匂いがしたのだ。ただ、この部屋から血は流れていない。
逆賊も怪我をしているようには見えない。
そして、その逆賊の首元に、うっすらと赤い血が付いている。
怪我をしておらず、血が付く。返り血とも思ったが、それにしては少ない。
そして何より、顔が明らかにおかしいのだ。
まるで、人の顔が付いたマスクを被っているような。
「おい、貴様ら。その顔は誰のだッ!!」
人のする事ではない。
そう理解した時、身体は飛び出していた。
全て書き終わりましたので、今日から毎日投稿していこうかと思います




