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1話 脱退

久しぶりの投稿です。リハビリ、というものです

 子供の頃から貧民街で暮らす俺には、生活の生業は盗みであった。

 父は働かずに俺の盗んだ物を売って金に換え、俺の取り分は少ない。

 大人には力では敵わず、反抗心だけはあったがそれを隠してひたすらに盗みを繰り返していた。

 転換点は三年ぐらい過ぎた時だ。盗みを繰り返し、ナイフを手に入れた。それを隠し持つ、隙を探しながら。

 

 その日は父が激しく苛立ちを露わにし、子供である自分にも当たるほどだ。

 手の甲で頬を叩かれ、子供であったため簡単に吹き飛んで壁にぶつかる。

 それでプッツンときた。もう我慢の限界で、隠し持っていたナイフで父を殺した。

 

 ナイフを突き刺し、捩じって引き抜く。そしてまた突き刺して捩じる。

 すぐに動かなくなった。倒れた父は血を流し、床を赤く汚す。

 その光景を見て、俺は何も思わなかった。

 善人じゃないのは分かっていたから。

 

 それから盗みを繰り返していき、気づけば殺しも生業にするようになっていく。

 特異な魔法のせいだろう。

 隠密魔法。自分の気配を消し、相手を殺す魔法。

 その魔法を活かし、気づけば暗殺集団の仲間入りしてトップに君臨していた。

 

 

 

 暗殺家業を生業にして、十年近く過ぎる。

 歳は十八。他の暗殺者と比べると、若いほうだ。

 影の国は山の中に存在する。

 場所は点々と移動しているが、今は山だ。

 アント系の魔物が掘った穴を再利用し、幹部である自分は一つの部屋を貰っていた。

 

 部屋には姿見鏡とベッドしかなく、姿見鏡で身だしなみを整える。

 光に反射しないように黒に染めた長い黒髪を後ろでゴムで纏め、着ている全身黒の服にゴミをついていないか手で叩く。

 身だしなみを整え、改めて自分の顔を確認した。

 そこに写るのは自分の顔、一目見れば女性のように思ってしまう女顔だ。

 

 男ならもう少し男っぽい顔のほうがいいのだが、この顔のおかげで、暗殺しやすいのだから何も言えない。

 自分の顔を見ながら、これからの事を考える。

 いつも、仕事以外でここまで身だしなみを整えることはあまりない。

 今日、あることをしようと考えた。ただ勇気が足りず、決心をつけるために身だしなみを整えた。

 

「よし! 行こう!」


 自分の頬を両側から叩き、決心する。

 今日、俺は影の国から抜ける。

 それを伝えるために部屋を出た。

 

 山の中のせいで暗く、壁にかけてある魔石を入れたランタンのお蔭で明かりを保っているが、魔石の魔力がなくなればすぐに暗くなる。

 もし火を使っていたら酸素で燃えるため、酸欠になるのは目に見えている。だから魔石は本当にありがたい。

 

 影の国は、二人のトップが存在する。

 一人は影の王と呼ばれる暗殺者、俺の事だ。

 基本的に、人を殺す以外何もしない。ほぼ全てやるのは教主である。

 その教主がもう一人のトップである。

 奥に進むと、情欲を駆り立てるような甘い匂いが鼻腔に入り込む。

 

 またやってる。

 この匂いがするということは、教主は先にいる。匂いがその証拠だ。

 特殊な訓練を受けているからこの匂いには耐性があるが、もしこれを女性が嗅いだら性欲を刺激されて、足が震えて立つことができなくなる。

 

 進むにつれて、女性の嬌声も聞こえ始めた。

 道の奥に、ポツンと大きな一つの部屋がそこにはある。扉らしいものはなく、布で遮っている。

 女性の嬌声が聞こえる中、構わず扉横の壁を叩く。

 

「少しいいか?」


「カインか、なんだ? 俺は今忙しい」


 ねちっこい男の声だ。

 喋りながらも身体を動かし、女性の嬌声が聞こえる。そういうのが好きだなのだと安易に推測できる。

 だけど、命の恩人だ。顔に出すわけにはいかない。

 

