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25話 遠征訓練 8

 森の中を駆ける。

 走るのは得意だ。昔からよく走っていた。

 人を殺すために走り、逃げるために走り。

 それがまさか、守るために走るとは思わなかった。

 人生、色々あるものだ。

 

 第一陣がいるのは森の中層。第二陣が上層と、どこまで距離が離れているか分からないが、戦いの音は聞こえない。

 それに、走っているが魔物の姿も見えない。もしかしたら、第二陣に投入した魔物で、周りにはいないのかもしれない、という可能性を考える。

 

 もしその可能性が当たっていれば、魔物との遭遇率は限りなく低いはずだ。

 走り続けてかなりの時間が経ち、流石に息切れを始め少し休もうかと考えていた直後、戦いの音が聞こえる。

 戦闘音!!

 

 その音が聞こえるということは、誰かがいるということ。

 急いで向かい、状況を確認する。

 見る限りでは、魔物に囲まれていた。

 第二陣に出たような狼の魔物や熊の魔物ではなく、木の魔物に豚や鬼と言われるゴブリンが進化した種もいる。

 

 こちらのほうがバラエティー豊かだ。

 強い集団が集められているとはいえ、第二陣のほうが手抜きのように感じる。

 その手抜きのお蔭で、ギリギリ生き残れているのだから口には出せないが。

 

 数も多い。おかげで、中央がどうなっているのか分からない。

 戦いの音が聞こえるから生きているのは分かるが、どういう状況か知りたいのだ。

 よく見れば、魔物の中に人間が混ざっている。

 ただ、魔物とは敵対していないことから暗殺者なのだろう。

 

 暗殺者の装備が冒険者でよく見るような防具、身体をしっかりと守るような防具であり、暗殺者が着る身動き重視の防具ではない。

 もう隠す気はないのか? 暗殺者の他に傭兵か冒険者のどちらかが混じっている。

 冒険者は現状、こちらに着いているのだから、傭兵ということになる。もしくは、別の国の冒険者か、だ。

 流石にそれは考えすぎだろ。

 

 さて、こちらも仕事をするか。

 気分を変えるように、二振りの剣を持って戦場に行く。

 

 最後尾にいた男が戦場とは見当違いの方向に視線を向ける。

 はい、お終い。

 後ろから一突き。さらに捻り、剣に注ぐ魔力をなくして刀身を消し、剣を男から離して刀身を出す。

 

 男は地に倒れ、傷口から血が流れる。土を赤く染め、その事に誰も気づかない。

 周りの人、魔物は見当違いの方向を注意しているのだ。

 

 隠密魔法。その効果は、気配を消すこと。

 ただ、裏を返せば気配を増大させることもできる。

 それを利用して別の方向に意識を向けさせ、自分は隠密することも可能なのだ。

 

 シンプル故に強い。

 ただ、殺しすぎると流石に気づかれる。というか、気づかれた。

 周りが敵だらけの戦場から抜き出し、ようやく中央に着くとリンジャオが見える。

 リンジャオは左手の上に半透明な弓、クロスボウが乗っかっていた。

 

「リンジャオ!」


 名を叫ぶと、リンジャオもこちらに気づき、破顔し左手のクロスボウで援護してくれた。

 騎士がそれに合わせるように動き、周りを蹴散らしてくれる。

 お蔭で中央まで無事に移動することができた。

 

「助かった」


「いえ、こちらが呼んだんです。それでお願いしたいことがあります」


「お願い? こっちも色々問題が起きた」


 隠しておきたかった影の王がバレた事。知っているリンジャオぐらいには話しておいた方が良いだろう。

 短い日数しか接する機会がなかったが、苦労人だというのが分かった。そして、有能だ。

 話しておけば、なんとかしてくれるはず。

 

「問題ですか? 先にそちらから説明をお願いしてもいいですか?」


「影の王だとバレた」


 リンジャオに近づき、肩が触れ合いそうな距離で声を小さくして言葉を漏らす。

 それを聞き、リンジャオは絶句する。

 

