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24話 遠征訓練 7

 槍が脇腹を突き刺し、貫通して風穴が開いた。

 投げ槍を受けたことで大剣による重みが減り、その隙を突いて一瞬で逃げる。

 後ろに下がると、ライアンが横に並ぶ。

 

「すまん、助かった」


「気にすんな。こんぐらいの事、朝飯前だ」


 ライアンの援護で、なんとか窮地を脱することができた。

 ザスは脇腹に穴が開いたことで力が入らないのか、大剣を持ち上げずに地面に下ろしている。

 懐から何やら探る動きをしており、大体は察した。

 

「ライアン、頼んだ!」


 即座に動いた。背後を取るように、遠回りだが回り込む。


「はっ!? 何を?」


突然の土壇場の連携に、ライアンは慌てふためく。


「さっきと同じことをすればいい。あとはこっちで合わせる」


「合わせるって……そういうことか」


 ザスの動きを見て理解したライアンが、距離を詰める。

 槍はザスを貫いたため、後ろで地面に突き刺さっていて使えない。

 ライアンは拳を握りしめ、徒手空拳で挑む。

 ザスは片手が懐に入れて何かを探っている最中だ。ライアンが距離を詰めて来たことで、懐に入れていた手を出して迎え討つ。

 懐から出した手には、手の平で握れるほどの薬瓶を握っていた。

 それを持っている右手が、壊さないためにも左手だけを使って対応する。

 

 両手と片手。足があるといっても、片手だけだという不利であり、どちらが勝つかは目に見えていた。

 徐々に不利になっていくザス。右手が使えない現状、今を変えるには一つ。

 右手に持っている薬瓶、回復ポーションを使うことだ。

 

 戦いながら、右手の指を器用に使って瓶の蓋を開けようとする。

 飲めば瞬時に回復するという訳ではないが、回復速度は速い。

 傷口が塞がり、怪我が何もないようになくなる。

 使えば傷がなくなるが、精神的な疲弊はなくならない。

 痛みでいつも通り動けないザスは回復ポーションを使おうとする。

 それを狙っていた。

 

 こちらに意識を向けなくなり、注意しなくなる。それが隠密魔法の真髄。

 背後から忍び寄って剣を振り下ろす。

 剣を持つ手から肉を断つ感触と血飛沫が伝わり、回復ポーションを持っていた右腕が取れた。

 

 ザスが気づくが、何かされる前に離れる。

 その前に斬った右腕を掴んで持って行き、ライアンの隣に並ぶ。

 

「助かった、感謝する」


 掴んだ右手が握っている回復ポーションを奪い取り、何も持たない右手は放り捨てる。

 どれだけの質があるか、この回復ポーションは知らないが脇腹に空いた穴を修復しようと使うほどだ。質は高いはず。

 使わせるわけにはいかない。

 

「いいさ、気になしなくて」


 ライアンがまだザスを警戒している。

 その間に回復ポーションを影の中に落とす。

 ちゃぽんっという波紋が影の中に広がり、回復ポーションは影に沈んでいく。

 

 回復ポーションは使わないことで、ザスは脇腹に穴が開いた上に右腕の肘より先が斬り飛ばされた。前よりもさらに負傷している。

 これはもう、リンジャオの方へ助けに行けるのではないか、と考えてしまう。

 

 ザスと戦う前に起動した、リンジャオから渡された連絡手段が気になる。

 何かしらのトラブルが起きたからこそ、あれは起動したはずだ。

 雑音が酷すぎて何を言ったのか分からないが、行ったほうがいいのは確か。

 

「ライアン、すまんがお願いがあるんだがいいか?」


「お願い?」


「ああ。ちょっとあれの相手をしてほしい。俺は第一陣に行きたい」


「分かった、行ってこい」


 即答だった。少し逡巡するかと思ったが、まさか即答するとは思わなかった。

 こういう時に即答してくれるというのは、頼もしい。

 

「すまん、頼んだ」


 この場から離れた。第一陣の所まで走って向かった。

 

 

 

