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18話 遠征訓練1

今回、ちょっと長めです。約2倍になってました

 遠征訓練当日より少し前。

 冒険者ギルドのギルドマスター、ロードリアンに交渉で遠征訓練に参加してほしいとお願いされた日、ライアンと合流した後すぐに事情を説明した。

 

「という訳で、参加することになった」


「学生のお守りか」


 少し不服そうな顔をするライアン。

 あまり協力的ではない。

 学生と一緒、ということであまり参加意欲が湧かないようだ。

 

「いつもの薬草採取より何倍も報酬が高いぞ」


「よし、頑張るぞ!」


 たった一言でやる気を溢れ出すライアン。

 現金な奴だが、金欠だからしょうがないのだろう。

 それに、こちらがお願いすれば嫌でも参加してくれたに違いない。

 

 そして遠征訓練当日。集まったのは南門前から少しずれた広場に集まる。

 集まった学生は総勢百名近くいるかいないか、だ。

 本当だったらもう既に学生がいるのだが、遠征の目的地であるゼスティ大森林の浅い所の魔物を倒して野営地を確保するためである。


 そのため、第一陣は優秀な学生や護衛の騎士達、冒険者が既に向かっていた。

 第一陣には冒険者である雷鳴の剣も中に入っている。

 二回に分かれて行軍するため、事前に冒険者だけで情報交換は終えていた。

 

 

 

 少しばかり時間を戻す。冒険者だけの情報交換だ。

 場所は冒険者ギルド二階の大きな部屋だ。会議をする時に使われたりする部屋で、中に一同が揃っていた。

 その中にはフォン達もいるのが見える。

 

「では、これより遠征訓練の説明会を行う」


 司会を務めるのは雷鳴の剣のリーダーのリンジャオだ。

 この中で一番ランクが高いのは雷鳴の剣であり、その中でも視界ができるのは彼以外他にいないからである。

 

「今回の目的は学生達がポーションを作成するために薬草類の採取。そして、将来騎士となる騎士見習いの護衛の練習でもある。そのため、基本的に魔物の討伐や問題事は学生達が解決するように配慮する事。護衛は私達冒険者以外にも騎士が参加する。彼らにも配慮をするように」

 

 改めて聞いたが、何ともまあ面倒くさい話だ。

 護衛、という名目ではあるが基本的には学生達が解決する。そして、もし解決できない場合は騎士達で解決する。

 要は顔を立てろ、ということらしい。

 何もしなくてもお金が手に入るのだから、楽で構わないが。

 

 その後も特にこれといった重要な説明はなく、あったのはチーム分けくらいだ。

 第一陣は戦闘が多いことが容易に想像できるため、ランクの高い冒険者が多い。

 それ故に冒険者が少なく、騎士が多い。

 

 第二陣は第一陣が通ったルートを通るため魔物との戦闘は少なく、騎士が少なめ冒険者の数は多い編成になっている。

 俺とライアンは第二陣で、フォン達も第二陣だ。知り合いがいるだけで心強い。

 雷鳴の剣は当然、第一陣だ。

 

 編成が決まり、説明会は終わった。

 

 

 

 そして遠征訓練当日。行軍前に学生の騎士と護衛の騎士で軽く打ち合わせを行うことになる。

 冒険者代表はフォンだ。ただ、一緒に来てほしいということでその補佐として何故かついて行くことになった。

 打ち合わせの集まりは第二陣の集合場所から少し外れた場所だ。

 

 学生の騎士見習いが二名。一人が五年生、もう一人は四年生。

 魔法学院は十歳からの入学で、五年入学する。そして、選択科目が選べるのが三年生から。騎士であったり、文官であったり。

 騎士からも二人。一人はこちらを見下すような目つきで、好きになれない。もう一人は無表情だがこちらを品定めするような目だ。

 

 なんというか、嫌な感じだ。

 一緒に仕事をするのだから我慢はするが、極力は一緒にいたくはない。

 

「遠征訓練の打ち合わせを行います」


 司会を務めるのは学生の騎士見習い、五年生だ。

 訓練、ということもあって練習だ。この機会に経験を積もうという算段である。

 

「冒険者の方達は後方の護衛を。護衛騎士の方は私達と同じ前方を、ただ基本的に魔物が出現した時や問題の解決は我々学生で解決します」


 冒険者同士の説明会でもあったが、本当にやることがないかもしれない。

 行軍の後方だ、特にやることはないだろう。

 楽ができる。楽は良い事だ、目立たなくて済む。

 

