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9話 優雅な船旅……にしたかったのに。


 船の旅の時間は穏やかに過ぎていく。

 勇者(アスカ)に追われないだけで、こんなに幸せな日々を送れるなんて……。


 船が出航して二日経ち、三日目に突入したところだ。

 船の上での生活は、早寝早起きが出来、何よりも穏やかだった。


「我、このままずっと船の上で生活したい……」

「何、一人で黄昏てんねん。気持ち悪い」


 我の至福の時間を早速潰しに来おったわ。

 しかし、気持ち悪いとは何だ。


「なんの用だ? 我はこれから優雅に日の光でも浴びようかと思っておるのだが?」

「いや、魔王って、日の光が苦手とちゃうんか?」

「何を馬鹿な。吸血鬼でも陽の光を克服したというのに、我ら魔族が克服できぬわけないだろう? 陽の光は気持ちがいいモノだ。で? 何か用か?」


 大体、魔族が陽の気を嫌うというのは、人間が勝手に言い始めた事だ。


「で? 本当に何の用だ? 我はゆっくりと過ごす日々を堪能したいのだが?」

「いやな、あんさんは別大陸に行ったらどうするつもりなんや?」


 カラスが聞いてきたのは、今後の事だった。


「あんさん、これからの事を考えとるんか? あの勇者ちゃんは間違いなく先回りしとるぞ?」

「嫌な事を思い出させるな」


 我の最大の問題、勇者アスカは転移魔法陣を使って移動ができるという事だ。

 つまり、我の様に船でのんびりと移動している間にアスカは先回りする事が出来るという事だ。この上なく厄介でしかない。


 しかし、我とてそこまで無能ではない。

 しっかりと船長にこの船の行く先を聞いておる。カラスにその事を話すと「そんなんわいでも知っとるわ」と呆れられる。


 ふふふ。

 カラスは何かを勘違いしているようだ。


 我が聞いたのは、正規の到着場所ではない。

 途中、補給のためによる港を聞いたのだ。


「船長が言うには、途中で降りる事も可能だそうだ。流石のアスカでも船の補給港で降りるとは予想もしていないだろう。これならば、安心のはずだ」


 この作戦は、必ず上手くいくと信じている。

 カラスも、我のこの考えまでは読めなかったみたいで、少しだけ意外そうな顔をした。


「そういう事かい。それならば、逃げられるかもしれへんなぁ。で? マオ(・・)はんは、どこで降りるつもりや?」

「そうだな、二日後に立ち寄る《アルバ》という町で降りようと思っている。我の記憶にあるあの場所ならば、しばらく時間は稼げるだろう。その間にアスカ対策でも練るとしよう」


 我が計画を話すと、カラスが我の頭を叩いてくる。


「アホか!! あんさんの目的は人間の王と話をしに行くんちゃうんかい!! 問題は勇者ちゃんだけやないんやぞ!!」

「そんな事言ったって、我、死にたくないし……」

「なんで、死ぬ前提やねん。勇者ちゃんと、ちゃんと話し合ったらええんとちゃうんか!!」


 カラスは、アスカの本性を知らないからそんな事が言えるのだ。

 あの凶暴なメスゴリラは、我を見るだけで殺そうとしてくる危険人物なんだぞ。


 我は、アスカと初めて会った時の事を話す。


 あの戦いのとき、アスカは我の言葉に全く耳を傾けずに、我をボコり続けた。

 それはそれは恐ろしく、笑顔で「いつでも殺せるぞ?」と言いながら、ボコボコにし続けられた。

 その恐怖が、お前に分かるか!! と。


「あ、あんさんにちょっとだけ同情してまうな……」

「そうだろう、そうだろう」


 我はあの時の事を思い出して、少し泣きそうになる。いや、少し涙が出ていた。


 我とカラスは大海原を眺めながら酒を飲む。

 あぁ、潮風が目に染みるなぁ……。


 そう言えば、カラスは長く生きていると言っていたし、我が封印される前から、我等の事を知っていた。

 もしかしたら、人間と魔族の関係がここまで拗れた理由を知っているかもしれん。


「カラスよ。我が封印された後、ミルド達、いや、魔族と人間がどうなったのかを話してくれないか?」

「ええけど、わいもそこまで詳しくは知らんで」


 我が封印されてから、しばらくはミルド達四天王が、人間の王に対して和平交渉を行っていた。我が知る人間の王は、争いが無くなるのならばと、交渉に応じていたそうだ。


 しかし、当時の勇者が国王になった時から何かが狂い始める。

 なんでも、民衆の中には魔族と和平交渉をしている王を糾弾する動きが見られたらしい。

 その時、先頭に立っていたのが、当時の勇者だそうだ。

 勇者は、国王を捕らえ、処刑した。

 そして自らが王となり、邪魔な魔族を消しにかかったのだ。


 それが、二百年前の話だ。


 それから百年ほどが経ち、その間もミルド達は、人間との共存のために動いていた。

 しかし、人間に弾圧された魔族の家族が、人間に反旗を翻した。


 その時先頭に立ったのが、新四天王だったそうだ。


 その後、ミルド達、旧四天王は追放されて、人間とは血で血を洗う関係になり、今の状態になっていったそうだ。


「わいの知っている話しはこれくらいや。天狗族としてはミルドの姐さんの商才が欲しくてな。それで天狗族のみんなが我先にと探しとるんや。まぁ、わいもその一人やけどな」


 

「ふむ、今の話を聞く限り、我を封印した事で、人間が調子づいてしまったという訳か」


 魔王である我がういなくなれば、事態はいい方向へと進むと思っていたのだが、そんなに簡単な問題ではなかったという事か。


 しかし、運命を受け入れて、勇者を殺していたら、人間の王は話を聞いてくれただろうか?

