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26話 遠征訓練 9

 ただ一人、駆ける。

 一緒にいたフォーリンは不気味な魔物と戦っているはず。

 そんな魔物と戦っているぐらいなら、人を助けた方が良い。

 人を攫う。そんなことできるのなら人のほうがまだマシ。

 殺すのは、魔物よりも人が得意だから。

 

 ゼスティ大森林の中層、第一陣よりいた所よりもさらに奥へ進むと鬱蒼とし始め、日の光も届かなくなってくる。

 僅かに漏れる木漏れ日が鬱蒼とした森をさらに不気味にさせ、それでもまだ走る。攫われる学生を助けるために。

 その学生を救うために騎士が十名ほど向かったらしいが、戦いの音は聞こえてこない。

 

 既に救った後か? そんな事を思いながら走り、その理由に気づいた。

 顔を上げると、その異物が目に映る。

 あまりにもおかしい。誰もが、百人中百人が見ればそれは異物だと判断するだろう。

 

 鬱蒼とした森。そこにある太い木、幹から横に伸びる枝は人が乗っても折れそうにないほど太く、厚く、頑丈そうだ。

 その枝には縄が括り付けられている。

 ただ、それだけであれば多少の違和感があるものの、そのまま通り過ぎるだろう。

 

 だが、それを見たら足を止めてしまう。

 縄より先には、人がいる。

 手足をダランと垂らし、もがく様子はない。

 その人は甲冑を着ていて顔は見えず、繋がっている縄は首にある。

 

 死んでいる。いつ、死んだかは分からないがもう生き返ることはないだろう。

 枝に吊るされた騎士に向かい合うように、反対の枝にもう一人、騎士が吊るされている。

 二人、この場で死んでいた。

 

 吊るされた騎士は高く、縄を斬ろうにも少しばかり時間がかかる。

 その時間をかけるぐらいなら、学生を救出した方が良い。

 先を進む。

 足を進めながら、嫌な予感はしていた。

 二人の騎士が死んだ。なら、残りの騎士八人はどこに?

 

 先を進んでいくと、それは見えてきた。

 また木の枝に騎士が吊るされている。先程と同じ二人。

 合計四人、残り六人。

 これはもう絶望的だ。

 

 生きていることはないだろう、そんな事を思っているとまた木の枝に吊るされていた。

 残り、四人。

 六人が吊るされており、大体等間隔に吊るされている。

 また、この先も吊るされているはずだ。

 

 ここまで来ると、意図的なのは目に見えて分かる。

 どうして木の枝で吊るすのか、それが分からない。

 大体の予測として、愉快犯か時間稼ぎか。

 その二つが頭の中に思い浮かび、頭の中にあるのは一つだけ。愉快犯だ。

 

 何故、等間隔で吊るす? 時間稼ぎなら他にもやりかたはあったはず。

 先へ進めば、案の定騎士が吊るされていた。等間隔で。

 十人、騎士は吊るされていた。多分、この先にその吊るした人間がいるはずだ。

 

 殺意が湧いてくる。

 人を殺すのは楽しむものではない。仕事だ、そこに遊びは存在しない。

 そんな殺しを楽しむ人間、この世界に生きてはいけないのだ。

 

 握る手が強くなる。

 殺意を表に出さず、胸の中に封じ込めて進むと開けた場所に出た。

 周りに木がなく、凸凹しておらず平坦な開けた場所の中央に二人の人間が見える。

 

 一人は騎士ではないにせよ、動きやすい防具を身に着けている少女が一人。手首足首を縄で縛り、自殺しないように口を縄で猿轡代わりにしていた。

 少女は目を瞑り、眠っているように気絶している。

 地べたで横になっている少女の上、跨るようにメイドが一人。

 

 黒を基調としたメイド服。顔に表情がなく、冷たい印象を感じさせる。髪が銀髪とよりその印象を強くさせ、両側上部で二つに束ばねて下ろしている。

 一歩踏み出すと、こちらに気づいたメイドが顔を向けた。

 

「また来客ですか?」


 うんざりした口調で彼女は言う。

 また、という言葉に少し違和感を覚える。

 普通ならこの場面でまた、と言う訳がない。気絶している少女は縄で縛られ、木に吊るされる騎士も縄だった。

 彼女の犯行だろう。

 

「また、か。騎士を殺したのはお前か?」


「ええ、そうですが?」


 無表情だった顔が僅かばかり笑みを浮かべる。

 何故そこで笑みを浮かべる? と、疑問に思いつつも吊るされた騎士を見て思った事を質問した。

 

「それなら聞くが、どうして騎士をあんな場所で吊るした? 吊るすにして、別の場所があったはずだ」


「そうですね。……ただのストレス解消ですかね」


 時間をかけて絞り出した言葉。それがストレス解消だと聞き、プツンと頭の何かが切れた音が聞こえたような気がした。

 あんな見せびらかしたが、ストレス解消? 人には尊厳があるはずだ。

 悪人であれ、善人であれ、人だ。彼、彼女を思っていた人間が少なからずいるはず。

 そして、人間であるのなら尊厳を最低でも守らないといけない。

 

