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4話 定職につきたい

 ワイバーンを倒した。

 首を失ったワイバーンの身を剥ぎ、魔石を抜き取ると身体がドロリと液体に変わり消えてなくなる。

 馬車にスペースがなかったため、ワイバーンの魔石を回収だけに終えた。

 その魔石の大きさは拳が二回り大きくなった石だ。

 

 極力、護衛の四人に倒してほしい所であったが、二人は新人且つ負傷者も混じっている事。残り二人でもワイバーンを倒せるほどの力量、または装備が充実していなかったため倒した。

 目の前で人が死ぬのを黙って見る事はできない。

 

 それでも、人が死んでもなんとも思わないだろう。

 死ぬのにはもう慣れた。感傷なんて言葉、自分の中にはもうないはずだ。

 だけど、助けたことで彼らから凄く感謝された。

 暗殺の世界では、あまり感謝されることはなかったから新鮮だ。

 ポワポワした温かい気持ちになった。この気持ちは何だろうか?


 お礼として食事を提供してもらう事で解決。

 また馬車に揺られる日が始まる。

 町に着くのは、ワイバーンに襲われてからそう時間がかからない。

 馬車に揺られる事少し、漸く町が見えてくる。

 五メートルの外壁に囲まれた町。魔物の対策だろう。

 魔法を使用することで、容易に造ることができるため外壁は強固且つ質が良い。

 

「見えてきたぞ。あそこがライレンだ」


 商人が教えてくれる。


 町の入り口は馬車が入るほどの広さで、二人の衛兵が荷物の検分をしている。

 それと一緒に、入場料としてお金を払っている。銀色の貨幣が見える。銀貨だろう。

 

 お金はある。何事にもお金は必要だ。

 大量に持つと荷物になるため宝石に変え、小銭程度のお金は持ってきている。

 今回ばかりは衛兵の仕事を邪魔しないため馬車を降り、商人が衛兵に銀貨一枚を渡すのを見てそれに倣い同じように行動した。

 

 もう一人の衛兵が馬車の中の荷物を検分して調べている。

 検分はすぐに終わり、中に入ることができた。

 護衛の四人も入ろうとした時、何やら小さな鎖に繋がれた証? を見せると何も支払わずに入るのが見える。

 

 なんだ、あれ? 

 疑問に浮かび、町の中に入った後に聞こうとしたが商人と護衛の四人が話し始め、そして別れた。

 商人がこちらに近づいてくる。

 

「カインさん。私達は荷物を卸した後にまた違う町、王都なんですがどうしますか? 一緒にいかれますか?」


 王都。そっちのほうが人が多い。それに、ここだとまだ影の国との距離が近い。

 それならいっそ、離れた場所に行った方が出会わないはず。

 ついて行こうかと考え、と商人の顔を見ると付いてきてほしそうな顔をしているのが見える。

 

「ついて行きますよ。護衛します」


「ありがとうございます。出発までに三日ほど有しますがそれまでどうしますか?」


「さっきの護衛の冒険者達に少し用事があるので、一緒に行動します」


「分かりました。宿は手配しておきますので」


「感謝します。では」


 おかげで寝泊まりする宿を探す手間がいらなくなった。

 護衛の冒険者達を見失わないためにも、すぐにあとを追いかける。

 道は人ごみというほど多くはないが、ポツンポツンといた。

 

 どこだ、と顔を左右に振りながらも探して建物の中に入っていくのが視界の隅に写る。

 その建物の前まで近づき、見上げた。

 白い壁をした二階建ての建物。

 

「どこだ、ここ?」


「ここは冒険者ギルドだよ」


 通りすがりの老人が教えてくれた。教えた老人は、そのまま過ぎ去っていく。

 その後ろ姿を見て、心の中で感謝を述べて再び建物を向き直る。

 冒険者ギルドという単語は知っている。暗殺する上で関わってしまう。

 

 暗殺者の護衛、という依頼で冒険者として出会い、戦うことがある。

 無駄な暗殺はしたくない主義のため、殺すことはないが他の暗殺者が殺すのは知っている。それ故に恨まれてしまう。

 

 それに、昔の頃だが金を求めて冒険者だった頃がある。

 あの時はやってすぐに暗殺者の道を歩んだため、あまり経験らしい経験がない。

 今は暗殺者をやめたため、少し興味がある。

 中に入ろうと歩こうとした時、扉が開かれて一緒に護衛した四人が出てきた。

 

「おっ!」


 戦士が驚いたような顔をしている。ここで立っているとは思っていなかったようだ。

 

「どうした? 冒険者ギルドに何か用か?」


「いや、四人が中に入って行くのが見えて後を追いかけただけだ」


「追いかけた? というと何か用事か?」


「用事、というほどでもないけど少し、時間がとれないか?」


 茶を飲むようなジェスチャーを送る。これで大体分かったはずだ。

 

 

 

 喫茶店に集まったのは三人。戦士と女騎士、そしてカインの三人である。

 少年魔法使いと少女神官は別の場所でお買い物中。

 お金を少年魔法使いに渡して、何か買ってプレゼントでもしてこいと言っているので、戻ってくるまで時間がかかるはずだ。

 

