36話 王族の護衛に転職しました。準備編
元から転職しようとは思っていた。
そのためコネづくりとして冒険者を続け、そのあと転職しようとは思っていたが、まさかこんなに早く転職できるとは予想もしていない。
転職したら冒険者は終わり、と簡単にいくわけではない。付き合いもある。それに、ライアンと一緒に冒険したのも楽しかった。
ライアンには悪いが、当分は一緒に付き合うことはできない。
そのことについてはリンジャオに説明をお願いした。
多分、会えるのは当分先だろう。
馬車で送られた先は、王の面会をする前に寝泊まりしていた宿だ。
前まで泊まっていた宿もあったが、貧民街に逃走した時に継続は辞めている。
それに、王族の護衛をするためにそれなりに品のある宿に泊まらないといけなくなった。
これはラディアント第一王子の提案だ。
市民が泊まる宿は価格を抑えている分色々な所が質素で、もしそれが他の貴族にバレれば攻められる要因の一つになるらしい。
貴族とはめんどくさいものだ。
宿の支払いは王族持ちだから、文句は言えないが。
湯浴みできる場所はない代わりに桶にお湯を入れてもらい、身体を清潔にしてベッドに横になると一日で色々あって疲労が身体に溜まっていたのか、すぐに眠ってしまった。
ぐっすりと早く眠ったことで起きたのは早朝。
目を開けると、まだ陽の光が空を照らさない明け方の時間帯。
少しばかり肌寒い。
毛布に包まり、温かさを堪能する。
周りには誰もおらず、話す人間もいないせいか考え事ばかりしてしまう。
ここまでぐっすりと眠ったのはいつぶりだろうか。
いつもよりも深い睡眠だった、というのは自分でも分かる。
それほどまでに目がハッキリと冴えていた。
また眠ろうと思っても、眠ることは出来ないだろう。
それもこれも、このベッドがいけないのだ。
宿の品が高いあって、家具の質も良い。
まずこのベッド。影の国いた頃は横になれればいい方で、フォンに紹介してもらったベッドも冒険者が利用するだけあって価格を抑えているためベッドの質もその程度。
謂わば、今まで経験してきたベッドは底辺。それが今以上のベッドを経験してか、身体が外に出る事を阻んだ。
「ああ、仕事したくない」
ニートの誕生である。
それでも仕事をしないと食っていくことはできない。
何より、生かされている身だ。
余計に働かないといけない。
それでも身体が出ることを拒んでいる。
「う゛う゛ぅ~」
だから制限を付けた。
朝になるまで、ベッドを堪能しようと。
時間になり、身体に包まっていた毛布を引きはがして朝食を食べに行く。
宿の品が高いだけあって、朝食も種類があって普通に美味しい。
パンにサラダ、スープにシチュー、肉料理。
ああ、これだけで王族の護衛になったことが悪くないと思ってしまう。
旨旨、と朝食を食べる。
朝食を完食し、部屋に戻って身だしなみを整えた。
王族の護衛になる以上、身だしなみを整えなければいけない。整えなければ何て言われるか、分かったもんじゃない。
髪のはね、服に着く埃や髪の毛。それら全てを取り除いて外へ出た。
陽は昇り、雲一つない空。
朝から仕事だと、慌てて走る者もいればゆっくりしている者もいる。
遠くには露店が稼働して、そこで朝食を購入しているのもいた。
ここは富裕層向けの宿のためか、露店は近くにない。
客が迷惑だと思うからだろうか?
それら全てを頭の片隅に置き、城へ向かった。
城の門は騎士によって閉ざされている。しかし、その手前に一人の使用人が立っているのが見える。
あれか?
