50話 異変
カインが襲撃されて少し日が経ち、その間にフィラルシア様は取り掛かっていたお守りが出来上がった。
「ようやく終わりました」
はあ、と深い息を吐く。
その声に安堵と安らぎが含まれていた。
「お疲れ様です。さあ姫様、お茶です」
作り終わった安堵からか解放感に浸っているフィラルシア様に、ゲイルバッハがお茶を渡している。
それを受け取り、飲む姿は本当に疲労が溜まっていたのが分かった。
イリスイス様との共同特訓をして、フィラルシア様にも自衛の手段が必要だと考えそのことを具申した所、毎日のようにお守りの作成を始めた。
それがどのような手段なのか、詳しくは分からなかったし理解もできない。
鍋に材料を入れ、グルグルと混ぜている。
それだけで疲れるとは思えないし、お守りも出来るとは思わないのだが、本当にできるとは思わなかった。
ティシアも当たり前のように見ているので、魔法学院で習うのだろう。
ようやくにして出来上がったお守りは丸い石の形をしていて、布の袋に入れて持ち運べるようにする。
これでフィラルシア様の守りはある程度、大丈夫になったはずだ。
守りが堅くなるのは安心できていいことである。
お守り作りが終わり、暗殺の対策も大体教え終わった。
そうなるとこちらも暇になり、やることは護衛の教育だ。
俺も元々は護衛。最初の頃は暗殺の対策として教える約束であったが、それも不要となると次にするべきは護衛の教育だ。
ただ、護衛の教育は教えるのはなく教わる側である。
護衛は主を守るのが仕事だ。
ただ、元暗殺者故に守りに対しては正直心もとない。
だから提案することにした。
「俺は守るといっても壁になることはできないからさ、役割分担をしないか?」
「役割分担? どのような感じで」
「俺は騎士と違って守る、という事においては不向きなんだよ。だから、やるのは先頭で索敵だったり侵入経路を確認。あとは姫様の側で不意打ちを防いだりとか」
暗殺者が護衛で主の前に立って壁になる、というのは想像でその壁が限りなく薄いように思えるのだ。
その薄い壁を有効活用するといったらもう、誰かに任せるしかない。
護衛は一人だけではない。ティシアもいる。
彼女は騎士だ。守る、という事に関しては完璧だ。
対して、俺は元暗殺者。
守る事は不向きでも、攻める事に関しては完璧。
攻める側だったからこそ、相手の心情や思考を読みとってどのように攻めるかも予測できる。
「俺は騎士のように正面から守る、というのは出来ない。だから、俺なりの守りをしたいと思うんだ。どうだろうか?」
それを聞いてティシアはふーむ、と考えこむ。
「うーん。即席の連携を取るのもまだ難しいと思いますし、それでいいんじゃない?」
了承は得られた。
適材適所。得意分野を生かしていけばいい。
そもそも、護衛をするといってもフィラルシア様は基本的にあまりどこかに出掛けるという事が少ないのが現状だ。
その理由の一つが誘拐である。
一度誘拐された事で周りとの交流を一時的に断っているのだ。
それにより外出する事が滅多に減り、娯楽に飢えている状態でもある。
だから、イリスイス様との共同特訓も一緒に参加する事になった。
フィラルシア様は外に出掛ける、という機会が限りなく少ない。
だからこそ、そこを重点的に守ればいい。
今もフィラルシア様が自室にいる間、その近辺の侵入経路がないかを確認している最中だ。
ティシアが中で警戒し、俺が外で見回って警戒する。
前ならここまで警戒することはしなかったが、少しばかり事情が変わった。
その出来事が起きたのは前日の事だ。
城の中、イリスイス様の特訓の帰りだ。
イリスイス様の特訓の日が唯一、城の中を自由に歩ける。
他の日に歩いていれば、まず厄介な騎士からちょっかいをかけられるてしまう。
それに護衛である身で主の側から離れる、ということができない。
だからこの時間が貴重なのだ。
フィラルシア様が離宮にいて離れているため、空気というものは感じられない。
今日は遠目でだが騎士の鍛錬を見た。それで分かった事だが、ピリついていた。
何が違うのかといえば分からないが、何かいつもと違うような気がしたのだ。
長年の勘だろうか、それとも経験か。
詳しい話はティシアに聞かないと分からない。
こういう場合、勘が頼りになるのだが……。
その後、ティシアに聞いてもいつも通りという答えが返って来た。
それならいいのだ。気のせいだ、と信じたい。
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