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14話 一ヶ月経った日

 金がない金がないと言い続けていたライアン。

 遂に悪魔へ魂を売った。

 

「一房で一〇〇リル。ゴブリン換算だと五体分」


 声を、身体を震わせるライアンは薬草を持つ手も震えている。

 今回、とある事情で薬草が値上がり。その結果、採取した場合の報酬も値上がりということだ。

 毎日金欠を謳っているライアンも、今日ばかりは薬草採取の依頼をすることに。

 

 それまでゴブリンやら他の魔物、地下に住む害虫駆除をしてきたがあまり稼げるという訳ではない。その分、危険も少ないわけだが。

 そんな金欠のライアンはついに決心をし、薬草採取をすることに。

 ただ、俺もだが薬草採取をしたことはない。

 やれ、と言われてもどれが薬草なのか見分けがつくわけもなく。

 そんな未来が見えるため、今回は強力な助っ人を呼ぶことにした。

 

「ライアンが凄い感動してるぞ」


 薬草を持ってる震えるライアンを見たフォンが、呆れたように言う。

 仕方ないじゃないか、今まで金欠だったんだから。

 

「金がないからな。薬草の有難みに感動してるんだろ」


「マジか……今日の夜、奢ってやろ」


 良かったな、ライアン。今日の夜はタダ飯だぞ。

 今回の薬草採取の助っ人は、フォン達だ。

 最初の依頼を終えた後、フォン達四人は長期の依頼を受けたことで約一ヶ月ほどいなかった。

 そして今回、戻って来たこともあって協力してもらっている。

 

「それにしても、どうしてこんなに高くなるんだ?」


 前まではここまで高くなかったはずだ。どうしてここまで高くなったのだろうか。何か理由があるはずだ。

 

「もうそういう季節だからな~」


 季節? その言葉に困惑しか浮かばない。

 何故季節で報酬が値上がりするのか。今の季節は大量消費するのだろうか。

 

「この季節は薬草を一杯使うのか?」


「ああ。魔法学院があるだろ? そこで今の季節は近くの森まで遠征訓練するんだよ」


 ああ、それでか。

 納得した。要はそのために消費するかもしれないから、その補充として薬草を使うということだろう。

 けど、魔法学院の学生なら自分で採取できそうなはずだが。

 

「自前で用意したりとかしないもんなのか?」


「念のため、ということじゃないか? 起きたあとじゃ遅いし」


 確かに、危険な魔物が出てきたりして怪我を負って回復ポーションが足りませんは話にならない。最低限の予防はしておくべきだろう。

 フォンに教えてもらった薬草をポンポンと採取していく。

 

「いつも通り例年なら、遠征は南方の巨大な森だ。あそこは奥に進むほど強力な魔物が多い。回復ポーションは準備するだけ無駄にはならないはずだ」


「その事、ライアンには伝えないでほしいんだ」


「どうして?」


「あの馬鹿、今までのストレスから爆発して一人飛び出して暴れるぞ」


「流石にそれはないだろ」


 ハハハ、と笑いながら二人一緒にライアンの方に目を向ける。

 魔法使いのラクリマと薬草の採取量で競って負けたらしく、悔しがっている。その後ろで騎士のエルフィラと神官見習いのセリスが保護者のような微笑ましい笑みを浮かべている。

 

「残念な事に、あいつは強い。だから一人飛び出しても生存するはずだ。だから、止めたらこっちが爆弾処理する羽目になる」


 ライアンをブレーキの壊れた特急列車だと思い浮かべてほしい。

 あれは止まらない。そして、森という道に進んだ場合はこちらが落ち着かせる必要がある。そんな面倒、御免こうむりたいのだ。

 

「分かった。伝えるのは終わった後でにしよう」


「助かる」


 さて、その前に何か長期の依頼を受けたいものだ。そして離れたい。

 そんな希望は、翌日には捨て去ることになった。

 

 

 