「どうして?」


「昔馴染みだ。それだけで理由はいらないだろう?」


「なるほど。道理で相手に殺し屋紛いがいるんですね」


「そういうことだ。ただ、全員が暗殺者じゃない。半数以上が金で雇われた人間だ」


「そうですか。それよりも……」


 リンジャオは戦いながら、苦悩し始める。

 分かるぞ、その気持ち。この先、どうするか本当に悩む。

 影の王だとバレたことで、まず騎士との関係が悪化する。

 前騎士団長のフォードルを殺したことで、恨んでいる人間が少なからずいるのだ。

 第一陣には知らせないほうがいいだろう。

 

「その事は、こっちで考えます。それでこちらのお願いなんですけど、攫われた学生の救出をお願いしたいんです」


「救出? 攫われたのか」


「はい。それで既に騎士が十名ほど向かいました」


 騎士が十名。周りを見ると、騎士が多い第一陣のはずだが確かに数が少ない。

 数が少ないとはいえ、精鋭揃いの第一陣。学生も優秀らしく、なんとか踏みとどまっている感じだ。

 

「で、帰ってこない訳か」


 呼んだ、ということはそうだろう。

 

「はい」


 そうなると、既に死んだかどうかだ。それに、今のこの数だ、手助けしてくれるかどうか怪しい。

 最悪、一人でやるしかないのだ。

 

「分かった。行って来よう」


 早めに行った方が良いだろう。

 今の状況、時間が何よりも貴重だ。

 

「一人じゃ無理だろう。フォーリンもつける」


「いいのか?」


 まさか増援がいるとは思わず、それも冒険者の中で最大戦力を与えられるとは思いもしなかった。

 

「ああ。一人じゃ厳しいだろう?」


「助かる」


 その言葉しか見つからなかった。

 隠密魔法は一人ではできる事が限られてくるが、誰かと一緒にいることでやることがかなり増える。

 

「フォーリン! カインと一緒に攫われた学生の救助を頼む」


「救助? 分かった!!」


 ミディアムの赤髪の少女、フォーリンは片手剣を持って中層よりさらに奥へ行こうとする。

 その先には当然ながら魔物や人がいて、邪魔をしている。まずそれを排除しないといけない。

 じゃあ、行こう。と気軽に剣を振るいながら魔物の群れに突っ込んでいく。

 

「雷魔法。ビリビリ噴射!」


 剣を下から上に振り上げると、それに呼応するように空を切った斬撃の先で地面から雷撃が噴き上げる。

 まるで、溶岩が噴火するように。

 雷撃に飲み込まれた魔物は一瞬で魔石になり、人は黒焦げに変わる。

 

「行くよ! 着いてきて」


「……ああ」


 流石Aランクの冒険者というべきだろうか。

 一瞬でこれだけの敵を倒すのは、凄いという言葉しか出てこない。

 フォーリンが切り開いた道を駆け抜ける。

 追いかけて来る魔物が少数いるが、前を走っていたはずのフォーリンが振り向くと消え、後ろで魔物の断末魔が聞こえると、後ろから走ってまた前の方を走っていく。

 

 化け物だな。

 その一言に尽きる。

 同じ事をやれ、と言われても不可能だ。

 魔物を倒した時間なんて、一秒ぐらいだろう。それも、一体だけではない。

 片手の指くらいで足りるはずだ。

 その数を一瞬で倒すなんて、不可能。

 

 もうフォーリン一人で足りるんじゃないか?

 そんな事を思ったが物事はそう簡単に済まなかった。

 あの魔物が現れるまでは

 

 一言いえば、肉塊。

 まん丸の形で不気味な姿。誰もが嫌悪感を抱く、そんな魔物だ。

 いや、これは魔物なのか? 疑問に抱くほどの化け物。まるで人が作り出したような。

 

 それはドクン、ドクンと肉塊の周りある血管がに血でも流れるように脈打ち、産声を上げる。

 

「「「あ、ああ、あ? ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛ッ!!」」」

 

 肉塊から顔が生まれる。

 それは一つではない。幾つもだ。

 生まれた複数の顔が同時に、声を上げ周りに拡散する。

 

「行って」


 フォーリンは嫌悪感を現しながらも、その顔には確実に殺すという殺意を僅かに漏らしている。

 

「ああ」


 任せるしかない。

 邪魔なんて出来るはずがない。あんな顔を見れば。

 それに出会ったことない魔物と戦えるほど、強いわけではないのだ。

 ここはAランクの冒険者に任せるしかない。

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