30話 最強の暗殺者は指名手配されたようです
遠征訓練が終わって、俺はすぐにその場から離れた。
冒険者にばれたのはまだいい。騎士にばれたのが問題だ。
前騎士団長、フォードル。
彼を殺したことで、騎士からは特に恨まれている。
王族にもきっと恨まれているに違いない。
この国で生活するには不便であり、出ないといけなくなった。
だが、門の見張りがかなり厳しくなった。そのせいで王都から出るのが難しくなり、中で生活を強いられている。
今まで住んでいた宿では生活ができず、野宿も考えたがまずばれてしまう。
そこで生活できるのが貧民街。
町の税、住民税を支払っていない人が住む一角であり、厳密には町の住民ではないという扱いだ。
そのため犯罪に染めた者も住んでいるため、誰も通報することはないだろう。
今は、影の国にいた頃に暮らしたことがある部屋で生活している。
部屋が取り壊されていたり、別の誰かが暮らしていなくて良かったと思う。
宿で泊まる事を止めたため、食事の準備をしてくれる人が誰もいない。作る技術もないため、買って来るしかない。
食堂だったり、露店だったり。
出かけたのは朝早く、朝から仕事に行く人が買ったりするため露店は賑わっているはず。
それは人が多いということであり、買いに行っても人の波に紛れれば、ばれないだろう。
それに、今身に着けているフード付きマント。
他人からの視線を避ける特性を持つ。
これのおかげで遠征訓練の時にメイドを殺すことができた。
ただ、戦いの影響では端のほうがボロボロになっていて、まだ使えはするが効果が弱まっている。
顔をフードで隠し、一日分の食事を買う。
温暖な気候で腐りやすいため朝は出来立てを食べ、昼はある程度冷めても美味しい物、夜は保存食を。
そんな一日を送っている。
お金だけは暗殺者時代に使わずに貯めていたため、余裕はある。無駄遣いしなければ生活はできるが、このまま一生ここで暮らすわけにはいかない。
門の警備が薄まればこの国から出ることができるが、薄まるだろうか。
出ていくとなると、ライアンの事が少しばかり心残りではある。
だが、やれるべきことは短い日数であるができたと思う。
フォン達と一緒に行動するようには伝えた。
彼らは悪い人間ではない。それにライアンの人柄も把握しているし、上手く活用してくれる。
無闇矢鱈に酷使して、死なすようなことしないはずだ。
朝食を買い、家へ戻る。
あまり一目に触れることはしたくない。
「そこのお前、少し止まれ」
裏路地に入って帰宅していると、声をかけられた。
凛々しい女性のような声だ。
振り向くと、二人組の騎士がいる。
一人は男装の麗人。金に輝く髪を後ろで一つに結んでいる。ポニーテールほど、長くはない。
綺麗な顔立ちで、男性よりかは女性にモテそうな顔立ちをしている。
身体は長くスラッとして、胸もそれなりに大きい。
もう一人の騎士は寡黙そうな男性騎士。
身体が大きく、静かで冷めたという印象を感じる。
黒の髪がよりその印象を強くさせ、その目からは見下すようは軽蔑の視線が強かった。
騎士の名を冠する通り、鎧を着ているが武器は何一つ持っていない。
「何ですか?」
平然と、声を落ち着かせて答える。
ここで逃げ出せばばれるし、怪しまれるような行動を取ればそれだけで疑惑が生まれてしまう。それだけは避けたい。
「顔を隠しているフードを取れ」
「分かりました」
ここは大人しく従う。
フードを右手で取り、素顔を晒す。
顔を晒すと、そこにいるのは男女不明、どっちの性別か分からない中性の顔つきではなく、温和そうな優男だ。
髪や表情を意図的に変えれば、人の印象はどうとでもなる。
騎士達二人、彼らは中性の男性を捜していた。優男を捜しているわけではなかった。
お目当ての人間ではないと知り、男装の騎士は謝る。
「すみません、見間違いのようです。申し訳ありません」
「いえ、疑惑が晴れたのなら良かったです」
もう一度フードを深く被り直し、裏路地の奥へ進む。
奥に行けば、貧民街に辿り着ける。
早く着きたい。騎士が近くにいると、不安で心が駆られてしまう。
いつばれるか分からない今、騎士から離れたいと思うのは当たり前。ここから立ち去ろう、早歩きとはいわないが少し歩みを早くしたが。
「少し待て」
寡黙な騎士が声を出す。
「はい? どうしました?」
ばれたか? と焦り心が騒ぎ立て顔から冷や汗が流れる。
「貴様の歩き方、普通の人間の歩き方じゃないな。足音を立てず、静か。暗殺者の歩法だ。違うか?」
思わず黙ってしまった。暗殺者の歩法、それは確かに必需品のようなもので身体に染みつかせるほど、無意識で出来るほどに覚えさせられる。
それがまさか仇になるとは。
まだ誤魔化せるか?
「確かに私は元はですが暗殺者でした。しかし、今はもう人を殺めていませんし、罪は償いました」
「そうか。だが、今は暗殺者だったという事実でお前を捕まえることができる」
二人は魔法を発動した。
男装の騎士は水の魔法を。寡黙な騎士は氷の魔法を。
左脇に水溜まりが生まれ、それは剣の形となる。
柄を握ると、剣の形をした水はしっかりと本物の剣になり替わった。
地面から氷が生まれ、それは彫像のように綺麗で装飾品のような剣だ。
柄を握ると、氷は砕け散って剣になる。
完全武装、やる気満々のようだ。
ここは逃げる事を優先!
反転、背を向けて脱兎の如く逃げ出した。
その背後で強烈な水飛沫が巻き起こる。
ライアンとフォーリンは冒険者ギルドの裏手、大きな空地で修練を励んでいた。
「はっ! ハァッ!!」
フォーリンは持ち前の素早さを活かし、後ろから強襲したり死角から攻める。
手数で攻めるフォーリンに対し、ライアンは攻撃を防ぎながら隙を伺う。
自分が早くないのは知っている。攻撃すれば、それはたちまち隙になる。
隙を狙われたら、Aランクの冒険者、見逃すほど馬鹿ではない。
ただ、敢えて隙を作る。カウンター狙いだ。
防御しつつ攻撃する、それができるとしたらカウンターぐらいである。
しかし、フォーリンはその隙を突いてこない。彼女には野生の獣のような鋭い勘を持っていた。
その勘が言っている。突いてはならない、と。
ライアンも又、野生の獣のような鋭い勘を持っている。
安易に攻撃してはならない、と何故か思っていた。理由は特にない。
互いに獣の勘を持っている同士、フォーリンからの猛攻にライアンは耐え続けていると、このままでは拉致があかないとフォーリンは離れた。
二人の間合いは違い、間合いの長いライアンの方が有利。しかし、その間合いを詰めるのはフォーリンにとっては造作もないことであり、彼女は魔法が使える。
二人は集中し、緊張が流れる。僅かな変化で二人の状況を一変するだろう。
音無き世界がおとずれ、それは起きた。
水飛沫だ。
「は?」
「へ?」
二人は素っ頓狂な声を上げる。
緊張していたからこそ、場違いな事に変な声が出てしまった。
音のした方に目を向けると、建物よりも遥かに高く水が噴き出して地面に落ちていくのが見えた。
「一大事だな」
「うん、行こう」
「ああ!!」
ライアンとフォーリンは現場へ駆け出した。保護者抜きで。
もしここで保護者がいれば、一緒について臨機応変に対応しただろう。だが、今回ばかりはいなかった。
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