 それは三日前ほど前に遡る。

 ここより南にある森、ゼスティ大森林への遠征訓練が実施されると公表され、同行する冒険者を選別しないといけない。

 それを魔法学院の学長、リーシア・フィルドに頼まれた冒険者ギルドのギルドマスター、ロードリアンは苦悩に苛まれていた。

 

 歳が既に六十後半。昔は冒険者もやっていたこともあって、身体が大きく引き締まっていて日に焼けたせいで肌が黒い。

 ただ、最近は事務仕事が続くせいか身体が鈍っていて、動かしたくなってしまう。

 

 最近の悩みは歳のせいで髪が白く、生え際が後退していることだ。まだ生えているが、左右の髪が後退するせいでモヒカンにせざるおえなくなった。

 ただ、怖がられるような顔つきのせいか周りからよく似合っていると言われてしまうのだが。

 

 そしてもう一つ悩みがある。遠征訓練の選抜だ。

 コンコン、と扉がノックされ入るように促すと大量の書類を両手で持ってきた職員だ。まだ日が経っていないのか、こちらの顔を見ておっかなびっくりという顔を浮かべたがすぐに戻った。

 

 仕事に関してはプロ意識を持っているのかもしれない。

 

「ロードリアンギルドマスター。言われた書類を持ってきましたよ」


「ああ、助かる」


 書類をドッと机の上に置き、職員は元の仕事を戻っていく。

 ふう、と仕事に一息吐いた。

 

「やっぱり、俺の顔は怖いのか?」


 先程の職員の様子を見ればそう思うのは明白。

 別にこの顔に生まれたくて生まれたわけではない。生まれつきの怖い顔なのだ、少しばかり傷つく。

 深いため息を吐き、スイッチを入れる。

 

「よし、仕事だ」


 職員から貰った書類を見つめる。持ってきてもらった書類には、冒険者の情報が書かれている。

 登録する際、その情報を一度この紙に書いたのだ。

 手書きのせいで一枚一枚書く人によって文字が違う。一応、読める文字で、とお願いしているため下手で読めないわけではない。

 

 一枚一枚、見ていく。

 遠征訓練の選別。できるならば、高位のランクの冒険者で固めたいが、他の依頼もある以上そういう訳にはいかない。

 今回の遠征訓練、目的地の森は事前に騎士達が強力な魔物を討伐してくれる。

 だから一番最低のDランクの冒険者でも同行できる。数はDランクが多めで問題はないが、そこが問題でもあるのだ。

 

 まず、実力の格差が激しい。

 最初からある程度の力量がある者やまだ成り立ての者もいる。

 次に性格。

 気性の荒い人間や好戦的な者がいる。

 

 魔法学院からの依頼だ。失敗したくはない。

 誰を選ぶか、と書類を見ていく。

 

「フォン? ……確か一年前に登録してもうCランクに上がれるはずだが上がらないのか?」


 視線を下げていくとその理由が記されていた。

 

「魔法使いと神官見習いがまだ半人前だからか、なるほど」


 昔はフォンとエルフィラの戦士と騎士の二人だけのパーティーだが、今は戦力増強ということで魔法使いと神官見習いの四人パーティーになった。

 そんな彼らがCランクになった場合、その魔法使いと神官見習いが足手纏いになってしまう。

 だからDランクのまま維持しているのだと思う。

 

「彼らは参加だな。これは駄目、これも駄目。これは……参加だな」


 書類を次々と見て同行する冒険者を決めていき、そろそろ終盤に近づいていく。

 

「ライアン、冒険者になったのは約一ヶ月ほど前。元は傭兵なのか、となると戦闘技術はあるな。採用したいが、パーティーを組んでいるのか」


 どれどれ、とライアンの相方を見ていく。

 

「名前はカイン、冒険者になったのはライアンとそう変わらないのか。女みたいな顔つきだが男。ほう、少し見てみたいな」


 好奇心でそんなことを思いつつ、どんどん読んでいく。

 この時はまだ、好奇心が勝っていた。

 