四十半ばの穏やかで優しげな風貌の男性。髪を整髪料で硬めていて、僅かに白髪が伺える。
歳の割には身体がシッカリとしていた。
こちらに、と手で促されて道の端に寄る。
「あなたがカインさんですね?」
「はい」
つま先から頭のてっぺんまでじっくり見られる。
観察されてるような事、あまり経験がないせいか少しばかり緊張してしまう。
「ふむ、まずは湯浴みからですね。身体を清潔にしましょうか」
「えっと、一応整えて来たんですけど……」
「平民だったらそれでよいかもしれませんが、王族と会うのでしたらもう少し身だしなみを整えないといけません」
「はい」
そんな事を言われては、言い返すことができなかった。
使用人の名前はゲイルバッハ。これから護衛をすることになるフィラルシア第三王女の側使えだという。
側使えはいわば主人の身の回りを世話する。その側使えから身だしなみを整える必要がある、なんてことを言われれば整える必要がある。
整えなければ、近づけさせられないと判断されれば主人の近くには寄れない。
だから、整えるしかないのだ。
それに側使えは貴族だ。
家を継ぐ長男長女以外は別の仕事に就かなければならないため、その仕事として貴族の身の回りの世話、側使えというものがある。
貴族は魔法が使える。無理に反論し抵抗すれば、魔法でやられるかもしれない。
加えて、主のそのことが伝わってしまう。無理に抵抗はできない。
連れていかれたのは服屋だ。
その道中、
「カインさんには騎士への教育として、こちらに来てもらいます。ですので、階級的には騎士よりも上だと思ってください」
思っても、騎士が従うとは思えないのだが。
「騎士が素直に指示を従うとは思えないんですけど」
「そこは実力で認めさせてやる、ぐらい言ってほしいものです」
うぐ、こんな男前の男性にそんな事を言われては言ってやりたいものだ。
むずむず、と言おう言わないか少し迷ってしまう。
元暗殺者、といっても男だ。捨てた訳ではない。それに、戦闘ではなく平時、言いたいと思う気持ちだってある。
「実力で認めさせるよう、頑張りたいと思います」
日和ってしまった。だって、仕方がないじゃないか。
影の王と呼ばれていた暗殺者でも、正面から騎士とは戦うなど御免だ。
極力問題を避けていきたい。
俺の日和った言葉にゲイルバッハは笑みを浮かべる。
「その調子で頑張ってください」
まるで保護者のような笑みを浮かべたゲイルバッハは笑みを浮かべた。
服屋に着くと、貴族が買うような質の良かったり豊富な色を使ったり、服の種類も多い。
平民が着たりしないような服が多数ある。
二度三度、着た経験がある。貴族の内部に入り込む時に、着た。それ以来だ。
「何か御希望はありますか?」
「いえ、任せます」
自分の服のセンスがないのは、前々から分かっていた。
こういうのは、王族の側使えであるゲイルバッハに任せるべきだ。何せ、王族の側使え。
服のセンスはあるはずだ。
「分かりました。適当に見繕って着ますね」
「お願いします」
ゲイルバッハに見繕ってもらう間、少しばかり手空きになった。
おかげで考える余裕ができる。
服、か。貴族の服なんて、着るとは思わなかったな。
高いんだろうな、きっと。金、あるけどまさかここで使うとは……。
予想外の出費を今気づく。
落ち込んでいると、ゲイルバッハが戻って来た。
その手には何着も服があり、これから着せ替え人形になる未来が少しばかり見えてしまう。
持ってきたのは貴族が煌びやかな服、騎士が着るような少し落ち着いた男っぽいもの。
どれもこれもセンスのある、似合いそうな服だ。
カインは男とも女とも見れるような整った顔だちをしているため、それも含めての事だ。
二着目までなら良かった。
着ていて、悪い気はしない。だが三着目、それは駄目だ。
ドレス。パーティーで着るような、豪華なものだ。
女性用の。
それを見た瞬間、首を横に振る。
しかし、笑ったまま押し続けられていく。
「いえ、無理です。流石に」
女性用の服を着ろと? 男が? やめてください、色んな意味で死にます。
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すみません、仕事の都合で投稿が二日か三日になると思います。
極力、二日にしますので




