49話 大臣の派閥
大臣は仕事終わりに柔らかいクッションのある椅子に腰を下ろし、ワインを飲む。
匂いを嗅ぎ、ワイン独特の味を舌でゆっくりと味わう。
胃の中に入ったワインはぶでっとした腹の脂肪になり、蓄えることになる。
仕事で疲れた身体をワインを飲んでリラックスさせる、それは大臣にとって一つの楽しみであった
カインが襲撃されたその日の夜、いつものようにワインを飲んでいると、ある報告が上がって来る。
「何!? 影の王が襲撃された!?」
影の王の周りを観察していた派閥の仲間の一人からの報告に、大臣は驚きを隠し切れない。
周りには襲撃しないように、情報を密にしてきた。釘も刺した。
なのに何故襲撃したのか、誰が襲撃したのか。
「どこのどいつだ!?」
「騎士です」
その報告をするのは隠密を任務とする、特殊な訓練を受けた専属の騎士。
影の王は暗殺者。人の気配というのには敏感なはず。
それ故に尾行する、ということは気づかれる。
だから魔法を使って遠距離から観察をさせていたのだ。
「影の王に近づくまで分かりませんでしたが、近づいた事でようやく気付くことができました」
「どういうことだ?」
配下の騎士が言っている事がどういうことか、いまいち理解できなかった。
近づいたことでようやく気付いた? 近づかなくても分かるはずだろ。
「騎士が黒いローブを身に着けていました。フィラルシア様を誘拐する時に使用していた黒いローブだと思います」
黒いローブ、それは帝国が王族を誘拐する時に使用したものだ。
前回誘拐した時もこちらが手引きして誘い込んだのが、そういった類の道具は一切貰っていない。
ということは、だ。
「帝国のゴミ共め、騎士の繋がりを持っていたか!!」
激高した。怒りのあまりワインを持たない手で椅子の腕置きを叩き、頭に血が上っていくのを感じる。
立ち上がろうとするが、頭がクラクラしてすぐに腰を下ろした。
「あのゴミ共め……」
「どうしますか?」
「そんなもの、トカゲの尻尾を切るに決まっている!!」
前にした事と同じだ。
自分が失敗しそうになったら、その罪を味方に被せる。
今回の場合は騎士が明らかな敵対行為をしてみせた。
こちらと関係があることを、ラディアントにバレるわけにはいかない。
前回と違って、相手にある程度の権力を持っているし復讐心もある。
下手な所を見せれば。こちらがやられてしまう。
まずは仲間であった騎士を売る所からだ。
とある一室。
そこは狭く、明かりも机の上に置いてある蝋燭一つのみ。
蝋燭の火はゆらゆらと揺れ、周りと仄かに照らている。
その明かりを中心に男達が囲うようにして座っていた。
彼らの共通点はただ一つ、騎士が着る鎧を身に纏っていることである。
「私達は捨てられるようだ」
その渋い声に周りの騎士達は黙り、静かな空気が流れる。
先程まで、この部屋には大臣の声が響いていた。
それにより沈黙の時間が流れたが、すぐに怒号で充満する。
「ふざけやがって」
「大臣め! これほどしてやったというのに」
「裏切るというなら、それ相応の覚悟をしてもらわないとな」
彼ら騎士は立ち上がり、威勢のいい言葉を並べる。
影の王を殺す、という当初の目的があったがその全てが大臣の言葉を聞いて変わった。
その騎士達の言葉に、フードを深く被って顔を隠していた騎士はニヤリと笑みを浮かべる。
この場を開いたのは大臣の本心を聞かせるため。
都合良く聞こえた事が本当に喜ばしかった。
その笑みに周りの騎士は気づいてない。
彼らは妄信的だ。
自分らがより権力を持てるという未来を夢想する余り、目が曇って深く考えていなかった。
何故、大臣の声が聞こえているのか。
カインを襲撃してすぐにこの場を開かれたのか。
自分の都合の良いことばかりしか考えているため、気づいていない。
出来上がった狂信者により、急激に動き始めた。
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