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22話 遠征訓練 5

 熊の魔物。

 明らかに狼の魔物よりも雰囲気が、迫力が違う。

 現に、冒険者達が例のあれが出てきたことに動揺している。

 人を殺す生業をしてきたことで、魔物のことについてそこまで詳しくない。

 ここは魔物との戦いを本業としている者の方が詳しいはず。

 

「フォン! あれはなんだ!?」


 近づく熊の魔物を指さす。

 迫る脅威に焦りを隠し切れないせいか、声に見え隠れしてしまう。

 

「名はグルゥーゼ。強さはDランク上位、Cランク下位といった所。あれ一体に最低でも三人は必要で、一人で倒すにはBランクの冒険者ならできますが……」


 言葉の最後には諦めが入ってた。

 勝てない、と言っているようなものだ。

 確かに数も十は軽く超え、二十まで届かないが脅威。それでも、手がない訳がない。

 

「ライアン!」


「どうした?」


 軽い運動でもしてるように、息を切らさずに魔物と戦っているライアンは薙ぎ払って魔物を吹き飛ばしてこちらを向く。

 

「あれ、やれるか?」


「ん?」


 グルゥーゼとは反対の方向で戦っていたからか、まだ見ていなかったようだ。

 ライアンは人よりも遥かに大きい魔物、グルゥーゼを見て臆することなく頷く。

 

「やれるといったらやるが、やるか?」


「ああ、頼む」


 まるで簡単な仕事でもするように頷いているが、頼もしい限りだ。

 

「何体やれる?」


「ん~、初手二体であとは適当に数体、かな!」


 話している隙を狙い、暗殺者がライアンを襲う。

 背後からの強襲。毒の塗り込まれた短剣で傷を負わせようと、逆手で持って斬りかかるが寸前でライアンは気づき、カウンター気味に顔に拳を叩き込む。

 

 顔を殴られ、くぐもった声を上げた暗殺者は吹っ飛び、呻き声を漏らしながら地に転がる。

 身体を起こそうとするが、それよりも先にライアンの足が暗殺者の頭を捉え、踏みつぶした。

 グシャ! という潰れた音と共に地面が赤く染まる。


 背後からの襲撃だったが、よく気づいた。

 背中に目があるんじゃないかと思う。多分、何かしら理由があるのだろうが。


「フォン! グルゥーゼをやるぞ、遠距離から魔法で圧をかませ! 幸い、こっちの方が数多いんだ。騎士もとやかく言うまい。指揮は任せる」


 俺よりも、フォンの指揮の方が他の冒険者への軋轢もないはず。それに、冒険者でいるのはあっちのほうが長い。他冒険者の得意不得意も分かっているはず。

 

「分かった。カインはどうする?」


「俺はライアンの後を継ぐ。暗殺者は任せろ」




 カインが魔物と暗殺者と戦っている。

 その横で、俺とフォンが軽く作戦会議した。

 

「一撃、最初にかます。後は任せた」


 こういう頭を使う仕事は出来る奴に任せた方が良い。

 俺は暴れるくらいでちょうど良いのだ。

 全投げにフォンは悩んでいるが、どうして悩むのか。俺と同じことをしたらいいのに。

 その理由が分からない。

 

「フォン、全部抱え過ぎだ。こういう時は、騎士にもぶん投げればいいんだ。聞けば、騎士が俺達冒険者を見下しているんだろう? なら、その程度出来るはずだ。発破をかけろ」


 これぐらい伝えればいいだろ。戦場が俺を待っている。

 槍を右手で持ち、右肩に預けて熊の魔物、グルゥーゼの方に足を進めた。

 グルゥーゼは立ち上がっていた身体を下ろして四つん這いになっている。

 見た目が熊の魔物。人のように二本歩行で進むのではなく、四足歩行が基本なのだろう。

 ただ、言い方を変えれば四つん這いになったという事は襲って来るということだ。

 

 気づけば前線にまで近づき、他の冒険者や騎士達が暗殺者や狼の魔物と戦っている。

 しかし数は少なく、その奥にいるのはグルゥーゼ。

 あれが来るのを分かって数を少なくしている。逆に、カイン達のほうにその皺寄せが来ている。

 振り向けば、フォンが騎士と話しているのが見え、数を集めているのが見えた。

 

 あちらも準備を進めているな。なら、こちらも。

 やるか、と動き出そうとした時、グルゥーゼも動き始めた。

 疾走する。

 熊よりも二回りほど大きな巨体。人換算すれば、二人から三人ほどの大きさ。

 それが横に並んで疾走しているは、一種の恐怖だ。

 

