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27話 遠征訓練 10

 斬った!! 

 剣がメイドの首を捉え、斬り落とす。

 キィンッ!!と甲高い音と共に剣を握る手から伝わる感触は、まるで硬い物を無理矢理斬ったよう。

 斬る時、メイドは笑っていた。ほくそ笑んでいた。

 

 まるで、騙されたと人を馬鹿にするように。

 その顔は印象的で、首を斬ってもその笑顔は消えず、首は未だ胴体に繋がったままだ。

 

「はっ!?」


 思わず声が漏れた。

 首を斬った。確かに、見た、触れた。だが、斬れておらず繋がっている。

 なら、宙に舞ったのは?

 

 首を斬った時、何かが宙に舞った。それが何なのか、その疑問はすぐに解消した。

 メイドの奥で、天から剣の一部が地面に落ちているのが見える。

 剣が折れたか!!

 

 それなら、斬った時の硬い感触と甲高い音も納得できる。

 殺しに失敗した。

 初見での暗殺に失敗した場合、次の殺しの確率は格段に落ちる。

 そして、殺される確率のほうが高くなってしまう。

 

 暗殺に失敗した、と理解した時には既に身体が後ろに下がろうとしていた。

 頭で決めて行動しなくても、長年培ってきた事が染みつき身体が反応する。

 

 後ろに何度も下がって、距離を取る。

 今まで近づいた間合いから離れるのは剣士としては愚策かもしれない。

 だが、俺は暗殺者。近づくことは幾らでもできる。

 問題は殺すことだ。

 

 メイドは下がっていくのが見えたと同時に縄を飛ばしていたが、全て空を切った。

 ついでに斬り落としたので、大体は使えなくなるはず。

 問題は首を斬れなかった事。斬れなかったという事実、それが重くのしかかる。

 

 一度暗殺に失敗し、それが防がれたとなると次の暗殺も失敗するかもしれない。

 まずはどうして失敗したのか、その理由を知る必要がある。

 どうして首が斬れなかった? と理由を考えているとその視線にメイドは気づいた。

 

「どうして斬れなかった? という顔をしてますね」


 顔に出てたか? まあ、事実斬れなかったしそれで悩むのは丸わかりか。

 

「教えてあげますよ。私の首には紐と同じくらいの太さの縄を何重にも巻いています。その縄はAランクの魔物の体毛を、捩じって絡み合わせて縄にしました。あとは分かりますね?」


 Aランクの魔物と同じ硬さ、それ以上の縄で防いだ、か」

 

 嘘くさい話だが、魔物の素材を利用している。一概に嘘と否定できない。

 知らないだけで、そういう魔物もいるかもしれないからだ。

 

「分かってくれたならいいです。なので、私を殺すことは不可能。この遊びも、もう終わらせようとしていた所です」


 メイドは両腕をだらりと下げる。

 何をする? と疑問に思った時メイドの足元の影から巨大な物が出てきた。

 数は二つ、その大きさは男の腕よりも一回り大きく、漆黒に染まっている。

 ゆっくりと上がっている二つの漆黒のでかぶつ、それに見覚えがあった。

 

 どうしてここにあれが……。

 メイドはそれを掴み、持ち上げる。

 細腕では到底持ち上げられないほど重い物、きっと縄魔法も使って持ち上げているに違いない。

 

 そのでかぶつを向けられ、一番最初に見えるのは銃口。

 幾つもの銃口が環状に並んでいた。

 銃。そう呼ばれている物を知っている。

 帝国という国で標準装備されているもので、魔力を弾丸として撃ち込む。

 

 魔力の消費量で相手を殺さずに撃退したり、逆に殺すこともできる。

 殺すとなれば魔力の消費は大きく、普通の兵士なら魔力が足りずに殺すことができない。

 そこで予備魔力として魔石を使用し、魔力持ちを良くした物が作られている。

 と、前に帝国で仕事した時に天才科学者が言っていた。

 

 その時にこうも言っていた。

 魔石を予備魔力にできるのなら、銃を一杯並べて同時発射できないか、と。

 あの時は笑い話だったが、まさか実用化しているとは。

 頬から冷や汗が流れる。

 

 帝国でも殺しをしていたから分かる。

 銃の危険性が。

 弓よりも精密性はないが、弾幕を広げられればどうしようもない。

 それが銃だと理解した時、すぐに逃げ出した。

 

 正面から殴り合いをして勝てるものではない。ここは距離を取って姿を隠さなくては。

 

「逃がすと思ってますか?」


 メイドは逃げるカインに銃口を向けながら、引き金を引く。

 環状に並べた銃口がゆっくりと回り出し、さらに加速し速度が安定。

 二つのガトリング砲から魔力で構成された銃弾が、雨のように降り注ぐ。

 

 それは地面を掘削するような音が二重に奏でながら、後ろから聞こえる。

 音に遅れ、衝撃が地面を、木を削った。

 ガトリング砲は無数の弾をばら蒔く。しかし、命中精度が悪く背を向けて走るカインを捉えることはできない。

 