 これはエゴだ、俺のエゴだ。ポリシーでもある。

 殺した人間をストレス解消のためにあんな場所に吊るすなんて、理解できないし理解したくもない。

 こんな人間、存在しちゃいけないんだ。

 

「ストレス解消で見世物にするか、糞だな」


 することは決まった。やる事も決まった。なら、あとは実行するのみ。

 剣を抜く。あれが何であれ、首を刎ねれば死ぬ。

 首を斬るのみ。

 

「今ここで殺してやるよ、クソ野郎」


「私を殺すんですか? 無理ですよ」


「舐めるなよッ!!」


 これでも影の王と呼ばれていたんだ。それだけの自負はあるし、力量もあると分かっている。

 詰めようと動こうとした時、後ろから何やら草を掻き分けるような音が聞こえた。

 それは小さく、歩けばその音でかき消されるほど。

 振り向くと、草むらが生き物のように縄が飛び掛かって来たてい。


 剣を振り上げる。

 縄は斬れ、左右に分かれた。斬れた縄の切れ端が地面に落ち、分断した縄の一つがまた落下とは違う動きを見せた。

 それに瞬時に反応し、違う手で剣を使い薙ぎ払う。

 上下に分かれた縄は地に落ちる。

 

 なるほど。相手は縄を操る魔法か。

 脳裏に吊るされた騎士を思い出す。

 騎士も、縄に吊るされていた。背後から縄が近づき、首を絞めたのだろう。

 蛇よりも小さく、音も小さい。気づくのは無理だ。

 だが、これでも元暗殺者。これぐらいの事に気づかなければやっていけない。

 

 縄を操れるのは一つか。

 最初に斬った時、二つに分かれて縄が動いたのは一つだけだった。二つ、操れるなら操っているはず。

 小さい縄を地面に這わせ、音もなく近づいて拘束。というのがメイドの戦法だろう。

 

 縄が分からなければ、あっさりと死ぬ。ただ、それを操る魔法を使っているのでどこから来るかは大体分かる。

 視線が動く。右か?

 右から来る縄を斬り落とす。

 左? いや、後ろだな。

 

 次々と迫る縄の罠を掻い潜り、前へ進む。

 明確に言葉に言い表せない何か、本能といってもいい。

 今まで培ってきた暗殺者として技量、そして勘がどこから来るか教えてくれる。

 

 ただ、あの縄に捕まれば最後、締め付けられて死ぬ未来が見えた。

 だから必死に避けるが捕まらないせいで時折、ブラフで視線とは別方向から縄が飛んでくるがそれも楽々と躱す。

 

 ブラフが素直なのだ。すぐに見分けがつく。

 メイドまでの距離まで、あと十歩。

 

 

 

 彼女は焦っていた。

 初対面の印象は、女っぽい冒険者。

 腕は細くひ弱で簡単に折れてしまいそう。

 殺すのは簡単、そう思ったのが間違いだ。

 

 会話の途中で進路上とその周りにばら撒いた縄の八割が避けられ、斬り落とされている。

 縄の移動速度は遅い。人よりも。

 だから一度避けられれば追いかけるのは難しく、捨てるしかない。

 

 さらに斬られた縄も手や足首を絞めつけるほど長くなければ使い道はない。

 それを分かって絶妙な大きさで斬り落とす。

 打つ手がどんどんなくなっていく。

 

 こうなったらっ!!

 

 足元に倒れている少女に拘束する縄の魔法、両手首と両足首に絞めつけた縄を解く。

 解かれた縄の魔法は特に変わらない。同じ締め付けだ。ただ、暴れて抵抗されるのに弱い欠点がある。

 

 だが、目の前の相手にそんな手加減をする余裕がない。

 訂正しよう。相手は強い。もしかしたら、私よりも。だから、本気で行く。

 これで操れるのは五本! 念のため、最終手段も用意しておきましょう。

 

 

 

 ん? 気配が変わったかな?

 今まで舐めていたような、そんな目つきが急に変わった。

 引き締まったというか、本気になったというか。

 正確に分かる訳ではないが、変わったような気がする。

 なら、こっちもお試しだけどやってみるか。

 

 間合いまで七歩、六歩、五歩、四──。

 縄が飛んでくる。その数、五つ。

 後ろから来てる気配はない。

 左右と前方。剣で全て斬り飛ばせるかというと、否。

 

 縄が全て同じ高さで飛んでいるわけではない。

 一本は首を狙い、他は手首や足首を狙い飛んでいて、鷹さが全然違う。

 それら全て斬り落とすのは不可能。斬り落としても、一本は確実に斬り落とせない。

 そういう風に飛ばしている。

 

 まあ、してくるだろうとは思っていたよ。

 

「影魔法。影縛り」


 地面から伸びる影の手が縄を拘束。地面に叩き落す。

 メイドは地面から伸びた影に驚き、身体が硬直して反応が少し遅れた。

 はい、詰み。

 

 大きく踏み込む。この一歩で、相手の首まで届く。

 剣を両側から左右に振り切る。

 メイドが後ろに下がるが、剣の間合いに入っている。

 

「そこは、俺の間合いだッ!!」


 剣はメイドの首に触れ、剣を振り切り、宙に舞う。

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