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35話 将来の転換点

 俺は暗殺者、という職業が嫌いになったのはやめる直前に思った。

 人を殺していく傍ら、自分もいつか死ぬのだろうなと死について深く考えるようになったからだ。

 それが今は暗殺者をやめて、冒険者になっている。

 

 しかし、昔の罪は消えるわけがない。

 暗殺者で人を殺してきた罪、それは消える訳がなく、恨み憎しみは消えず残り続ける。

 やったことだ、後悔はしない。けれど、死ぬ訳にはいかない。

 何が何でも生き残ってやる。

 それが今では何故か死なず生き残り、俺の運命はラディアント第一王子に握られていた。

 

 

 

「本題として影の王、カインという名前だったか? お前にはやってもらいたいことがある。魔法学院であった遠征訓練を知っているか?」


「ええ、まあ」


 遠征訓には参加していた。

 だから、何が起きていたのかも知っている。

 

「そこで私の妹が殺されそうになった」


 あの時はまあ、暗殺者だったり魔物だったり色々あったからな。

 あれが起きた原因の一因である俺がいるから起きたことではあるんだけど、イレギュラーであるあれは悲惨だ。地獄だといってもいい。

 なら、過保護になるのも分かる。

 それが王族ならば尚更だ。

 

「だから君には私の妹を護衛して欲しい」

 

「それは魔法学院に入学している妹君、ということでいいんですか?」


「いや、もう一人妹がいる。彼女も別の手口だが命を狙われた。暗殺者として聞きたいが、一度失敗すれば二度目も狙うか?」


「まあ、狙いますね」


 暗殺は成功しなければ意味がない。

 成功するまで狙い続ける。もし失敗でもすれば、今後の暗殺にも響くし知名度も落ちる。

 悪い事尽くめなのだ。だから、何が何でも成功させないといけない。

 

「だろうな」


 ラディアント第一王子も分かってはいたが、確認のために聞いたようだ。

 

「この国は二人の王族が狙われた。そこで守ってほしい。暗殺者だったなら、暗殺者の思考を読むこともできるだろ?」


「確かに読むことはできます」


 なるほど、ラディアント第一王子が俺を雇う理由はそのためか。

 現状から察するに、暗殺から守る手立てが少ないのかもしれない。

 そういえば、フィルも王城から攫われていたな。今は騎士を多めにして守っているかもしれないが、また攫われる、襲われる可能性がある。

 

 その可能性を一つでも多く潰したい、ということだ。

 

「暗殺を防げ、ということですか?」


「ああ、やってくれるか?」


 疑問形で聞いてくれるのだが、拒否権はないのだと思う。

 俺の運命はラディアント第一王子が握っている、と言ってもいい。

 断れば、どうなるか分からない。だからもう、選択肢は元から一つしかなかったのだ。

 

「お引き受けします」


「そうか、良かった」


 引き受けると聞いて、ラディアント第一王子は嬉しそうだ。

 黒い、絶対に腹が黒い。

 この笑顔の裏側が、ただ嬉しいという感情だけではないことがなんとなくだが察せてしまった。

 

「本題も済んだことだし、本当にお茶をしようか」


 ラディアント第一王子は側使えに合図を送り、お菓子が追加される。

 それに喜ぶフォーリンはまだパクパクと食べ始めた。

 その手を弾くリンジャオ。

 

「食べ過ぎです」


「ぶう」


 口を尖らせて不貞腐れるフォーリンだが、お菓子を食べる速度が見違えて遅くなる。

 味わって食べているようだ。

 今止めたのはきっと、会話の邪魔をさせないためだろう。

 フォーリンは基本動物。目の前の事に夢中になれば、他の事に関しては無関心。

 もし会話に入っていれば変な邪魔が入る、時間がかかると考えて最初はお菓子を凄い速度で食べていたのは黙っていたのだと思う。

 

 約一名、お菓子を食べる速度が落ちただけで他の皆にも行き渡る。

 

「それにしても、今回の件はかなりギリギリでしたね」


 リンジャオが終わったという心身の疲労からか、愚痴が漏れる。

 

「仕方がないだろう? 大臣からはあの時間に指定されたんだ。早く行くのにも理由がいる。その点、暴れてくれたことには感謝している。派手な音がこちらにも聞こえた」


 やはり、事前の打ち合わせがあっての王の面会だったようだ。

 その事前の打ち合わせがなければ、死んでいたから文句はいえない。

 それにしても二人は王族で冒険者。身分の差はかなりあるが、かなり仲が良いように見える。

 

「二人は仲が良いんですか?」


「ん? ああ。俺とリンジャオは魔法学院の同級生なんだ」


 ほう。ん? ならどうして冒険者をやっているんだ?

