20話 遠征訓練 3
第一陣が出発して少し、第二陣は出発する。
上層だからそんなに早く行かなくてもいいのだが、まだ経験したことない学生もいる。時間がかかるのを越してのことだ。
先頭は騎士、そして学生の騎士見習い。くの字で中央の学生を前方、そして側面を守る形である。一番の層が厚いのは前面。
後ろは冒険者が守る形で、ついて行くだけの簡単な仕事。
魔物も基本は前から襲ってくるはず。騎士や騎士見習いが倒してくれるはずだ。
おかげで、こちらは暗殺者に集中できるというもの。
ゼスティ大森林の行軍は滞りなく進む。
森に入ってすぐのせいか魔物との戦いは起こらず、ゆっくりとした時間が流れる。
それでも、視線は感じた。
見られているな。着かず離れずで、距離をとっている。やる気はまだない、か。
暗殺者もまだこちらを襲う気はないようだ。
隣に視線を向けると、ライアンが自然だ。緊張した様子もなく、いつもと同じ。
見られていると感じたのか、ライアンと視線が合う。
「なあ、カイン。なんか見られているような気がするんだが、どう思う?」
「ライアンも分かるか」
これは喋ったほうがいいか? いや、喋って教えたほうが協力してくれるな。
「ああ、昔の気分が蘇るよ」
「これは定かな情報ではないけど、この森に暗殺者がいるという話がある」
あまり他人に聞かれたくない話で、声を小さくする。
「どうしてそれを他の奴らに事前に伝えなかった?」
諫めるような厳しい顔で言及する。
既に知っているのだから、それを隠すというのは責められて当然の事。
知っていれば回避できることもある。
「色々と理由はあるが、まずは情報が定かではないという事。嘘か本当かも分からない情報で、混乱させたくない。この気持ち、分かるだろ?」
「確かに、戦場は嘘の情報で死ぬことはある」
悩む様子で眉間に皺を寄せて、眉間をトントンと指の腹で叩く。
「それでも……いや、ああ、う~ん」
考え、悩み、ライアンは答えを出した。
「悩むのなら、俺にも相談してくれ。カイン一人で溜め込むな」
そんな事、言われるなんて考えてもなかった。
いつも一人で仕事し、考えて解決してきた。だから他人に相談する、なんてことが頭の片隅にもない。
そうか、相談していいのか。そう考えるだけで心がすっと楽になったように感じた。
「ああ、そうだな。次からは相談させてもらう」
自分の中で、本当の意味でパーティーを組んだという実感が湧いたような気がした。
今まで一緒に依頼をこなしてきたが、あれは協力してきただけ。効率良く仕事をするためだ。
「それで少しお願いがある」
本当の意味でパーティーになれたと思ったからこそ、ライアンにしかできない頼みをする。
「もし暗殺者が出た場合、優先でフォンのパーティーを守ってほしい」
「フォンの? どうしてだ?」
「あそこが鬼門だ」
遠征訓練にいる冒険者は、ギルドマスターのロードリアンが選んでいる。
冒険者になったばかりであったり、腕が未熟な者はいない。
森に入る前、フォンに冒険者を集めてもらった時に一通り顔を見たが、腕の悪い者はいなさそうだ。
フォンのパーティー以外は。
魔法使い見習いのラクリマと神官見習いのセリス。
彼らはまだ幼さのある少年少女だ。
自衛ができるかと問われると、多分無理である。
一番狙われて危険なのは、やはりラクリマとセリスだ。
彼らが鬼門だ。守れるかどうかで、状況は変わる。
それをライアンには守ってほしい。
「ラクリマとセリスはまだ見習いで、自衛はできないと思う。それでフォンや騎士のエルフィラ、彼らが守りに入った場合、それを狙われる可能性がある」
「なるほど、言いたいことは理解した。戦闘の時には頭の片隅に入れておこう」
「頼む。こっちはフォンの方にも説明はしておくよ」
「ああ、相談してこい」
親のような優しい目で、ライアンは送って行った。
フォンは冒険者側の中央やや後方にいる。
「すまん、ちょっと話がしたい」
「おう、いいぞ。どうした?」
ライアンの時と同じように、声を小さくする。
「確証はなかったんだが、暗殺者が森にいるかもしれない」
「本当か?」
「ああ、信じられ──」
「信じるさ。お前は俺の恩人だ、嘘をつくとは思えない」
ライアンもそうだが、どうして彼らは俺の事を信じてくれるのだろうか?
俺は暗殺者で、人殺しで、この手を人の血で赤く染めている。真人間ではない。ただ、
「そう言ってくれると嬉しいよ」
なんで彼らはこうも優しいのだろうか。いつもの調子がでなくなる。
そんな俺の顔を見たのか、フォンの口角が上がって悪戯小僧のような雰囲気を醸し出す。
「なら、何度も言ってやろうか?」
「やめてくれ」
絶対に照れるから。
もしそんなことを言えば、また茶化されるからだ。
「そんな顔もするんだな」
「え?」
「いつも難しいというか、冷たい顔をしていたからな」
そう、なのか。知らなかった。
自分の顔色に気を付けようと顔をグニグニと捏ねている時、フォンは何やら考え事をしていた。
「そうなると、他の冒険者にも伝えたほうがいいな。来るかもしれない、と注意したほうがいいな」
決めた時には、行動が早かった。
伝言ゲームのように冒険者から近くの冒険者に伝えるよう連絡し、さらに仲の良い騎士にも連絡をしていた。
この行動力、流石としか言いようがない。
やはり第二陣のリーダーに選ばれるだけのことはある。
フォンはすぐに戻って来た。
「騎士や教師にも伝えてきたけど、これで大丈夫なはず」
「本当か? 早いな」
教師だけでなく、騎士にも伝わったのは大きい。
ただ、冒険者を侮る騎士が言葉全てを信じてくれるとは思えない。まあ、そこは期待したい所だ。
それにしても騎士との仲が良いのが気になる。
「どうして騎士と仲が良いんだ?」
「俺は前からこの遠征訓練に参加してたからな。それで学生だった頃の騎士共仲が良いし、それが理由だ」
「なるほどな。となると、薬草採取の場所も分かるか?」
「ああ。ここからもう五分もかからないな。ただ、薬草は魔力の濃い場所に生えているから、そこは魔物も出るんだ」
薬草採取で魔物もでるのか、となるとそこに暗殺者もいるな。
暗殺者がいる場所は分かった。魔物と、そして暗殺者との戦いはすぐそこまで迫っていた。
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