「俺はもう、お前への恩は返したと思う」


 拾われた恩を返すために、今まで暗殺をしてきた。

 好きで人を殺すわけじゃない。快楽殺人鬼でもない。


「恩?」


 俺を拾った時の事を忘れたのか? なら、一から説明しないとな。


「そうだ、五年。アンタに拾われて、俺は暗殺者として人を殺してきた。そして、ここもかなり大きくなった。俺はもういらないだろう?」


「抜けるのか?」


 俺の言いたい事が伝わったらしい、良かった。

 

「そうだ、俺は抜ける」


「駄目だ、お前に抜けられると困る。抜けた穴が大きい」


「それでも俺はもう決めたことだ」


「……そうか、分かった。すぐにここから去れ」


「ああ、言われなくてもここからすぐに去るさ。今までありがとな」


 少なからず、恩はあった。今まで生きてこれたのも、彼のおかげあってこそだ。

 言われた通り、踵を返して去っていく。

 足音が聞こえなくなり、布で閉ざされた部屋からチリン、と小さな鐘の音が鳴る。

 

 その鐘に呼ばれるように、素早く影が布の扉の前に現れた。

 

「お呼びで?」


「ああ、影の王を殺せ。もう不要だ」


 その声は冷たく、まるで思入れのある物が急に興味のなくなったような。

 

「しかし、私達が束になった所であのお方には勝てません」


 影は勝てぬ、と言う。殺せない相手でも良い条件であればなんとかして殺すのが殺し屋。それでも、影は勝てないと思うほど力量に差があると認識していた。

 

「分かっている。用心棒を使え。あれがいればなんとかなる」


「はっ!」


 影の気配が消えた。

 

「カインがいなくなるのはなんとなく分かっていた。だが、早すぎる。もう少し時間があると思ったが」


 周りに人の気配がなくなり、教主は一人呟く。

 

「教主様。もっと~」


 組み敷いていた女が縋るように、強請るような声で身体をいやらしく揺すって誘う。

 

「ああ、そうだったな。待たせてすまない」


 教主は身体を横にして女性に重ねるのだった。

 

 

 

 岩肌の通路を歩いていると、小柄な少女が前から近づいてくる。

 黒装束を身に纏って顔と手足をだけを外に出しており、その顔には無機質なまでの冷たさがあった。

 影に潜む者、という言葉を体現しているような少女は前から歩いてくる人物に気づき、顔を上げてそれが誰なのか知り顔を晴れやかに変える。

 

「師匠ッ!!」


 少女は駆け足で近づき、跳んで抱き着く。

 

「お久しぶりです」


 抱き着いた少女は顔を上げ、にこやかな笑みをこちらに向ける。

 

「どうしたんですか? 仕事以外で外にいるなんて珍しいですね。仕事ですか?」


「仕事ではないよ」


 周りからそう思われているのか、少しショックだ。

 確かに、仕事以外では部屋から出るのはあまりない。

 それでも引きこもりだと思われるのが、悲しみを感じる。

 

「影の国から抜けようと思ってね」


「そんな……」


 少女は師が抜けると聞き、言葉がでずに黙ってしまう。

 

「じゃあ私も──」


「それは駄目だ」


 少女が言おうとしたことはなんとなくだが推測できる。

 それは、この業界では死を意味している。人を殺してきた以上、その人間を表に出してしまえば影の国の情報が世に知れ渡ってしまう。

 それ防ぐためにやる事は単純。死だ。

 

 その事が分かっていないならただの馬鹿か。分かってやっているなら自分の力量を知っているか過信しているかのどちらかである。

 カインは後者であり、自分の力量が分かっている。その上で、もし少女がやめてしまえば一緒に行動することになるのだが。

 

 この後の事が目に見えて分かる。

 彼女を守りながら戦うことはできない。

 だから拒絶する。

 

「もう少し力をつけてからにするべきだ。それまではここにいたほうがいい」


「分かりました」


 渋々といった感じで頷き、とぼとぼと小さな弱い足並みで通り過ぎていく。

 振り向き、その背中は見ると悲痛な痛みが心を蝕む。

 どうすれば良かったのだろうか? という後悔が頭の中に過る。

 あの子は俺と一緒だ。子供の時に拾い、殺しの技術を教えた。

 