「分かりました」


「よかろう」


 フォンが答え、騎士が偉そうに答える。

 一々癇に障る奴だな。

 打ち合わせがすぐに終わり、騎士が去り際にこちらを一瞥する。

 

「こちらの足を引っ張らないように願うよ」


 イラッ!! と相手の言葉に苛立ちで脳が沸騰しそうになる。

 顔には出すまい、と敢えて笑顔を浮かべた。

 打ち合わせが終わり、遠征訓練が始まる。

 前方に騎士と学生達。学生達の間に、教師が等間隔に存在する。こちらは緊急時の問題が起きた場合の対処だ。

 

 トラブルで学生達が混乱した場合、教師の言葉ならすんなり従うからだ。

 さらにその中央には幾つもの馬車があり、中には遠征の間の食糧と天幕が入っている。

 絶対に守らないといけない代物だ。

 

 ただ、既に第一陣が通ったということもあって何も起こらない。

 平和だ。

 

「何も起きねぇな。戦闘でも起こらないかな」


 暇そうに歩きながら物騒なことを呟くライアン。

 

「起きたら戦闘になるが、今は暇の方がいいだろ。ゼスティ大森林のほうで薬草とか採取している間に戦闘が起きるかもしれないし」


「それもそうだが……」


 説得はするが、それでもまだ不満はあるようだ。

 今の所、暇なのが嫌だからだろう。

 

「そんなに暇ならフォン達の所に行って、魔法使いのラクリマに魔物が近づいてきた場合の心得でも教えてきたらどうだ?」


「心得?」


「ああ。一ヶ月も前だが、ゴブリンに腕を負傷した経験がある。杖を使うんだ、棒術ぐらいは使えたほうがいいだろ」


「それもそうだな。行ってくる!」


 やることを見つけたライアンはすぐさまフォン達の所に向かっていくのが見えた。

 あれで戻ってくるのに少し時間がかかる。平和が訪れる。

 それにしても、遠征訓練とは名だが訓練というには少し雰囲気が違う。

 

 学生達に目を向けると、彼らはまるでピクニックでも行くようにうきうきしたような楽しそうな雰囲気で歩いている。

 完全に浮かれているのが目に見えて分かる。訓練では全くない。

 まあ、ここまで危険を排除した訓練も珍しいのだ。

 それだけ空気が緩んでいるということだろう。

 

 この空気のまま襲撃を受ければ、混乱はありえる。

 起きるな、と願い続けながらゼスティ大森林まで歩くこと約半日。時折休憩を交えながら歩いてようやくゼスティ大森林の手前までたどり着いた。

 その時にはもう夕刻手前である。

 

 第一陣は既に野営の準備をしていて、今は食事の準備をしていた。

 それは冒険者や護衛の騎士も同じで、第二陣のように敵愾心は感じられない。

 第二陣の騎士がおかしいのだろうか?

 

 第二陣が辿り着くと、第一陣が快く迎えてくれた。

 学生たちは学生を。騎士は騎士を、そして冒険者は冒険者を。

 

「お疲れ様でした。大変でしたか?」


 リンジャオが迎えに来た。

 

「護衛はそこまで。ただ、騎士がな……」


 護衛前の出来事を思い出す。

 あれでは一緒に仕事をやっていけない。


「ふむ……詳しい話はまた後で。まずは休んでください、疲れたでしょう? 食事は既に用意しています」


「ああ、助かる」


 お言葉に甘え、冒険者達がいる野営の方に足を向ける。

 騎士、学生と服が統一されているため分かりやすい。

 

「ああ、そうだ。休む前に野営の準備をお願いします」


 そういえば、一回じゃ全て持っていけないから分けていたんだった。

 休む前に一仕事しないといけないようだ。

 

 

 

 夜は魔物の肉を使った鍋。

 灰汁取りしていたからえぐみがなく、シンプルに美味しかった。

 騎士、学生と食事の内容は異なり、冒険者は外での食事が多く夜間は特に魔物の襲撃を受ける可能性もある。

 限りなく食事の時間を素早く終わらせるために調理時間を短く、食事を取る時間も短くする、その結果が鍋だ。

 

 ただデメリットとして、猫舌の人は食事が時間がかかることぐらい。

 食事を終えると、あとは自由時間。といきたい所だが今は外。魔物に襲撃される可能性がある、

 そのため、夜番は必須だ。

 ライアンは眠っており、俺が夜番をする。

 眠気覚ましに時折手を組んで伸びをしながら、座っていた。

 

 夜番は夜に警戒するが常に警戒していたら精神がすり減る。

 オンとオフが重要だ。それに何か起きる場合は必ず何かしらの合図があるものだ。

 それを見逃さないことが何より重要である。

 

 ただ、今日に限って胸騒ぎがした。

 ゼスティ大森林の方から懐かしさと嫌な雰囲気が心を駆り立てる。

 なんだろうな、これ。何て言えばいいんだろうか?

