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9話 槍使いの傭兵

 冒険者になって翌日、酒を滝のように飲んだせいで二日酔いでダウンしていた。

 

「ああ、頭痛い……」


 ベッドで横になって、う~と呻き声を出していた。

 それでも動けないわけではない。

 腹が減った。

 ずっと寝ていても、腹だけが減っていくのだ。

 飯を食べていくために中央の噴水広場に向かった。

 遅い朝である今、露店に向かってサンドイッチを買う。

 

 そこまで量が少ない物、あまり腹にドッカリとしない物を選んだ。

 パクパクと食べ、特に目的もなく歩いていく。

 歩いていると、近くで腹を空かす音が聞こえた。

 音のした方を向くと、大男がベンチの上で体育座りをしていた。

 その傍らには人ほどの大きさのでかい槍がしっかりと握られている。

 

 誰だ? まあ、いいか。

 無視して先に進もうと思ったが、またしても腹の鳴る音が聞こえて流石の不憫である。

 

「飯、食うか?」


 大男は顔を上げる。

 年齢は二十手前だろうか? 戦士の顔で武人のような顔付きだが人懐っこそうな表情をしている。茶色の髪は短くワイルド。

 碧色の目に彼の着る鎧は全身の身を守るほど分厚い鎧を身に着けている。

 そんな彼がベンチの上で体育座りをしている。まるで小動物のようだ。

 

「食わせて、くれるのか?」


「……ああ。ちょっと待ってろ」


 あまりにも不憫だ。不憫すぎて、涙が出てきそうだ。出てこないけど。

 前に買った、肉串の店に行く。

 

「小銀貨一枚で買えるだけお願いします」


 そう言って、渡された肉串は八本。一本、おまけで貰った。

 こんなにあるが、全て食べれるか?

 半分は食えないけど、二本ぐらいなら食べれるはずだ。

 

 槍使いの男の所まで肉串六本を渡した。

 

「ほれ、やるよ。それで、どうして金がないんだ?」


 飯を奢ったのだ。こういう事ぐらい聞いても問題はないだろう。

 

 

 

 彼は傭兵だったらしい。

 傭兵は、国同士の戦争で金で雇われる者達のことだ。

 彼が最後に参加した戦争。そこで完敗し、仲間全て死んで身一つで逃げて来たらしい。

 町に入る程度のお金があったが、それだけしかなく色々と物を売ってきて生活したがそれも尽きて、今の状況に陥っている。

 

「今後、どうするんだ? 金稼ぎの宛はあるのか?」


「ない。傭兵としてやっていくのは、ほぼ不可能なんだ。冒険者にでもなるかな……」


「なら、一緒にやるか? 俺も冒険者だし」


 思わず、言ってしまった。あまりにも不憫だったから。力になってあげたかった。

 あとは、少し暇だったからその暇つぶし。

 昨日の夜、フォンから聞いた。

 定職に就くには人との縁が必要だと。

 

 その縁を築くためにも交流を増やす。そのためには何をすればいいか、簡単だ。人に親切なことをすればいい。

 それで少しずつ縁を広げていけばいいのだ。

 

「俺はカインだ。お前は?」


「ライアンだ。よろしく頼む」


 握手を交わした。

 飯を食べた後、向かったのは冒険者ギルドだ。

 入る前に、渡すべきものがある。

 

「手を出して。はい、これ」


 開く手の中に、小銀貨一枚を渡す。

 その重みにライアンは何を渡されたのか気づいたようだ。

 

「もしかして、これ……」


「金だ。登録するのにもお金が必要だからな」

 

 借金また増えるのであった。

 

 

 

 ライアンは無事に冒険者として登録は終わった。

 特にこれといったこともない。

 冒険者になれたことで、必要なことは依頼を受ける事だ。

 武器や道具に関しては、あとで買えばいい。

 問題は依頼が貼られている掲示板で、どのように分けられているのかが分からないことだ。

 

 冒険者には四つのランクが存在する。

 下からD、C、B、Aの四つで、掲示板にはその四つの分類がされているのだが、初心者二人では掲示板の見方が分からないのだ。

 

「先輩。どれがDランクの依頼か分からないんだけど」


「ふっ、残念だったな。俺は冒険者になって一日しか経っていないんだ。頼る相手を間違えたな」


 すぐにこちらをライアンは頼ろうとしたが、本当に残念だが見方が分からない。

 威張ることではないのだが、今まで対等な相手がいなかったせいかつい軽口を挟んでしまう。

 しかし、掲示板の見方が分からないというのは、致命的だ。

 誰か分かる相手に聞く必要があるが、頼れる相手は一人だけ思い浮かぶ。

 

