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32話 されることは変わらず

「双方、矛を収めろ!!」


 その声に戦っているライアンと寡黙な騎士。そして、逃げようとしたカインは足を止めた。

 聞き覚えのある声だからだ。

 いたのは、リンジャオであった。

 

 助けてくれるのか、という僅かな救いが心に余裕を生み出す。

 

「カインの身柄は冒険者で預かることにする」


 助けてくれはしないようだ。

 逃げよう、と足が少しばかり動く。

 ほんの少し、足を横にずらす程度の動き。その動きを見せた途端、殺気を感じた。

 

 どこからか、分からない。しかし、殺す気で何かしてくるのは分かる。

 それが誰なのか分からないが、関係のある人間は目の前にいるはず。

 候補の一人、可能性が一番高いリンジャオに目線を向けると目が合う。

 

 二コリと不敵な笑みを浮かべ、動くなと言わんばかりだ。

 やはりあんたか!

 叫ばずにはいられないが、グっと堪える。

 逃げるのはやめたほうがいいらしい。

 

 それを察してか、殺気も消え失せた。

 逃げようか画策している間に、騎士とリンジャオとの間で話が行われている。

 

「匿うのですか!!」


 激怒という感情を顔全体に染めながら、男装の騎士は吠える。

 

「まさか、王との面会までの間は預かるだけですよ」


「なら、騎士団が預かってもよいはず!」


「ええ、私もそう思いたいのですが」


 人の笑みにはいろんな種類が存在している。ただ笑うだけでも、それが本当に笑っているのか違う。

 今のリンジャオの顔を見ていると、それがよく分かる。

 

「騎士団に預ければ、王との面会の前に不慮の死を遂げそうで」


「それは騎士を馬鹿にしているのか?」


 怒りの感情は消え、殺気が混じり始める。

 それほどまでに、男装の騎士にとっては騎士という存在が気高いのだろう。

 

「まさか。私が騎士を馬鹿にするわけがない。ただ、騎士の中には命令に背く存在がいる可能性がいるかもしれない、というだけです」


 ちらり、と寡黙な騎士のほうに視線を向ける。

 今までの戦い、どこからか見てたな。じゃなきゃ、今の言葉は出てこない。

 

「いや、それは……」

 

 リンジャオの言葉を聞き、男装の騎士は少しばかり悩む。

 正直に言葉を拒否できない、というのが彼女にとっての本音だ。

 前騎士団長を殺した影の王を捕らえるという今回の命令。子供の頃から前騎士団長に仲良くしてもらったことがある騎士の中には、殺そうと画策していたという話が耳に入っていたからだ。

 

 否定の言葉がないということにリンジャオは肯定、と捉えた。

 

「そういう訳なので、カインの身柄は冒険者ギルドで預かります。もし王との面会の時に連れてこなかったら、私とギルドマスターの首を刎ねても構いません」


 それ、ギルドマスター知ってるか?

 いない場所で首を刎ねる約束をしていることに、ギルドマスターのロードリアンが可哀想に思えた。

 

「そこまでの覚悟なら、分かりました。騎士団長には報告しておきますので、そちらかも正式な言葉を騎士団に送ってください。いいですね?」


「ええ」


 話は無事終わり、騎士は立ち去っていく。

 その最中、寡黙な騎士がこちらを殺気の混じった目で睨んできたのを忘れない。

 去っていく騎士の後ろ姿を見つめていると、

 

「よっ! 久しぶりだな」


 ライアンに肩を叩かれた。

 

「ああ、久しぶりだな。随分と迷惑をかけた」


 肩を叩かれたことに悪い思いはせず、逆に温かい気持ちになった。

 返ってきたんだ、という実感ばかりが湧く。

 冒険者をやってきたからかもしれない。潜伏生活が内心、辛かったと思っていたからだろう。

 

 こつこつ、と後ろから近づく音が聞こえる。振り向くとリンジャオが近づいて来ていた。

 

「随分と手間を取らせました」


 静かな苛立ちといえばいいのだろうか、声が非常に冷たく聞くだけで怒っているのが丸わかりだ。

 

「悪い。迷惑をかけたな」


 どうすれば良かったのだろうか?

 騎士に指名手配されるのは目に見えて分かっていた。されるのも時間の問題でもあった。

 だから逃げた。死ぬのは御免だ。

 

 そのせいでリンジャオに迷惑をかけたのなら、謝るしかない。

 逃げる前に、一度連絡すれば良かったかもしれないが、その余裕がなかった。

 リンジャオもカインが頼ってくれなかった事への悔しさもあって、苛立ちを無意識に露にしている。

 短い付き合いではあった。しかし、互いに協力できる関係となっていると密かに思っていたリンジャオ。しかし、何も言わずいなくなったカインに対して思うことはあった。

 

「いや、こちらも言い過ぎた。悪い」

 

 謝罪を聞いて、冷静になったリンジャオも謝る。

 苛立ち故に出た言葉だ。

 

「一先ず、こちらが指定する宿で王との面会まで休んでいてください」


 リンジャオ指定の宿へ向かう。

 指名手配されているせいでジロジロと奇異の目で見られがちだが、宿に入ってからはそういう視線を感じない。

 冒険者ギルドの配慮だろう。

 富裕層向けの宿で教育されているということだ。

 