 さらに、巨体の割には俊敏である。もし人と追いかけっこして先に走ったとしてもものの十秒で、たった一瞬にして距離を詰めるほどの俊敏さ。

 例えるなら、あれはトラックに等しい。

 体当たりに当たれば、吹き飛ばされた後に身体を踏まれてグチャグチャになる。

 吹き飛ばされただけでも、骨が一本か二本は折れる。

 

 近づかれる前に倒したい。

 こちらに近づくグルゥーゼに、フォンと騎士が集めた集団は恐怖に染まる。

 グルゥーゼは最低でも、誰か一人を囮にして戦わないといけないほど強さ。それは、それだけの耐久力があるということ。

 

 数だけを集めても魔法や矢、質が共わなければ意味がない。

 第二陣は第一陣と比べて戦力として優秀ではないため、集められた集団でもある。

 彼らには自信がなかった。

 それ故に倒せるという自信がなく、諦めムードが立ち込めていた。

 

 フォンやこの場の騎士のリーダー格が必死に戦意を喪失しないように奮起している。

 それでも、無理だ、というたった一言でこの場が崩壊するほどにまで陥っていた。

 ただ一人、ライアンはそれを知らない。

 

 ん~、この距離ならいけるか?

 手に持つ槍を投げるように、構えを取った。

 後ろに下がって助走を取り、走って槍を投げる。

 緩やかな弧を描いて槍はグルゥーゼの集団に。

 

 投げた場所がやや右に反れていたためか、槍はグルゥーゼの集団の右側。

 右から二番目のグルゥーゼに吸い込まれ、直撃した。

 一瞬にしての出来事である。

 

 槍投げの速度、そしてグルゥーゼの疾走による速度があまりにも早く、直撃まで時間は五秒以下。

 さらに、あまりにも速いせいでその一撃の貫通力が増し、グルゥーゼは死に至らしめる。

 それができるのも、ライアンの鎧の力。身体強化によるものだ。

 

「そい」


 その身体強化を使い、槍投げをした同時に疾走。右から三番目のグルゥーゼの顔に跳び蹴りを叩き込む。

 ただの跳び蹴りだが、ライアンは吹き飛ばず逆にグルゥーゼの方が尻もちを着く。

 さらに頭部を蹴られたことで脳震盪を起こし、上手く歩くこともできない。

 

 そのまま倒したい所だが、一人で全てのグルゥーゼを倒すことは不可能。できるのは時間稼ぎ。

 それを肝に銘じ、動く。

 左隣りのグルゥーゼが少しばかり遅れていて、その進路上に立ち止まり受け止めた。

 

 身体の重心を落として受け止める準備し、グルゥーゼのほうも目の前に人が立ち、轢き殺してやると言わんばかりに速度を上げる。

 激突は一瞬だった。

 突撃の衝撃に襲われ、身体が後ろに下がり続ける。

 靴が地面に擦れ続け、その後が残るがグルゥーゼに消されていく。

 

 両腕と身体、全てを使って押さえ込もうとするがグルゥーゼは止まらず、走り続ける。

 それでも速度は落ちた。

 一か八か、賭けだ!

 右腕を振り上げ、拳を天に向ける。

 

「ふんっ!!」


 振り下ろした。

 肘鉄だ。

 後頭部に強烈な一撃を貰い、流石のグルゥーゼも動きが止まる。

 止められたことで激情に襲われるグルゥーゼは立ち上がり、前足の長い爪で顔を狙って横殴りに斬り裂く。

 

 これは駄目だ。

 受け止めたらいけない、と勘が囁き上体を後ろに反らして避ける。

 もし当たれば、鎧を引き裂いた上に爪が身体の肉を裂き、臓物を地面にまき散らしていただろう。

 

 グルゥーゼの爪が顔の上を通り、身体がブリッジのようこ反れる。

 限界にまで身体を反らした時、視界の右端に槍が見えた。

 それを見て瞬時に理解し、身体が動く。

 ブリッジした身体が地に落ちた。

 その隙をグルゥーゼは見逃さず、前足で踏みつけようとするが横に転がって避ける。

 

 転がった時には槍が手で掴める範囲であり、掴んで起き上がるのを一つの行動にして、膝立ちで薙ぎ払う。

 前足を斬り裂き、グルゥーゼは僅かに態勢を崩した。

 そのときには既に立ち上がっており、槍を振り下ろすように突き刺す。

 

 動かなくなる程度まで何度も突き刺すと、視界の端にグルゥーゼが疾走するのが見えた。一番右のグルゥーゼである。

 前線と激突する寸前だ。

 

「やらせるか、よッ!!」


 槍を投げた。

 僅かな助走だったが、それで十分。

 後ろ脚に槍は当たり、グルゥーゼは態勢を崩した。

 

 三体の動きを止めた時にはもう前線とグルゥーゼの戦いは始まっている。

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