 いや、こんなたられば(・・・・)の話をしていても仕方が無い。


「カラスよ。今の魔族と人間の事情が良く分かった。ありがとう」

「ええって。で? もう一回聞くけど、あんさんは、これからどうするねん。今の話でも分かるように、ここまで拗れている以上、結構難しいと思うで」


 難しいか。

 難しいかもしれぬな。


 でも、我がこうしたい、平和に暮らしたいと思ったのだから、我が頑張らないといけないからな。

 そのためにも、アスカとどうにか話をしなければ……。

 そうでなかったら、人間の王と話をする前にアスカに殺されてしまう。


 我の一番の目標は、アスカをどうにかする事かもしれんな。

 しかし、どうすればいいんだろうか。


「ん? 海が荒れてきたか?」


 カラスが海を見て呟く。

 

「やはり、四天王がいなくなった事により、海も穏やかではなくなったようだな」

「どういうこっちゃ」

「いや、我がいた時代では、四天王の『オリゾン』が海の魔物を支配していたから、それほど魔物が好き勝手しなかったのだ」


 四天王のオリゾンは水魔法の得意な男で、いつも海に漁に出かけていたな。

 奴の釣ってくる魚は、どれも不味くて仕方が無かった。

 そう言えば、ミルドも人間と交流していたのならば、魔族の食事の改善に尽力を尽くしてくれていたら良かったのにな。


 我がそう呟くと、カラスから衝撃の言葉が告げられた。


「ミルドの姐さんは、天狗族の郷の料理を気に入ってたで? それに人間界に良く食べ歩きに出かけていたとも聞いたことあるで?」


 な、なんだってーーーー!!!


 わ、我があんなに不味いモノばかり食べていたのに、ミルドは裏で美味しいモノを食べていただと?  

 それならば、何故我には話をしなかったのだ?

 も、もしかして、我は嫌われていたのか?



「お、おい。これ不味いんちゃうか?」


 た、確かに不味い。

 我の顔を見た瞬間に、ミルドにまで攻撃を加えられたら、我は立ち直れない。

 しかし、カラスの言った不味い事というのは、我等の食生活ではなかった。


 カラスが、海を見ながら焦った顔をしている。

 何が不味いんだ?


「こ、これは、クラーケンや!!」


 クラーケンだと?

 あの大味で不味いイカか!!


 しかし、クラーケンはオリゾンのペットだったはずだ。

 もしかしてオリゾンが死んだ事で、枷が外れたのか!!?


「あ、あやつのペットを殺すのは忍びないが……」


 我は電撃魔法でクラーケンを殺そうとする。

 しかし、聞き覚えのある声が、この船の船長に警告し始めた。


「これより先は、海が荒れているべ!! これ以上は進まん方がいいべ!!」


 この田舎臭い言葉遣いは……。


 我はクラーケンの上に立っている男を見る。

 男は、ねじり鉢巻きをつけ、背に『大漁』と書かれた旗を持っている。

 服装は上は白いランニングで、下は白色のズボンだ。腰には茶色の毛糸の腹巻をしている。


 そして、トレードマークの煙草をくわえている。

 耳にはひれが付いているので、人間と思われる事は無い。


「な、魔族だぁーーーー!!」


 船内は、突然の訪問者によりパニックになる。

 しかし、オリゾンは襲う気では無いようだ。


 ここは、我がコッソリ話をして、退いてもらうしかないな。


 我は船長に「ここは我に任せておけ」と言い、船首に向かう。

 オリゾンは我を覚えているだろうか……。我を恨んでいないだろうか……。

 我は恐る恐るオリゾンに声をかける。


「お、おい、ここを通してくれないか?」


 できるだけ小さな声で話す。

 オリゾンの耳ならば、この声でも通じるはずだ。


「ん? いや、この先は危ないだべよ……って、え?」

「ひ、久しぶりだな。オリゾン」


 オリゾンは我に気付いて、黙ってしまった。

 このまま退いてくれるとありがたいのだが……と話しかけたが。


「バルバトス様!!!!」


 と、大声で言ってしまった。

 船内の客達は、我がバルバトスと呼ばれた事に驚く。

 一度目は、今を時めく『勇者アスカ』

 二度目は、海で襲って来た『魔族』


 この状況だけで、船内がパニックを起こすのは必然だった。


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