 別に聞かれたくない話をする、というわけでなくただの親切心である。

 喫茶店の中で、飲むのは紅茶。

 甘いのは好きではないため、砂糖を少しばかり入れて飲む。

 話したかったのは、少しばかりの今の状況であったりを聞きたいからだ。

 影の国では外の情報が何一つ流れてこなかった。

 そういうのは、別の人間の仕事だった。俺がやるのは、周りの人間が整えた舞台で殺すだけ。

 

 それに拠点である影の国も一定周期で場所を変更するため、自分がどこの国、どこに位置する所にいるのか分からない。だからまずは今いるのがどこの国なのかを知りたい。

 

「すまないけどここがどこの国か教えてくれないか?」


「知らないのか?」


 戦士や女騎士がまるで信じられないと言わんばかりの驚き方、驚いたような顔をしている。

 まあ、俺も聞けば驚きを露わにするはずだ。

 ただ恥を忍んでも聞かないといけない。重要なことだ。

 

「ああ。悪いが教えてほしい。頼む」


 座ったまま頭を下げる。

 無駄な言い訳、嘘は付かない。後で困る、なんて事は嫌だ。

 

「分かった。まず、四つの国があるのは分かるか?」


 頭を下げる俺を見て哀れんだのか、もしくは親切心なのか素直に教えてくれた。

 記憶喪失と戦士の頭の中で考えたのか、そういった聞き方をしている。

 

 そこら辺は分かるのだ。分からないのはその国のどこにいるか、なのだ。

 ただ、俺の事を思って聞いてくれるのは凄く分かった。

 

「分かる。君主制のローリッヒ王国とレスト帝国。あとは魔導国家のラドリア、民主制のザスタン共和国。だっけか?」


「ああ、あってる。それでここはローリッヒ王国の東端にいる」


 自分のいる国が分かり、少し安堵する。

 東、というと接する国は帝国のレストか。あそこ、無理な仕事ばっかり要求するから嫌いなんだよな。

 顔には出さないが、もし顔に出しているなら嫌悪感満載な顔をしているだろう。

 

「教えてくれてありがとう。それで、そっちはこれからどうするんだ? 俺は商人について行って王都まで行くが」


「俺達も一緒だ。王都までついて行くつもりなんだ」


 それを聞いて、少し安心した。

 知り合いと一緒というだけで僅かながら気を使わなくいいから、少し楽なのが嬉しい。

 大体聞きたいことは聞いただろう、と思い出しながら思っていたらこの町に来た時に聞きたいことを思いだす。

 

「そういえば、この町に入るときにお金を払わなかった理由を教えてもらってもいいか?」


「ああ、それは簡単だ。冒険者は全ての町にに入るときに金を払わなくていいんだ」


 それは便利だな。お金を払わなくていいし、節約にもなる。

 ただ、覚えている限りでは昔はそんなことなかったはずだ。

 その理由を戦士が教えてくれる。

 

「昔にな、金にがめつい領主がいたんだよ。町に入るときの金は高い。飯も高い。宿も高い。それなら冒険者は別の町に行くわけだよ。そこで絶対に稼がないといけない、という訳じゃないからな。それで冒険者は減ったわけだよ」


 戦士が紅茶を呷る。喉を乾いたのだろう。

 しかし、そんなことをする領主がいるとは驚きだ。

 金が高ければ蓄えられるのは領主の私腹。そしてその結果は一つ。

 

「冒険者は減り、魔物の間引きの回数が少なくなるわけだよ。その結果、分かるか?」


 間引き、要は魔物を倒す事。

 魔物を倒さなければ増える。そうなれば考えられる結果は一つだ。

 

「町が滅んだ?」


「正解だ。増えた魔物に町が押し潰された」


 やはりな。ただ、今回は魔物だったというだけ。

 もしそれ以上続けていたら、人による暴動が起きる。そして、暴動の恨みはトップ、領主の向けられて殺すために暗殺者、俺達が雇われることになる。

 まあ、当然の結果というやつだ。

 

「そういう事件があってから、冒険者は町に入る時の金がなくなったんだ」


「なるほど。教えてくれてありがとう」


 過去に町が滅んだ出来事が起きたのなら、確かに徴収するのもやめるはずだ。

 冒険者になるのも選択肢の一つとして有りだ。しかし、また危険な仕事に就くのは嫌。

 

 そもそも、暗殺者をやめたのも危険な仕事だったから。

 自分の命をチップにしないといけない。

 それは嫌だ。そもそも、暗殺者になったのも自分のできるごとがそれだけだったから。

 

 ただそれはもう過去の話。今は色んな人間を見てきた。

 自分の未来ぐらい、もう自分で決められる。

 なら冒険者も命をチップに仕事をしている。こんな仕事、続けたいかと聞かれれば続けたくはない。

 謂わば繋ぎ。別の仕事でお金を稼ぐ間の。

 出来るなら、危険であってもいいが安全のある仕事がいい。

 切実に願う。しかし、そんな願いのが叶うのか甚だ疑問である。

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