「魔法も使えるのか。使えるのは影魔法──」


 影魔法。名前の通り影を操る魔法であり、基本的に使い手の多くが暗殺者なのだ。カインは暗殺者なのかという疑惑が膨れ上がっていき、次の魔法で確信する。

 

「隠密魔法、だと!?」


 魔法は大きく分けて、二種類存在する。源流と支流。

 源流は特異な魔法であり、使える者が限られている魔法。支流魔法は源流魔法と違って誰でも扱える魔法。

 元は源流魔法だったものが人に教えたことで生まれたのが支流魔法と言われ、努力次第で覚えることができる。

 

 基本、使える魔法は一人一つ。ただ、研鑽を積むことで二つの魔法を使える者がいる。それをダブルと呼ぶ。さらにその上がトリプル、ここまでいくと天才しかたどり着けない領域がある。

 現在、そのトリプルは魔法学院の学院長、リーシア・フィルドが有名だ。

 

 そして隠密魔法は、使える者が今の所一人しかいない。

 影の王だ。これは有名な話で、誰もが知っているほどだ。

 本当か? 幻ではないのか? 思わず夢を見ているのではないかと目を瞑り、書類を遠ざける。

 

「なんか悪い夢でも見ていたのか? まあ、そうだよな。流石に最強の暗殺者が冒険者ギルドに……」


 もう一度書類に目を通す。そこには確かに隠密魔法と書かれていた。


「ああ、幻じゃないか」


 現実逃避の終了だ。分かっていた、ただ理解したくなくて脳が拒絶していただけだ。

 我に戻ったロードリアンはこれに対して適切な対応をする必要がある。

 

「一先ず、面談だな」


 冒険者になったのだ。こちらに敵意を向けることはないだろう。ないと信じたい。

 それでも一対一での面談は怖いものがある。誰かと一緒にいてほしいものだ。

 高位のランクの冒険者を呼び出す必要がある。それも、出来るだけ早く帰ってくるような冒険者が。

 

「雷鳴の剣を呼ぶか」


 そんな冒険者のパーティーに一つ、心当たりがあった。

 すぐさま、職員に戻ってくるように伝えた。

 

 

 

 彼らはとある依頼を受けていた。

 帝国領との境界線上近くの山脈。そこは誰も踏み入れる未開の地。

 その理由は巖々とした地、Aランクの冒険者でなければ討伐できない魔物。

 そのため、この地には誰も踏み入れない。そんな未開の地には高価なポーションの素材がある。

 彼ら、雷鳴の剣はその素材を回収するために巖々とした山に挑み、平坦な岩陰に拠点を作って休んでいた。

 

 斬って作った平にした石の上で優雅に座り、茶を楽しむ少女。

 活発そうな見た目でその見た目とは裏腹に貴族の女性のように飲むミディアムの赤髪の少女は、違和感の塊である。

 その違和感はこの場所の異常さも含めて、より際立たせていた。

 少女という幼さが僅かに残った彼女は、まるで大人でも演じている。

 

「ふう、仕事終わりの一杯は最高」


「まだ朝ですよ、そして働いてください」


 その少女に一喝する青年。

 エプロンを身に着け。右手にフライパン。左手にフライ返しを持つ青年は家事力のある家庭的に見えた。

 そこまで派手という見た目ではなく、落ち着いた大人という感じであり似合っていた。

 

「仕事? 何言ってるんですか? 私の仕事は終わりましたよ」


「見張りですけど! それも一時間だけ。まだ続いてますよ」


「そんな小っちゃい事言うと、彼女なんか夢のまた夢ですよ」


 その事を言われ、青年の顔が歪む。

 今にも泣きそうな顔になる。

 

「気にしていることを……」


 その泣き顔を見た少女は罪悪感に苛まれるが、気を逸らすために目を背けた。

 