 師匠、と言って懐かれるのは凄く嬉しかったし心地よかった。自分に居場所ができたように感じたから。

 だからこそ一緒にいたいと思うと同時に、一緒にいればこの後の事でどうなるかも分かる。

 

 自分一人なら大丈夫だ。だが、守りながらとなると話が違う。

 彼女を殺させないためにも、キッパリと断った。そして、この後悔で足を止めるわけにはいかない。

 この後のことを考えて、一先ず自分の部屋に寄る。

 

 壁に立てかけてある装備を身に着ける。

 フード付きの黒いマント。内側にナイフなどの飛び道具が収納されている。

 左右の腰に剣を帯刀。軽く細身で長い片手剣だ。

 最後に、両手首に大きなブレスレットを身に着ける。これが重要だ、何よりも重要だといっていい。

 

 完全装備の上、外に向かう。

 一番怖いのは入口前。あそこは大きな空洞となっていて、多くの暗殺者達がいる。あそこで攻撃を受ければ、どうしようもない。

 だから注意して歩く。一歩一歩、細心の注意を払いながら歩く。

 

 入口前の大きな空洞は人が入れるほどの複数の道。それが階段状に広がっていた。

 そこに足を踏み入れた途端、視線を感じる。敵意を感じる。殺意を感じる。

 暗殺者なのだから殺意を隠せ、と言いたくなる。三流だな。

 

 注意深く進むが襲ってくる様子はなく、無事に外へ出ることができた。

 外は鬱蒼とした森で、その中を突っ切って進む。

 襲ってこなかったな、と暗殺者達が攻めてこなかったことに安堵すると同時に勘ぐってしまう。

 いつ来る? と。

 裏の組織を抜けるのだ、何かしらの代償が必要なのは目に見えている。

 あそこで襲ってこない、ということはどこか別の場所で襲ってくるはず。

 

 歩きながらそこまで考えた時、目の前に一人の男が立っていた。

 鉄塊のような分厚く長い大剣。それを身体の隣で地面に突き刺し、立っている男。

 一言で表すなら荒くれ者。筋骨隆々で、面積の少ない鎧から露出する肌ははち切れんほどの筋肉。まさしく、天然の鎧だ。

 それを扱えることができる、横で地面に突き刺している人ほどの大きさの大剣。

 

 背はあちらの方が高いため、自然と見上げる形になる。


「そこをどいてくれないか?」


 進行方向を遮るように立つ男。まるで、通せんぼしているようだ。

 

「どく? 勝手に通ればいい」


「なら、そうさせてもらう」

 

 そうは言ったが、こんな所で立っているのだから何かしらの理由があるはず。例えば、教主の依頼で俺を殺──。

 男の隣を通り過ぎようとした時、剣が横薙ぎに振るわれた。

 

 速い!!

 地面に突き刺した剣を掴み、横に薙ぐ。それをするのに少しの時間を要するはずだが、時間を感じさせないほどの速い斬撃。それだけ手練れであるという事。

 身体を反らし、上を大剣が通り過ぎる。身体が動いたのは、襲ってくると分かっていたからだ。

 反らした身体、重心をそのままに両手にを地面につけてバク転をして距離を稼ぐ。

 

 こいつ、強い。

 静かに確信する。

 

「あ~あ、避けられちまったな」


 振り切った大剣を肩に担ぐ。

 その様は隙がありそうに見えるが、有効打を与えられる未来が見えない。

 こいつが教主が雇った暗殺者、いや殺し屋だろう。

 

「俺の名はザス。暗殺者殺しの異名を持つ殺し屋だ、あんたを殺せて幸栄だよ。影の王」


 好戦的な笑みを浮かべるザス。

 影の王という最強の暗殺者を殺して名をあげたい、ということだろう。その相手とは何度も戦ってきた。

 逃げることは無理だな、

 

 左の腰にある剣を右手で抜き、戦いを始める。

ストックのある一ヶ月分は毎日投稿する予定です。

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