8話 これからの事
カラスと飲みながら話を聞いていると、彼も早朝の船で別の大陸へと渡るそうだ。
理由としては、この大陸でミルドを探したが、結局見つからなかったようで、次の大陸へと渡ろうと思っていたらしい。
何故、そこまでしてミルドを探しているのだろうか?
その事を聞こうとしたら、先に質問されてしまった。
「で? あんさん、これからどうするねん」
どうする……か。
我の一番の目標は、人間や亜人達との和平なのだが、我一人で人間の王に会おうとしても、会って貰えないだろう。
協力者を募るにしても、我一人ではどうにもならん。
やはり四天王は必須となるだろう。
しかし、四天王を探すとなると、協力者が必要なのも確かだ。
もしこの男が我を騙そうとしても、我は魔王だ。アスカのような化け物が相手ならばいざ知らず、この男ならどうとでもなるだろう。
それ以前に、この男は信用できそうな気がする。
「船で別大陸に行こうと思っている。別の大陸に行ってしまえば、アスカも追いかけてこれないだろう」
アスカが追いかけてこなければ、我としても安心して計画を実行できるというモノだ。
しかし、我の話を聞いてカラスは呆れているように見える。何故だ?
「転移魔法陣って知っとるか?」
「転移魔法陣? 転移魔法なら知っておるが、転移魔法陣は聞いた事が無い。なんだそれは?」
さらに言うならば、転移魔法ならば我も使える。
しかし、アレは魔力の消費が激しいので、人間には使えないはずだ。
しかもだ、転移魔法というのは不安定なもので、願い通りの場所に転移出来ないという欠点もある。
そんな不安定な魔法を魔法陣にするという奇人が現れたのか!?
「やっぱり知らんのかい。あんさんが寝とる間に魔法は進歩しとってな、今では、別大陸に行くのに船で行く必要はないんや」
「ど、どういう事だ?」
「そうやな。説明したるか」
カラスが言うには、我が前の勇者に封印されてから三百年ほど経っているそうだ。
我の認識としては、長くても五十年ほどだと思っていたが、現実にはもっと時間は経過していたらしい。
確かに、三百年もあれば、人間と魔族の確執も更に広がっていてもおかしくはないな。死んだ、馬鹿四天王だけを責めるのは酷という事か。
話を戻して、転移魔法なのだが、やはり面倒な魔法式が欠点だったらしく、人類は転移魔法の簡略化と魔法陣化を実現して見せたそうだ。
ただ、魔法陣化されたといっても、並みの魔導士が使える魔力使用量ではないので、高位の魔導士を抱える王侯貴族や、金持ちだけが使用できる魔法になっているそうだ。
それならば、あの田舎娘のアスカには使用できないから、いいんじゃないのか?
あんな蛮族のような性格の小娘が、貴族の出とは思えん。
「それを聞いて安心した。アスカは田舎娘っぽいから、おいそれとは使えないだろう」
「何言うてんねん。勇者様が田舎娘なわけないやろうが」
ん? どういう事だ?
「勇者というのは、貴族に匹敵、いや、王族にすら意見できるような立場やぞ? 金も持っとるし、転移魔法陣かって、使用し放題のはずや」
「ちょ、ちょっと待て、それならば、我はアスカから逃げられないのではないのか?」
「そうなるな。今のあんさんに出来るのは、勇者の嬢ちゃんと和解するのが一番ちゃうか?」
あのアスカと和解?
いや、無理無理無理無理。
だって、あの娘は人の言う事を何も聞く気が無いんだもの。
「な、何とかならないのかな?」
「ちゃんと話し合えばいいんちゃうか? いくら何でも、理由も無く殺しにかからんやろう?」
理由……あるんだよねぇ。しかも、思いっきり重たい理由が。
我はカラスに、故・四天王の蛮行を説明する。そして、アスカの故郷に我の名の下で襲撃した事も。
我の名の下と言っても、我は寝ていたわけだから、知るはずもない。
そもそも、何故魔族がそうなったのかも分からない。これは四天王に話を聞く必要がある。
話しているうちに、カラスの目は我に対し可哀想なモノを見る目になっていた。
「ま、まぁ、船に乗ってから考えたらいいんちゃうか。話し込んでいる間に夜も明けてしもたからな」
「……そうだな」
船の搭乗時間になり、我とカラスは船着き場へと行く。
船は、かなりの大型で、我が封印される前にはこれほどのモノは無かった。
三百年か……。時が過ぎるって、凄い事なんだなぁ……と改めて認識した。
定刻になったので船は出航する。
これでひとまず安心したと、港を見ていると、見た事のある少女が必死に走っている。
巨乳なので、ものすごく揺れているな。港の男達の目が釘付けだ。
「逃げるな――――!!」
叫んでいるのは、アスカだ。
我はすぐに姿を隠す。
こ、この距離は不味い。跳べば乗り込めるじゃないか!!
しかし、アスカは港で足を止め騒いでいる。
「降りてこい―――――!!」
必死に叫んでいるが、跳び乗ってこない。
何故だ?
我が不思議がっていると、カラスが呆れた顔で我を見る。
「そりゃ、無銭乗船は罪やからな。勇者ともあろう者が、犯罪行為をするわけにはいかんやろう?」
た、確かに。
では、我は助かったのか!?
「そこにいるのは魔王バルバトスよー!!」
ゲッ!!
あの勇者、なんて事をほざきやがる!!
アスカの言葉に船員や客達が驚く。
「ち、違う!! 我のような顔の人間が魔王なわけがないだろう!」
カラスは笑いを堪えているのか、腹を押さえて蹲っている。
「いや、その顔は十分あり得そうなのだが?」
船員の一人が、恐る恐る我にそう言った。
いや、顔は生まれつきだから、そんな事を言ったら強面の人が可哀想でしょ!!
しかし、他の言い訳を考えなくては……。
「わ、我が魔王ならば、今頃、お主ら全員死んでいるはずだろう?」
あまり言いたくない言葉だが、これならば納得してくれるか?
船員達は納得してくれたみたいで、アスカを見た後、我を再び見て「そう言えば、あんた、あの記事の男に似ているな」と笑う。
その瞬間、客達も一気に我を見て、ニヤニヤしだす。
何故だ?
まぁ、下らないゴタゴタに巻き込まれるのは嫌だからな。他人の空似という事にしておこう。
「ま、まぁな。我も良く言われる。他人の空似という奴だろう?」
「もしかして、痴話喧嘩かい?」
いや、他人の空似と言っておるだろう?
「まぁ、喧嘩なら仕方が無いが、もう出航しちまったから、暫く恋人には会えなくなるぞ?」
「こ、恋人ではない!!」
なぜ、こいつ等は人の話を聞かんのだ?