 お願いしたいが、今日は何をしているか分からない。

 どうしたのものか、と冒険者ギルドの中を見渡していると見覚えのある人が一人。

 魔法使いの恰好をした少年が、同じように掲示板を見ている。

 彼は、前回の町を一緒に行く際の馬車を護衛していたフォン達のパーティーの一人だ。

 名前は覚えられないが、顔ぐらいは覚えている。

 

 後ろ姿だったせいで、声を掛けられなかったのかも。もしくは、ライアンと一緒に行動していたせいで俺だと分からなかったのかも。

 

「よう、元気か?」


 軽く右手を上げて挨拶をすると、魔法使いの少年はこちらに気づいて軽くお辞儀をする。

 

「昨日ぶりですね、カインさん」


「ああ。そっちは今から依頼か? みんなはどこにいる?」


「いえ、依頼は明日ですよ。みんなは道具の補充をしています。僕は明日の依頼のためにどれを受けようか、決めている所です」


 ほう、依頼は受けてもすぐにやらなくても済むのか。

 そんなことを考えながらでいると、魔法使いの少年が俺の後ろをひょこっと顔を傾けて覗かせる。

 

「この人は誰ですか?」


 ライアンの事だろう。


「彼は……」


 自己紹介をしようとして、口を噤む。

 やばい、まだこの子の名前を知らない。どうしようか。

 ここをどう切り抜けるか。考え、答えを見つけたのは僅か一瞬の時だ。

 

「同じ冒険者だ。ちょっと理由があって、俺とコンビを組むことになった。自己紹介はフォンとまとめてしたいんだが、今日は合流するか?」

「はい。道具の補充が終わったらここに来る予定です」


 そうか。なら、そこでまとめてライアンの自己紹介をして、ついでにフォンの仲間の名前も覚えるか。

 それにしても、宿屋の人がフォンの名前を言ってくれたのには本当に助かった。覚えていて良かった。

 

 フォンが来るまでの間、少年に掲示板の見方を教えてもらう。

 Dランクの依頼は左端に並べ、ランク別に縦で分かれているようだ。

 やるのは、ゴブリンや薬草の採取が多い。

 依頼主は近くの村長や魔法学院であったり、診療所だったりする。

 何を受けているか考えていると、

 

「ラクリマ! 何の依頼を受けるか、決めたか?」


 後ろからフォンの声が聞こえた。

 振り向くと、フォンとパーティーの仲間の二人がいる。

 

「あれ、カインじゃないか? で、後ろのは?」


「ああ、紹介する。俺と一緒にパーティーを組むことになったんだ。ほれ、自己紹介」


 ここで俺が自己紹介しようものなら、フォンのパーティーメンバーも自己紹介する羽目になる。

 一度、やらかしかけたが、二度目はない。

 

 「俺はライアン。元は傭兵で、少し前にあった戦争で傭兵団が消えてな。金欲しくて冒険者になった。よろしく」

 

 戦争、という単語にフォンが眉を細めた。


「戦争というと、レスト帝国とラドリア魔導国家の?」


「ああ、よく知ってるな」


 二人の会話を聞きながら、俺はへえ~、知らなかったと他人事のように考える。

 そんなこと知りもしなかった。戦争は絶好の暗殺日和だ。

 ああ。そういえば、抜ける前にそれらしき話があったような。

 記憶の奥底を掘り起こして思い出していると、フォン達のパーティーの自己紹介が始まる。

 

「俺はフォンだ。前衛でこのパーティーのリーダーを務めている」


「私はエルフィラ。見た目通り、騎士だ。よろしく頼む」


 見た目が完全に騎士だが、本当に騎士だったのか。

 ライアンも少しばかり驚いた顔をしている。

 騎士というのは、この国では非常に重要なのだ。

 名乗る事は許されず名乗れば犯罪であり、名乗ることができるのはごく一部。

 

 フィルを回収してくれたリーシア・フィルドが学院長を務める魔法学院で騎士科に入って卒業しなければ名乗ることはできないのだ。

 要はエリートである。

 

「僕はラクリマです。えっと、その魔法使いなんですがまだ見習いで、あまり魔法が使えないですけど、よろしくお願いします」


「私は神官見習いのセリスです。一人前になるため頑張っているのでよろしくお願いします」


 後ろ二人はまだ少年少女。成人していないだろう。

 身体もまだ完全に成長しきっておらず、可愛げがある。

 

「ああ、よろしく頼む」


 軽くお辞儀をするライアン。

 これで自己紹介は終わった。依頼の見方もフォンが合流する前にラクリマに教えてもらった。

 あとは、どんな依頼を受ければいいか先輩に聞こう。

 

「フォン。俺達は明日に依頼を受けようと思うんだが、悪いけどどんな依頼を受けたらいいか教えてくれないか?」

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