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23話 遠征訓練 6

 ライアンが三体のグルゥーゼを瞬く間に倒してみせた。

 諦めムードが前線に流れていたが、あっさりと三体のグルゥーゼを倒したことで僅かばかりだが期待が湧く。

 残りの数は十と少し。集まっただけで騎士と騎士見習い、冒険者がなんとか対応できる数だ。。

 

「魔法、用意!」


 騎士のリーダー格が指揮を執る。その声に従って魔法、そして矢を番えて準備をする。

 射程距離に入るまで、待つ。

 迫るグルゥーゼに誰もが恐怖に駆られ、早く魔法を、矢を撃ちたいという気持ちになる。

 

 しかし、それは駄目だ。これだけの人数を集められた。その理由は圧だ。弾幕だ。

 一つじゃ駄目でも、それが多ければ脅威となる。

 だから指示が来るまでひたすら待つ。が、それでも恐怖でやりそうになってしまう。

 

「まだだ、まだ」


 入ってくるのを待つ。

 一瞬の判断で全滅するため、緊張で顔から汗が流れる。

 心臓がバクバクと、五月蝿いほど鼓動が大きい。

 落ち着け、落ち着け、まだだ。

 逸る気持ちを抑え、グルゥーゼの群れが射程距離内に入ってくるのを待ち、ようやく一歩が射程距離の中に入り込む。

 

「撃てぇええええええええッ!!」


 あらん限りの声で叫ぶ。

 それに応えるように、魔法が、矢がグルゥーゼの群れを襲う。

 魔法は真っすぐに、風の斬撃、氷の礫、火球。矢は弧を描いて上から降り注ぐ。

 それでもグルゥーゼは止まらず、騎士が魔法を組み合わせて炎の竜巻を起こす。

 

 それでもグルゥーゼは止まらない。

 しかし、負傷していない訳がなく、深手を負っていても彼らは止まることはなかった。

 人を殺せ、という命令がある限りグルゥーゼは動き続ける。

 魔法と矢の雨を浴びながらも、グルゥーゼは人の最前線と激突した。

 

 

 

「やってるな」


 後ろで戦闘の音が激化するのが聞こえる。

 本格にぶつかったのだろう。

 こちらも、後ろに漏れないようにしっかりと排除していかないと。

 冒険者と連携しつつ、魔物を倒して暗殺者を殺し回る。

 

 前職が暗殺者だったからだろうか、魔物をやるよりも人を殺した方が楽だ。

 それにしても。

 ある程度、こちらの戦場が落ち着きつつあるせいか、心のゆとりが取れてゆっくりと戦場を観察することができる。

 

 魔物の数も減り、暗殺者のほうが多くなっていく。

 その事に不満はない。魔物を相手にするよりも、人を相手したほうが気楽だから。

 これだけ魔物の数が減っても、まだ暗殺者が多いということはそれだけの人間を投入しているということ。

 

 疑問に思うが、影の国の暗殺者はこんな死ぬ前提の戦場で戦うほど馬鹿ではないし、戦場に送り出さない。

 しかし、戦場にいるということは影の国ではない別の勢力から送り出しているのだろう。

 

 戦い方を見ても、暗殺者のような気配を消して忍び寄るのが基本なのだが、そんなことはせずに正面から戦っている。

 その中に一部、本当の暗殺者が紛れている。その暗殺者を集中的に殺すわけだが。

 

 こっちの方はなんとか落ち着いてきたな。あっちのほうに加勢したい気持ちもあるが、ここを崩されるわけにはいかないし。

 少し悩み、どうしようかと考えている時、懐に入っていた物が鳴る。

 なんだ?

 振動するような物は入れた覚えがなく、取り出すとそれはリンジャオから渡された物だ。

 これは確か、連絡手段か。あの時は会話できる、と言っていたが……。

 

 耳元に当てるが聞こえるのは振動。時折、声だ。

 声を一言も聞き逃すまいと耳に当てて聞き取るのに集中したが、そのことに集中しすぎてそれが動き出した事に気づかなかった。

 ある意味、今の戦場はそれにとっては都合が良い。

 

 戦力の大部分がグルゥーゼに悩まされ、薄い部分にはあれがいる。

 入るなら今だ。

 それが来たのを一番先に発見したのは騎士達である。

 恰好が近いのは冒険者。筋骨隆々で鎧を着ているが面積が少ない大男。

 着ている鎧は厚みが薄く、ほぼ肉体を剥き出しだ。

 さらに、背に人一人分ほどの大きな分厚い大剣を背負っている。

 

 そんな見た目をしているため一目で注目を引くし、そんな者が第二陣にいないというのがすぐに分かった。

 

「止まれ!!」


 騎士は既に抜刀している。

 これは忠告だ。武器はあるが、構えていない。戦意があるのなら、武器を持っているはずだ。

 しかし、止まれと言って止まるほど彼はお人よしではない。

 

「止まれ? そんなこと言って誰が止まるかよ」


 大剣を掴んだ。

 それだけで騎士には動く答えを与えた。

 斬りかかろうとしたが、突然身動きを止める。

 中途半端な姿勢は隙となり、気づけば横殴りに振るっている大剣が迫っていて、防ぐことしかできなかった。

 