 言葉には言い合わらせない気持ち。なんだろうか、胸騒ぎ?

 

 なんだろう、と考えていると後ろが近づく足音が耳に入る。

 振り向くと、リンジャオがコップを二つ持って近づいてきた。

 

「どうぞ」


「ああ」


 受け取ったコップから湯気がでていて、熱そうだ。

 中は黒い液体。匂いは良い。

 一口、恐る恐る飲んでみると予想以上の苦みが苦に広がる。

 すぐにコップから口を離し、うえーと口を開けるとリンジャオが笑っていた。

 

「これはコーヒーと言うらしいです。眠気覚ましには重宝するんですよ」


 確かに、この苦みなら眠気は吹っ飛ぶだろう。

 持ってきてくれた手前、いらないと返品する訳にもいかず苦みに我慢しながらコーヒーをちょびちょびと飲む。

 

「お話を聞きたいんですけど、騎士の件で」


「……ああ」


 きっと、野営地に着いた時に騎士の不快感を漏らした時の事だろう。

 出発前の出来事を話した。

 

「なるほど、そういうことですか。確かに、騎士の中には私達冒険者をよく思っている者はいません」


「何故? 協力する立場だろ?」


「彼らには誇りがあります。矜持があります。忠誠は王族に注がれ、仕えることを誇りと思っています。だからこそ、彼らは一緒に行動する私達平民を良く思いません。自分たちだけで十分だ、と思っているんですよ」


「なんでそんなことを」


「魔法です」


 魔力は魔法を発動するのに必要なものだ。そして、魔力を持つ人間の多くが貴族であり、魔法学院に入学している。

 平民の中にも魔法を使える者は多いが、彼らは魔法学院に入学した事、卒業したことを誇りに思っているらしい。

 それで冒険者を下に見る。不要とすら思う者もいるらしい。

 

「中には冒険者に尊敬の念を持っている者もいます。ただ、数は少ないですが」


 それでも、そう思ってくれる人が一緒にいるだけで仕事がしやすい。尊敬の念を持っている者は、きっと高ランクの冒険者を知っている人間かもしれない。

 敵意を向けてきたのは、どうしてだろうか?

 多分、心の奥底にある傲慢がそれを顕著にしているのだろう。

 

 リンジャオが教えてくれたおかげで心のつっかえがなくなった。

 そして、会話をすることで少し逸る気持ちが紛れた。が、それでも消えることはない。

 ただ、これで満足して戦える。

 

 あのままでは、思考の一部を割かれて戦いに集中できない。

 頭の中がクリアになったおかげか、別の事を考えることができる余裕があった。

 隣にいるのはリンジャオ。必然的にリンジャオの事を考えてしまう。

 

 一番最初に彼について思った事、それはリンジャオの口調だ。

 彼は口調が時折分けているような気がする。

 一人称も私だったり、俺だったり。分けたりするのは何故だろうか?

 

「そういえば、口調を変えているのは何故だ?」


「口調?」


「ああ。俺、だったり私だったり」


 本人が分からないほど、無意識で喋っているのかもしれない。

 言われて、リンジャオはどこか納得したような顔をする。

 

「それは多分、昔の名残ですかね。見知っている人間の前だと昔の自分をだとしまうんです。昔の自分を封印しているんですけどね」


 そういう理由だったか、昔という言葉に少し惹かれるがそこは聞かないほうがいいだろう。

 無闇矢鱈足を踏み入れていいわけではない。

 ついでにもう一つ、森の方から感じているのを話したほうがいいだろう。

 気になったことは話さないと。

 

 

「ゼスティ大森林の方に行ってみてもいいか?」


「どうして突然?」


「勘だが、ゼスティ大森林のほうで嫌な感じがするんだ。だからそれを調べておきたい」


 俺の言葉に少し考え、拒否された。

 