 それでもカインからすれば生きた心地がしなかった。

 背後から聞こえるけたましい銃声。地面や木を削る弾丸。

 そんなものを目の当たりにすればいつ当たるか不安で、しかし、すぐ目の前に大木がある。

 そこまで行ければ──その安堵を一発の弾丸がもぎ取った。

 

 ぐらり、と身体が傾く。

 右足に力が入らず、右の足首が熱い。

 何があったのか理解した時、痛みもこみ上げる。

 それでも走るのはやめず、視線を下げず、巨木に向かって飛び込んだ。

 巨木に背を預け、身を隠す。

 

 隠れている場所が丸分かりなせいで、巨木に向かってガトリング砲が火を噴く。

 実弾であれば弾が有限であった。しかし、魔力を弾丸にしているため魔力がなくならない限り撃ち続けることができる。

 ガトリング砲は魔力の消費が激しいという欠点があったが、魔石を代わりに使っているため魔石の中の魔力がなくならない限り撃つことができる。なくなっても、別の魔石に変えれば問題は解決だ。

 

 だから弾切れまで待てば大丈夫、などと悠長なことは言えない。

 巨木がガトリング砲で削られていく。

 早くここから逃げなくてはならない。

 右足を撃ち抜かれ、口の中を噛まないように右の袖を噛む

 噛みながら、懐に左手を入れてある物を探す。

 

 見つけたのは、すぐだった。

 取り出したのは薬瓶。ザスから奪ったものだ。

 あれは開いた脇腹を治すために使おうとした。

 なら、銃弾で撃ち抜かれた右足も治るはず。

 

 意を決して薬瓶に入っている回復ポーションを飲む。

 どろり、とトロミのある液体が口に入ってくる。

 苦い味と鼻が曲がるような匂いに襲われながらも、吐くことはせずに飲み込む。

 嚥下すると、効果はすぐに訪れた。

 

 傷のある右足が熱くなり、不思議と痛みも引いていく。

 右足の痛みはなくなった。

 これで動けるようにはなるはず。

 一先ず、ここから逃げないといけない。

 

 巨木を狙い続けるガトリング砲は、未だなお撃ち続けている。

 このままでは木が破壊されて、身体に風穴が開く。それまでは逃げなくてはならない。

 その手段はある。だが、それを使えば魔力の消費がかなり激しく、使える戦法が阻まる。

 

 ここから走って逃げればいいが、ガトリング砲は命中精度が悪いせいで弾幕のように弾が広がっていた。

 集中しているならまだしも、周りに広がっていたら流れ弾に当たる可能性がある。

 

 集中していればまだやりようがあるのだが、こうも拡散していては流れ弾が怖い。

 ここから動かずに、移動するしかない。

 まずは移動先、弾幕のない近くの木の後ろに目を向ける。

 

「影魔法、影移動」


 足元の影が底なし沼のように、身体が沈む。

 ゆっくりと影に沈む中、入っていく影は特に何もない。

 熱くもなく、寒くもなく、匂いもない。ただ暗い影に目まで入り込み、視界が真っ暗で何も見えないと認知した時、視界の上から徐々に明るくなる。

 

 影から出てきたのだ。

 完全に影から身体が出た時、さっきまで見ていた場所にいた。

 影魔法、影移動。

 視界内で近場しか移動できず、消費魔力も限りなく大きい。

 それでも使えば不意を突ける。

 

 投げナイフを影に投げ、自分の足元から飛んできたりするのだ。

 凶悪なのが分かる。

 自分も移動できるのだが、おかげで残りの魔力が少なく使える魔法が二回。無理して三回だろう。

 

 ほぼ詰みだ。

 近づこうと思えば銃弾の雨。

 そもそも、どうしてガトリング砲が出てくる。

 理不尽な現実で叫びたい衝動に駆られるが、グッと堪えた。

 

 どうやってガトリング砲を出したか、その理由は分かっている。

 影魔法の一つ、影収納。

 物を自分の影に仕舞い、その影から自由に物を取り出せる。

 欠点として、何が出てくるか分からないということだ。

 ただし、入れた物を一つに絞ればそれは違う。

 確定だ、他の物を入れなければガトリング砲が出てくるという訳だ。

 

 真正面からガトリング砲に打ち勝てる未来が見えなかった。

 逃げたいという気持ちはあるが、ここで逃げることはできない。

 依頼された仕事だ、完遂するのみ。

 

 ここにライアンがいれば仕事はしやすいんだが……。

 俺の姿がバレ、仲間は誰もいない。

 暗殺も一度は失敗はしっている。二度目の暗殺は一度目よりも限りなく低い。

 なら、それを利用するだけ。

 

「バレた場合の戦い方、やるとしますか」


 立ち上がり、二振りの剣を握った。

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