 カインが離れ、残ったのは二人。

 ライアンとザスだ。

 二人は睨み合い、その後ろでは暗殺者と魔物、騎士や冒険者が戦っている。

 

「あれを仲間だと思うのか?」


 ザスが話しかける。その顔は怪我で脂汗を流し、苦しい表情をしていた。

 

「仲間?」


 ただの時間稼ぎだというのは分かっていた。

 負傷し、右腕もない。勝ち目は限りなく薄い。それで出来る事と言えば、時間稼ぎくらいしかない。

 聞く耳は持たず、倒せばいい。しかし、勘が話を聞けと囁いていた。

 

「ああ、あれは影の王だ。知っているだろ? 影の王の噂ぐらい」


「聞いたことはあるさ」


 影の王。最強の暗殺者だと認識はある。

 傭兵のため、戦場に出てくることはあるかもと思っていたが、出会うことはなかった。

 ただ、カインが影の王だと信じれるか、と言えば信じる要素はいくつかある。

 

 ゴブリン退治の時、洞窟の中でまず足音すらなかった。気配もなかった。

 暗殺者だと言われれば納得だ。

 

「で、カインが影の王だと?」


「そうだとも。そんな男と一緒に仕事をするのか?」


「ああ、するさ」


 即答した。悩む理由? そんなものない。

 その答えに理解できなかったのか、ザスの男が引き攣っている。

 信じきれない、という顔だ。何故、信じきれないのか、それが分からない。

 ただ、揺さぶる理由があるのは分かる。

 

「カインが過去に、この国に何かしたのは分かった。だが、生憎と俺は新参者だ。この国の事について詳しく知らん」


 ザスの顔の眉間に皺が寄る。理解はしてくれたようだ。

 ただ、もう一つ理由はある。

 

「それに、カインが影の王だろうが関係はない。俺にとっては命の恩人だ。それだけで助ける理由はいらん」


 腹が減って死ぬ寸前に、親切心だけで飯をくれた。

 冒険者になった上に、一緒にいてくれた。それだけで十分なのだ。

 

「時間稼ぎは終わりか? お前の話はもう聞き飽きた」


 カインが影の王だというのは本当らしい。

 現に、冒険者の動きはそこまで変わらなかったが、周りの騎士の様子が少し違う。

 前以上にピリピリしている。

 カインがいた時は、殺気を飛ばす者もいるほどだ。

 

 こりゃあ、騎士となんかあったな。

 すぐに理解できた。

 ただ、冒険者で元傭兵の俺には関係ない。恩人の願いを叶えるだけだ。

 

「ああ、時間稼ぎは終わりだ」


 ザスが視線を横に向けると、その先には斬り飛ばしてカインが捨てた右腕を持ってくる暗殺者がいる。

 斬り飛ばして右腕を暗殺者は断面にくっつけ、回復ポーションをザスに渡してそれを飲む。

 

 脇腹の傷がすぐに塞がり、斬り飛ばした右腕も指先が動く。

 まじか!!

 腕を斬れば、普通はくっつかないし動かない。

 だが、高品質で高い素材を使った回復ポーションはその限りではないのだ。

 

 それほどの物があるとは思わなかったし、まさかここで使用してくるとは。

 すぐに戦いが始まる。

 武器である槍はザスの奥。取りに行く前に殺されてしまう。

 

 近場に武器は、と探すと死体となっている暗殺者が持っていたであろう片手剣を二振り、拾う。

 

「こんなひょろっちい剣、俺は好まんがやるしかないか」


 力で押し通す癖があるため、頑丈な武器をよく使う。

 片手剣もそんな細いわけではない。店売りの武器だろう。

 ただ、雑に使うせいですぐに壊れるのだ。

 

 こちらが剣を拾った時にはザスも右腕が完全に動くようになり、大剣を掴んでいる。

 

「こちらも回復した。やろうぜ、殺し合い」


 カインの抜いた二人の殺し合いが、幕を上げる。

 それを後ろから見ている一人の少年が、決意の目で見ていた。

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