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42話 教育を終えて

 イリスイス第二王女の初日の教育が終わった。

 彼女は学生の身である為、教育できる日が決まっている。

 そのため日数が少なく、可能な限り教育することになった。

 教育が終わって護衛の仕事に戻った時、フィラルシア第三王女にどんな教育をしたのか教えてほしいとせがまれてしまう。

 

 正面にフィラルシア第三王女は室内でお茶を飲み、少し離れたすぐに近づける位置に側使えのゲイルバッハが、王女様の後ろに護衛のフィシアが立っている。

 

「どんな教育をしたのですか?」


 目をキラキラと輝かせる。

 楽しそうに、ワクワクと言わんばかりに笑顔で溢れていた。

 娯楽がないのだろうか? 思えば、母親を見たことがない。

 何かしらの理由があるはずだ。

 

「イリスイス様のお願いで実戦形式の教育をしました。注意することなど教え、数回実戦をした感じになります」


 そう言うと、フィラルシア様の奥から強い視線を感じる。

 目を向けるとティシアが何故か意見するような目で睨まれていた。

 その理由が分からずにいると、後ろからの強い視線、気配にフィラルシア様は気づき振り向く。

 

「ティシア。何か言いたいことがあるの?」


 話を突然振られ、ティシアは動揺する。


「いえ、私は?」


 抗議するような視線をフィラルシア様に気づかれないようにしたつもりだったが、気づかれるとは思わず慌てていた。

 その姿にゲイルバッハは小さくため息を吐く。騎士として大丈夫か? という言葉を飲み込む。

 

「何を思ったのか、私が気になるの。言ってご覧なさい」


 目を輝かせて促す。

 その輝きがさっきまでとは違うような気がした。

 さっきまでは楽しそう、ワクワクといった感じだったが今は噂話に興味津々な年頃な少女という感じだ。

 ティシアがどうして睨んだのか、フィラルシア様の中で色々考えている様であり、少しばかり怖くなる。

 

 色恋系じゃないよね?

 

「では、言わせてもらいます」


 フィラルシア様の強い押しにティシアは根負けし、少し元気がないという感じに発言する。

 

「どうして私には実戦形式ではないんです? 少し羨ましいです」


 羨ましい、という言葉に反応してフィラルシア様の目の輝きが強くなった。

 うん、これは絶対に色恋沙汰を熱望する目だよね。

 何を考えているか、少しばかりの興味があるがその興味で身を滅ぼすかもしれないため何も突っ込まない。

 頭を切り替え、ティシアへの言い訳を考える。

 

「理由ですか?」


 簡単だ。地力が違う。

 強いのがどちらか、問われればティシアの方を上げる。

 魔力が多くても、戦闘経験の差があまりにも違いすぎるのだ。

 

「あなたに教えてなくても良い、と判断したからです。騎士としてある程度強いティシアなら戦わなくても暗殺者の視点を教えれば、ある程度仕上げてくれると評価していたんです」


 まだ短い付き合いだが、どれだけの力量があるか、集中して話を聞く態度を見て、理解しているつもりだ。

 それに、一番大きいのは手合わせをしているという点。

 そのおかげで大体は分かっていた。

 

 褒められたティシアは、頬を仄かに赤らめる。

 どういう風に見られていたか知らず、思わぬタイミングに心構えができていなかった。

 

「え、あ、その、ありがとうございます」


 自分より格上の相手にそんな風に思われていたことに恥ずかしくなり、戸惑いなんて返せばいいか分からず、言葉が詰まり最後は小声になってしまう。

 その様子があまりにも少女らしく、見た目が男装の麗人であるためかギャップの差が激しい。

 

 一言で言ってしまえば可愛いのだ。

 それに打たれたのは主人であるフィラルシア様である。

 見えない何かに心を撃たれたのか胸を押さえ、すぐさまこちらを向く。

 

「カイン、今のティシアを見て何か言うことはありませんか?」


 え?

 そんな返しされるとは思わず、頭がフリーズする。

 確かに可愛いとは思った。しかし、暗殺者故の教育で深く考えないようにしていた。

 だから、感想を求められるとは思わずになんて返せばいいか分からなくなってしまい……。

 

「その、可愛いとは思いました」


 迂遠に伝えるのではなく、何も包まずに剛速球を投げてしまった。

 その威力は絶大である。

 ぼふんッ!! という擬音がピッタリなほどにティシアは顔を赤くして爆発した赤い煙がでたように見えた。

 その威力はフィラルシア様にも訪れ、首をブンブンと振り回してカインとティシアを交互に観察する。

 

 これは貴族ではなく、もうただの一人の少女だ。

 それを嬉しく見守るのはゲイルバッハである。

 彼はもう何も言わなかった。普通ならば貴族らしくない振る舞いに、いつもなら叱る所だが、今回ばかりはただ、見守っていた。顔を僅かに綻ばせて。

 

 話し合いはティシアが復帰するまでの間、少しばかり休憩ということになった。

 彼女はまだ顔を赤くして、再起動している所だ。それと同時に、脳で情報の処理もしている。復活まで時間がかかるだろう。

 

「顔色変えずに褒めるなんて、カインは案外プレイボーイなんですね」


 からかうようにフィラルシア様は言うが、それは別の人を動かす言葉となった。


「姫様? どこでそのような言葉を」


 ゲイルバッハは笑顔を浮かべるが、その笑顔には不気味さがあった。こちらに声をかけられていないというのに、近くにいるだけで後ろに下がりたくなるような重みがあった。

 フィラルシア様は椅子に座っているため下がることができず、正面からその重みを受け止めている。

 

「……」


 答えは沈黙。何も言えず黙るフィラルシア様。

 

「あとで教えてもらいますので、覚悟しておいてください」


「……はい」

 

 フィラルシア様のお叱りが決まった時、ティシアの復帰が秒読み段階にいっていた。

 ビクンっ! と身体が跳ね上がらせる。

 

「あれ、私は?」


「ようやく動きましたね。それでは護衛騎士失格ですよ」


「す、すいません!」


 反応的に謝るティシア。だが、その原因を思い出して顔を赤く、こちらを見てさらに顔を真っ赤にさせる。

 それを見てフィラルシア様は凄く楽しそうだ。先程まで反省が嘘のようだ。

 

「それでティシアの言っていた教育の件なんですけど、私に良い案があるのです」

 

 パチンッ! と手を叩くフィラルシア様。笑顔なのがすごく怖い。

 

「ティシアが不満なのは、実戦ではなかったからでしょう? なら、一緒に受ければよいのです。私もどのようなものか、興味がありますし。良い提案でしょう?」


 良い提案ではありません、と断りたい所だが断ることもできず、ただただ頷くしかなかった。

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