 魔法学院は確か、貴族だけが入学できるというものではない。

 平民でも入ることはできる。が、卒業して冒険者になるのだろうか?

 他にも、何か別の仕事があるはずだ。

 

「リンジャオはどうして冒険者に? 魔法学院を卒業したなら、他にも道はあったはず」


 途端に、リンジャオとラディアント第一王子の顔が暗くなる。

 それだけで、聞いてはいけないことだと理解した。

 

「いや、俺は魔法学院を卒業していないよ。中退している」


「そ、そうなんですね」


 空気が悪くなる。

 多分、魔法学院を卒業できなかったのが、何かしら原因があったはず。

 それがまだ、彼は気にしている。

 お茶会という楽しい空間だが、一気に空気が重くなった。

 

「そんなんだから、彼女が出来ないんですよ」


 場違いな言葉が聞こえた。

 それは、パクパクとお菓子を食べているフォーリンから放たれた言葉だ。

 

「二人でいつまで気にしているんですか? いい加減、一歩踏み出せばいいのに。時間は止まらないんですよ」


 それは彼女なりの励ましなのだろう。

 何でリンジャオが中退したのか、その理由は知らないがいい加減動かないリンジャオに嫌気が刺したのだ。

 彼女は立ち止まることを知らない。考えている時には既に身体が動いている。

 

 だから、いつまでも立ち止まるリンジャオの思考が分からなかった。いい加減、動き出せとも思っていた。

 

「そう、だな。いい加減、動き出さないと」


 素で思わずか、リンジャオは昔の自分を晒す。

 それは同級生で知り合い、だが王族であるラディアント第一王子がいるにも関わらず彼は今のリンジャオという仮面を剥がれてしまう。

 それほど、余裕がなくなっていた。


「そうだよ、早く動いてよ。愚痴を聞く私の身にもなってよ」


「え? 愚痴を言ってるの?」


 そんなの初耳だ、と言わんばかりに驚くリンジャオにニヤリと笑うラディアント第一王子。

 俺も少しばかり、面白そうだと思ってしまった。

 

「フォーリン。俺にもその愚痴を言える範囲で聞かせてくれ」


 ラディアント第一王子の言葉を拒絶する訳にはいかず、フォーリンは面白可笑しく誰からかのリンジャオへの愚痴を漏らした。

 おかげで、お茶会の空気は戻って楽しい雰囲気になる。

 

 その時間が小一時間続く。もうそろそろお暇≪いとま≫しようか、という空気が流れ始めた。

 

「カイン、悪いが、明日に今日の面会があった時間と同じ頃に来てくれ」


「分かりました」


 意外と早い。まあ、早めに顔合わせしたほうがいいか。

 そうなると、ライアンと依頼する期間が減るな。

 ん? このまま護衛が続くとライアンと一緒に依頼をこなせなくなるのか。

 詳しく聞いたほうがいいか」

 

「ラディアント第一王子。私は護衛を毎日する、という形になるのでしょうか?」

 

「毎日するのは負担が大きいだろう。最初の頃は多いだろうが、君には対暗殺者用の騎士の教育もお願いしたい」


 そんなの聞いていない、などと不満を漏らしてもいいが俺の命はラディアント第一王子に握られている。

 はい、とイエスしか返答できない。

 

「分かりました」


 もうここまで来たら、心を無にして答えていた。

 騎士を教育する、か。従ってくれるだろうか? 不安しかない。

 一先ず、その騎士がある程度教育してからなら冒険者の方に復帰できるかも、という淡い希望が湧く。

 この時は忘れていた、冒険者をやめようということを。僅か、少しばかり、ライアンと一緒に冒険するのが楽しみであった。

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