「ぶん殴る!」


「どうして暴力沙汰になるの!? そうか! 寝てないから変なテンションなんだ」


 取っ組み合いをする青年とそれを阻止する少女。

 ワイワイと騒ぐ二人のせいで、女性が目を覚ました。


「んっ……眠い!」


 白髪の女性は大人びた顔つきをしているが、寝起きのせいか瞼が完全に開いておらず小さな手で擦っている。

 大人びた顔つきとはアンバラスなほどに、身体が育っておらず小さい。

 寝ていたせいで服が乱れ、肩紐が脱げそうになっていた。

 

「まだ夜か、寝よう」


「もう朝ですよ!?」


 再び寝ようとする幼い女性に、青年が待ったをかける。

 このまま寝てしまえば、起きるのにまた一時間以上時間がかかるのだ。

 

「一先ず、朝食を食べましょうか」


 青年が朝食の準備をして、みんなで一緒に食べ始めた。

 ここに着て一ヶ月が過ぎようとしている。持ってきた食料もとうの昔になくなり、今では現地回収で弁えている状態だ。

 魔物の肉や植物は魔力を多く含むほど美味であったりする。ただ、魔石をもぎ取ってしまえば魔物の身体が消えてしまう。

 だから、消える前に回収する必要がある。回収した分は消えないからだ。

 

 適当に作った肉野菜炒めを食べながら、情報の共有を行う。

 

「フォーリン。素材の回収はどこまで進みました?」


 活発な赤髪の少女、フォーリンは肉を咀嚼しながらんー? と反応する。

 口に食べ物を入れながら喋るかと思いきや、フォーリンはしっかりと飲み込んだ。

 

「大体は揃ったけど、あと一つが満月の夜まで待たないといけないかな?」


「分かりました。なら、帰っても大丈夫かな。テリアス、ローリッヒ王国に帰る準備はできます?」


「出来てるよぉ~」


 舌ったらずな口調。本当に大人の女性とは思えない、大人の女性だけども。

 

「それなら良かった。ローリッヒ王国から急ぎ、帰還するよう連絡があった」


「急ぎ? どんなの?」


 好奇心全開、とばかりにフォーリンの目はキラキラしている。

 

「ギルドマスターがとある冒険者と面会したいそうです。それで私達をお呼びのようです」


「へー、昔の私みたいだね」


 無邪気なフォーリンの言葉に青年は確かに、という言葉を飲み込む。

 現在のパーティー、雷鳴の剣は元々ワンマンチームであった。

 そこに有望なフォーリンの教育係として組まれたのが魔法使いのテリアス、そして私だ。

 

「そういう訳で、私達は戻ります。いいですね?」


「はーい。帰るならお土産を持っていきたいよね」


 無邪気に頷くが、彼女の言うお土産に不穏な空気しか感じない。

 

「お土産とは何です?」


「魔石だよ。確かこの辺はワイバーンの巣が多かったはずだし、ちょっと倒してくるよ」


 お使いに行ってくると似た感覚で、急いで朝食を食べて彼女は外に飛び出して行った。

 

「相変わらず、フォーリンは身体に脳があるな。少し考えてほしい所だけど」


 心配だな、と思いつつもう一人の方を見る。

 

「で……」


 三人で会話をしていたが、反応があったのはフォーリンだけだ。もしかして、と見たら案の定である。

 寝てた。

 器用に皿を持ち、座りながら船を漕いでいる。

 

「また説明のし直しか。まあ、慣れてるからいいけど」


 今できることをしよう、と朝食を食べ終えて帰還の準備を始めた。

 雷鳴の剣、リーダーはフォーリンでもテリアスでもない。

 リンジャオ。冴えない見た目の青年だ。得意な事はなく、不得意もない。大体の事は卒なくこなしてしまう、そんな男だ。

 どこにでもいるような青年だが、基本的にやることは周りとの調整。個性の激しい二人を纏めるために、彼は選ばれた。

 

 だから自分は特に凄いとは思っていないが、大体の事を卒なくこなす時点で凄いことを彼はまだ知らない。

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