 その一撃は絶大。大の男が宙に浮き、吹き飛ばされる。

 魔法による武器、剣のおかげで壊れることはなかったが、それでも吹き飛ばされた身体はボールようにボンボンとバウンドして跳ねていく。

 

 大男に気づいた騎士や騎士見習い、冒険者が戦うがことごとく先手を譲っているのに対して攻撃できず、逆に攻撃されて傷を負って戦闘不能にされていく。

 ゆっくりと歩いて来て近づいたそいつに気づいたのは、少し遅れて。

 視界の中に入り込んだ時であった。

 たった一人なら他でも大丈夫だろう、という油断しきっていた。だからこそ、気づくことに遅れる。

 

「久しいな。影の王!」


「ザスだったか。まさか、こんな所で出会うなんてな」


 最悪な事だ。

 影の国を抜ける時に戦った、影の国が雇った殺し屋と戦うなんて思っていなかった。

 そして、まさかこんな所で今まで隠してきた影の王が、こんな形ばらされるなんて。

 

 影の王だと周りにバレた。

 その影響で、こちらを観察するような視線に晒される。

 

「あれが影の王?」


「本当に?」


 周りから疑問の声が浴びる。

 魔物や暗殺者が減ったからこそ、ある程度余裕ができたからこその行動だ。

 

 確かに、今までそんな姿見せていないんだし疑問に思うのも当然。

 そもそも暗殺者は影から潜んで殺すのが仕事。

 今みたいに正面から戦って全力が出せる訳がない。

 その点、今回も本気は出せない。既にバレているのだから。

 

「なんだ? 自分が影の王だと言っていないのか?」


 ニヤリ、とザスが悪い笑みを浮かべている。

 こいつ、分かってて言ったな。

 ただ、それはある意味好都合だ。周りから信用されていないのだから、白を切ることもできる。

 まだ、自分の事を影の王だと言っていないのだから。

 

「影の王? 何のことだ? 俺はDランク冒険者のカインだが? 影の王なら、既にAランクにいてもおかしくないだろ」

 

 その言葉に、周りが確かにと納得の空気が流れた。

 周りから納得という空気が流れたからか、ザスは影の王を使っての場の混乱をさせるのをやめる。

 

「確かに、最強の暗殺者ならAランクかもな。なら、戦って実力を晒すとするか」


 大振りな大剣の振り下ろし。

 既に間合いに詰められ、当たれば脳天が潰れる未来が見える。

 防ぐとしても膂力がそこまでない。

 女性にも見える顔つきを利用して変装することがあるため、筋肉は付けられないのだ。

 だから特殊な鍛え方で必要最低限はあるが、それで大剣の唐竹割を防げるとは思えない。

 

 避けるしか必然的にないのだ。

 横に避けようと足を動かそうとして、身体が止まる。

 ハッ!?

 足が動かない。どうして?

 

 目だけは動く。視線を動かし、ザスを見る。

 ザスの右目が紫に妖しく光っていた。

 魔眼か? こんな時に!

 気づいた時にはもう遅い。

 

 避ける間もなく、大剣から真上から迫って来ている。

 防ぐしか手立てがない。

 二振りの剣で交差するように、少しずらして受け止める。

 重みが一瞬にして来た。

 

 重い塊を受け止めたような感触が腕に伝わり、その一撃は身体を沈ませ、ほんの僅かに土に足がめり込む。

 なんとか受け止めているが、腕が震えて防ぐので精一杯だ。

 

「よく守れたな。ここで殺すつもりだったが」


 さらに重みが増す。

 ぐっ!!

 声が漏れた。

 暗殺者の細腕では、この状況を打開する手立てはない。

 魔法以外は。


「なんだ? まだ抗うか? もしかして魔法を使うつもりか?」


 さらに力が増す。

 このまま押し潰す気ではないか、と思うほどに異常だ。

 周りは助け──。

 視線を動かすが、そこに見えるのは魔物や暗殺者と戦っている騎士や冒険者達。

 学生は下がらせたか、それにしても邪魔はさせないと。

 

 少なかったのに、こうも数が増えるのは意図的なはず。

 一人でやるしかないか。影魔法で攻撃は……集中しないといけないし、硬い物を壊すとなるとその分魔力を消費する。

 この場では影魔法は適していない。そうなると、残る魔法は一つ。

 

 隠密魔法で周りに意識を散らせる。

 

「ハッ!! そんな時間稼ぎ! 誰も助けてくれねえよ」


 そう、かもな。時間稼ぎに思うよな? ただの嫌がらせだけど。

 ザスから重みがさらに増していく。隠密魔法を忘れようと、気にしないようにこちらに集中している。

 それでも俺はまだ生きることを諦めちゃいない。最後まで足掻いてやる。

 それに! 俺には仲間が──。

 

 風のような轟音と共に気づいた時には、ザスの脇腹に槍が突き刺さっていた。

 

 仲間がいるんだよ!

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