40話 教育、再び
「イリスイスの教育をしてほしい」
それは前日の昼過ぎ、呼び出された時に言われた言葉だ。
「話は変わるが、魔法学院が今、どのような状態になっているか知っているか?」
「いえ」
そんな情報、どこからも入ってこないので首を横に振る。
「護衛訓練時に起きた誘拐。そして騎士の殺害。そのことで騎士の教育が見直しされた。それと同時に密偵探し、こちらに関しては私の駒で出来る限りのことはした」
確かに、あれはこの国とっても痛いはずだ。
王族の誘拐をみすみす見逃し、あまつさえ王族を救おうとした騎士も返り討ちに合っている。
面子が立たない。
「もう二度とこのような事を起こしてはならない。そこで、王族本人を強くしようということだ」
どうだ、とドヤ顔をするがそういう問題ではないと思う。
「まずは騎士を強くしたほうがいいのでは?」
「何を言っている? そんなことは確定事項だ。お前が先程言っただろう、護衛の騎士を強くするために、地力を上げようと騎士団の鍛錬に励んでいると」
すいません、騎士の皆さま。私の不用意な一言でより厳しくなると思います。
心の中で謝罪する。
「お前が地力を上げると判断したんだ。必要なのだろう?」
「ええ、まあ」
ラディアント第一王子の側使えに案内された部屋には、教育するイリスイスがいる。
白銀に輝く長い髪。幼いながらも冷徹な風貌。スラッとした身体付きだが、騎士になるためにしっかりと鍛えられ筋肉がついていた。
イリスイスの周りには騎士が三人。
誰も彼もが、こちらに負の視線を向けてくる。
学生の身だから、周りの騎士も学生で固めているかと思ったがそうではないらしい。
「始めてまして、イリスイス様。私はカインと申します」
跪き、頭を垂れる。
ここで従順な姿勢を見せないといけない。
そうしないと、周りの騎士が何をするか分からないのだ。
本当に嫌だ。早く帰りたい。
仕事がここまで嫌だと思うのは久しぶりだ。
「初めまして、イリスイスです。此度は僅かな時間を割いてまで私に教育をしてもらう事、誠にありがとうございます」
綺麗な声だ。まるで弦楽器のような。
だが、どんな顔をして言っているか分からず、怖くて顔を上げられない。
「いえ、滅相もありません。それで、教育はどこでやりましょう? 詳しい話は私も聞いていないもので」
「教育については最初一日だけは私が自由にして良いそうです。ですので、カインは二日目から自由に教育して構いませんよ。今日の所は一先ず私について来てください」
「畏まりました」
イリスイス第二王女とその護衛騎士達が移動したのを確認してから、こちらも移動を始める。
向かう先は外。少し離れた建物だ。その建物の近くでは、騎士達が鍛錬を励んでいた。
建物は室内で修練する場所なのか、かなり広い造りで頑丈そうだ。
壁際に色々な武器や防具が樽の中に乱雑に突っ込まれている。
「今日は私と戦ってもらいます」
「分かりました」
監視されながら戦う、というのは非常に緊張するものだ。
それに……。
イリスイス第二王女の周りにいる護衛騎士。その取り巻き達が悪意の籠った目で見られるのは気分が悪い。
その事を察したのか分からないが、イリスイス第二王女は護衛騎士を遠ざけようとする。
「護衛の皆様、申し訳ないのですが少しばかりここから離れてもらっていいですか?」
その言葉に護衛の騎士達はそんなことを言われるとは思わず、動揺を見せる。
「イリスイス様、なりません。このような汚らわしいどこの馬の骨かも分からない奴と一緒にいるのは!」
「そうかもしれませんね。ただ、もし私を殺せばそれこそ彼の人生は終わりでしょう。私からのお願いです」
「しかし」
護衛の騎士達がそれでも粘るが、イリスイス第二王女は自分の意思を曲げないため最後は騎士の方が折れた。
「そこまで言うなら分かりました」
仕方ない、と落ち込むように肩を下ろし納得していないが納得したような声を出す。
そして、こちらを敵意剥き出しの目で睨まれる。
はいはい、何もしませんよ。
ここまで目の敵にされると、本当にうんざりだ。
そもそも、何かするとは思っていないしそういう噂もでていないはず。
それなのにここまで睨まれる要因は、前騎士団長のフォードルを殺した他ない。
ただあれは昔のことで依頼であるからだ。無用な殺しはしないのに。
護衛の騎士達が建物から消え去ると、今まで感じていた息苦しい空気から解放されてか楽になる。
謎の解放感を感じていると。
「あまり見られていると、素が出せなくて大変なんですよね」
んぅ~と両手を組み、真上に上げて身体を伸ばすイリスイス第二王女がいた。
もしここに彼女の関係者がいれば、はしたないと叱るだろう。が、周りには誰もいない。
いるのは関係者ではない元暗殺者ただ一人。
「さて、私があなた、カインの事をどう思っているか知っていますね」
「ええ、まあ。殺したいほど憎い、ですかね?」
「そうです。私はあなたを殺したい」
先程までの明るかった声が一変。低く、憎悪が込められていた。
そこまで殺意を彼女は持っている。
「私にとって師であるフォードルさんは優しい人でした」
過去を悲しむ。それは当たり前の行為だ。
だが、その当人にとって過去は一種の理想。願望に近い。その面しか見ていない。
もう一つの面を見ていない。フォードルにとっていえば、性犯罪者だ。
少女、少年問わず幼い子供であれば誰でもいい。
バレても貴族だからと、見逃されてきた。
そんな人間、死んで当たり前だ。それで俺の方に依頼が来た。殺せ、と。
ただ、イリスイス第二王女の言葉にはただ過去を悲しむ、という風には聞こえなかった。
まるで、もう一つの側面を知っているような。
「死んだ後、姉上にフォードルさんが今まで行ってきた悪行を知りました」
知って尚、何故そこまで悲しめるのか理解できなかった。知ったなら、嫌悪感のほうが来るはずだ。
「それでも私の中にあるのは、優しいフォードルさんだけなんです。だから!」
地面から剣が伸びる。
一本の剣だ。白銀で、汚れなき純白の。
「今ここであなたを倒して、その過去を断ち切ります」
何故そうなる。と言いたい所だが彼女の目に迷いは見えない。
何かしらの理由で、そういう風に決めたのだろう。
なら、こちらとしてはそれに答えるしかあるまい。
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