 宿は快適。食事も美味しく、寝具もふかふか。

 貧民街で潜伏してたせいで襲われるかもしれない、というストレスで心が参っていたかもしれない。

 ゆっくりと英気を養っていたが、日はすぐに経って面会の日に変わった。

 

 

 

 日は少し戻ってカインを見つけた日。

 リンジャオは貧民街でカインを見つけて、すぐに冒険者ギルドに戻る。

 向かうのは二階。冒険ギルドのギルドマスター、ロードリアンがいる執務室だ。

 扉をノックし、入室の許可を得てから部屋に入る。

 

「カインを見つけました」


「本当か!?」


 手を止め、顔を上げるロードリアン。

 いなくなってから、騎士がカインを捜すのと同じ時に冒険者ギルドも探し始めた。

 今ここで、彼を失うわけにはいかない。それが冒険者ギルドとしての見解だ。

 しかし、出せる人間は少なく探すのはリンジャオぐらいしかいなかった。

 

 貧民街にいる、という可能性にかけてそこを重点的に探してようやく見つけ出すことができた。

 その報告を今までずっと、待ち続けていたわけだ。

 

「ようやく、か」


「ええ。ただ、騎士と既に戦闘中でした」


「何!?」


 思わず立ち上がる。

 騎士よりも早く見つけたい。命を狙われてしまう。

 その恐れもあって騎士より先を行きたかったが、恐れていた事態になったか。

 

「騎士と対話し、王の面会までこちら預かりとすることになりました。なので、騎士団のほうに書簡をお願いします」


「ああ、分かった」


 騎士との全面抗争、なんて事が起こる可能性もあったため平和的に済んでホッと安堵する。

 貴族が騎士をやる都合上、権力を無理矢理振るって来かもしれない。中にはそういう傲慢な考えを持つ者もいるのだ。

 無事に済んで良かった、と思っていた。

 ガチャリ、と扉が開く音が聞こえる。

 

「この人、酷いんですよぅ~」

 

 そう言って入って来たのはリンジャオと同じパーティーの仲間、テリアスだ。

 白髪で大人の顔つきをしているが、肉体は幼女とアンバランスな女性である。彼女がここに来たのは簡単、待ち合わせである。

 

「騎士と平和的に済ませるために、勝手にギルドマスターの命を懸けたんですよ」


「なんだと!」


 テリアスの言葉に先程安心していたが、聞いてない事に疑問符が幾つも生まれる。

 思わぬ言葉に、身体が勝手に立ち上がってしまう。

 彼女が知っていたのは現場がいたからだ。

 カインが逃げないよう、魔法で足止めをお願いしていた。だから聞かれた。

 

 リンジャオにどういうことだ!? 強い目線で訴えると申し訳なさそうな顔をする。

 

「騎士が口約束でそのまま去ってくるとは思えません。なので、命を対価に差し出すことで平和的に済みました」


「それはカインが逃げたらか?」


「はい」


「大丈夫だろうな?」


 他人よりも心配するのは自分の命。

 当然だ。そこまで良い人間ではない。

 

「ええ、あれはそういう恩を仇で返すような人間ではないです」


 短い付き合いではあるが最低限のことだけ分かっているが、カインが自分のためだけに行動するような人間ではないのは知っている。

 他人の事も考え、行動できる人間だ。

 

「そうか、ならいいが」


 ホッと安堵し、椅子に座る。

 

「もう終わりか?」


「いえ、まだあります。カインが騎士との戦いで協力した冒険者がいます。一人はカインと一緒にパーティーを組んでいた男です」


「カインと一緒に組んでいた、か。なら情で助けるのも当然、か」


 なら仕方ない、で片付かないのが貴族だ。

 あれは自分の都合で人を殺す。消す。

 カインの友人だという以上、死んでしまうとこれからの良好な関係を築くのは難しくなる。

 救わなくてはならない。

 

「その男を長期のクエストに放り出せ、ここから離れる必要がある。」


「分かりました。指示しておきます」


「それで、さっき一人はといったがまだいるのか?」


 カインと一緒に組んだ男を呼ぶとき、リンジャオは一人はと言った。

 普通ならそういう事は言わない。ということは、まだいる事になる。

 

「はい……」


 さっきと比べて、どんよりとした空気を生み出すリンジャオ。

 何故そんな空気を出すのか疑問だったが、それはすぐに分かる。

 

「うちの馬鹿がやらかしました」


 誰かすぐに分かった。

 まず、脱力感に襲われた。いつか、やるとは思っていなかった。だが、まさかここでやるとは思いもしなかった。どうすればいいだろうか?

 思考を放棄してしまう。

 少し時間が経ち、思考が戻ってくる。

 

「おい、保護者。何をしている?」


「そこまで庇いきれませんよ。カインを捜していた訳ですし、見つけた時には既にもう戦闘中でしたからね」


「これは、どうしようも、できないな。覚悟しておけよ」


「はい」


 静かに、そして冷静にリンジャオは頷く。

 ここにフォーリンがおらず、またどこかでお説教が待っているのであった。

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