「森に夜行性の魔物がいるかもしれません。それを野営地に連れてこられると困ります。倒しても、匂いで他の魔物を呼び寄せてしまうかもしれません」


 正論だ。返す言葉もない。従うしかない。

 

「分かった、変な事言って悪かったな」


「いえいえ。では、私はこれで。夜番の交代なもので」


 そう言って離れていくリンジャオ。

 もうそんな時間が経ったのか。

 話しているだけで時間が過ぎていることが分からず、リンジャオが変わるということは俺も変わるという事だ。

 ライアンを起こしに行こうとした時、リンジャオと入れ替わるように一人の騎士が近づいてくる。

 

 少し歳をとった男だ。三十手前だろうか。

 鎧を着こんではいるが、兜は着けていない。

 今まで見てきた騎士は若い者が多かった。だからここまで歳を取る男は見たことがなかった。

 それに、相手は有名人だ。

 

 騎士団長のフェルティオール。前騎士団長のフォードルは俺が殺した。その後任である。

 フォードルと比べて、あまり悪い噂を聞かない。

 貴族であり、魔法学院の卒業生だという情報だけが頭に残っている。

 

「初めましてだね、私は、騎士団長のフェルティオールだ。よろしく頼む」


 手を出され、握手を求められギョッとする。

 普通、貴族がここまでするだろうか。貴族が平民に握手を求める事など、普通はありえないことだ。

 そのため、握手を求められるとは思わずに少し固まってしまう。

 

「貴族が平民と握手をすることが、そんなに珍しいかい?」


 こちらの考えはお見通しのようだ。いや、分かりやすかったのかもしれない。

 

「すいません、カインと言います。こちらこそよろしくお願いします」


 握手をした手は大きく、ゴツゴツと硬い。戦士の手だ。俺の細く長い指とは大違いだ。

 

「すまないね、突然話しかけてしまって。驚いただろう?」


「ええ、まあ」


 今までの会話と雰囲気から、嘘や媚よりかは本当の事で話したほうが良いと判断した。

 

「さっきのリンジャオとの会話が聞こえてね、謝りに来たんだ」


愚痴が聞かれていたようだ。そこまで大きな声で話したわけではないが、聞えていたようだ 。

しかし、聞えるだろうか? 普通なら聞こえない。聞き耳をたてられたかもしれない。


「すまない。私がまだ騎士団長ではなかった頃は前騎士団長のせいか、貴族や王族以外に蔑ろにすることが多かった。ただ、今は魔法学院の学院長が元は冒険者でもあった。今の学生は冒険者に対してそのような考えはない。いや、少しはいるかもしれないが、そういうこともあって騎士は冒険者を蔑ろにする者が多い。本当にすまない」


 頭を下げられた。

 やはり、ここまで丁寧にされるのは慣れていない。それに、相手は貴族だ。

 普通はしないため、慌ててしまう。

 

「頭を上げてください。気にはしますが、仕事には差し支えのないようにしますし」


 どうにかして頭を上げてもらおうと弁明していると、フェルティオールはゆっくりと顔を上げた。

 その顔には申し訳なそうにしている。

 

「一応、騎士にも声をかけてみる。明日は気を付けてくれ、何かしら悪い噂を聞いているからな」


「悪い噂?」


「ああ。何やら暗殺集団が動いているという話が上がっている。私がここにいるのも、それが原因だ」


 確かに、国を誇る騎士団の団長が学生の遠征訓練で護衛するのは、普通だったらありえない。

 何かしら理由がある、と察するのが当たり前だ。

 その事を聞いた時、頭の中で歯車が噛み合ったような感じがした。

 

 ゼスティ大森林を見ての懐かしいと思った感覚。そしてフェルティオールから聞いた悪い噂。

 影の国だ。奴らが俺を殺しに来たのだ。

 なるほど、確かに懐かしい感覚がするわけだ。納得である。

 俺の邪魔をするなら、殺す。もう俺の幸せを邪魔されるわけにはいかない。

 

 気づけば、フェルティオールもいなくなっている。

 考え事している間に、いなくなっていた。考え事に夢中になりすぎて、いなくなったことに気づかなかった。

 夜番の交代でもしたのだろうか? こちらも交代しようとライアンに会いに行くと、眠っている。

 

 起こすが起きず、足蹴りして無理矢理起こした。

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