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7話 天狗族 カラス


 船の出航時間は明日の早朝だ。本当は最速で出航する船に乗りたかったのだが、すでにチケットが売り切れだった為に、早朝出発のチケットしか買えなかった。

 ここまで、飛んできたのだから、飛んで大陸に渡ればいいと思われるのだが、いくら魔王でもそんなに長距離を飛んでしまうと、疲れが出て魔族の特徴である、角と翼、それに尻尾が隠せなくなってしまうのだ。


 宿を早めに取り、今日は昼から眠る事にする。

 我としては、健康的な生活をしたいので本当は夜に寝たいのだが、あのアスカ(ゴリラ)がまた襲撃に来るかもしれん。まぁ、もし来たとしても、どんな手を使っても生き残る事だけを考えれば、何とかなりそうなのだが、これが原因で船に乗り遅れたら大変だからな。

 もし、乗り遅れた場合、逃げ場を失い本格的にアスカに殺されてしまうだろうな。



 我は良く眠れるように酒を飲み、そして眠りにつく。


 目が覚めたのは夜だった。どうやら、アスカはまだこの町に来ていないようだ。

 我はこの時間に宿を出て、酒場で朝を待つとしよう。

 

 我はふと、空を見上げる。雲一つも無く、大きな月が浮かんでいる。


「今日は月が奇麗だ。もし、追ってきているのが我を慕ってくる者ならば、幸せな気分になるのだが、アレは我を憎んでおるからなぁ」


 アスカにも使命を忘れて、どこかで幸せに暮らして欲しいモノだ。我の為に……。



 酒場は、仕事終わりの船乗り達で賑わっていた。

 この光景を見ていると、前四天王達と過ごした日々を思い出して涙が出そうになってしまう。

 あの頃に戻りたいものだ……。

 いや、アスカがいる以上、今は不可能だ。


 アスカの境遇は同情するが、我の話を少しでも聞いてくれればいいのだが、全く聞いてくれないからな。

 魔王らしく滅びを与えるか? とも思ったが、アスカの異常な強さを考えると、滅ぼされるのは恐らく我だ。それだけはごめんである。

 仮に、我が土下座をして許しを請うたら、助けてくれ……いや、もう二度それをやって下着を覗いてボコられておる。これも駄目だ。

 

 我は、酒を一瓶だけ買い、カウンターで一人ゆっくりと飲み始める。

 これからの事をいろいろ考えねばならん。


 一番大事な目標として、人間の王との会談だ。我の最終目標は、魔族と人間、亜人との共存だ。そのためには人間の王と話をする必要がある。本来ならば、勇者アスカに間に入って貰い話し合いをしたいのだが、あの娘は人の話を聞かんからなぁ……。

 まぁ、自分の大事な家族を殺されたのならば仕方ないといえば仕方ないのだが……。実際、我のせいではないんだがな……。


 今のこの状況を作ってくれた魔王四天王は、アスカにより全て殺された……らしい。

 殺された四人については、正直な話、どんな奴等かも知らないので、興味がない。

 我が知りたいのは、殺された四天王に追い出された、我と共にあった四天王だ。彼等はどうしているのだろうか。生きているのだろうか?

 海を渡ったら、元・四天王の事も調べてみる必要があるな。



「よぅ、さっきは世話になったのぅ」


 一人で静かに飲んでいた我に声をかけてきたのは、門番に魔族と呼ばれていた天狗族の男だ。


「あぁ、さっきの天狗か。我の行った事など気にするな」

「いや、借りを作るのは商売人としてのわいのプライドに関わるわ」


 ほぅ……。こ奴は商人なのか? 

 商人というのは義理堅いモノなのだな。


「そうか? ならば、ここで酒の一杯でも奢ってくれないか? それで貸し借りは無しだ」

「おっさん、おもろいやっちゃなー」


 そう言って、天狗は店主に酒を一杯注文する。


「ほれ、これで貸し借り無しやな」

「あぁ」


 これで、天狗が去ると思ったのだが、天狗は我の横に座る。


「で、ここからが商売の話や」


 商売? 我は商人ではないぞ?

 今は、ゴリラから逃げ回る哀れな魔王だ。


「あんさん、魔族やろ?」

「ぐっ……」


 我は口に含んだ酒を吹き出しそうになる。

 何を言っているのだ、この天狗は?

 我の変化能力は完璧なはずだ。いや、アスカも我をロックオンしとった。もしかして大した事ないのか!?


「その沈黙が証拠になるで、気をつけや」

「な、なぜ、我が魔族だと分かった?」

「門番に魔族の事を話しとったやろ? 四天王が好き勝手やっとるこの時代に、魔族の事を良く言う奴はおらへん。そんな奴、人間では裏切り者か化けた魔族くらいや」


 そ、そうだったのか。これからは気を付けるとしよう。


「で? 我に何か用なのか?」

「そうやな。魔族に探している人がいる。わいはこう見えても年齢を重ねた天狗でな。名はカラスって言うんや。その昔、わいが懇意にしていた四天王がいてな、あ!! 今の血の気の荒い四天王と違うで? そこだけはハッキリ言っておかんとな」


 血の気の荒いか……確かにその通りだな。アイツ等のせいで我は……。

 カラスの言っている四天王というのは我の知っている四天王か。


「四天王の名は『ミルド』の姐さんや」


 ミルド。

 我の四天王の中で、唯一の女性で、人間との交渉をしてくれていたのが彼女だ。

 確かに、彼女には商才はあった。魔王城の資金面も彼女が管理してくれていた。


「で、ミルドの姐さんを探しとるんや。同じ魔族なら何か知らんか?」

「いや、我も知らんのだ。我が起きて、まだ一月も経っておらん」

「起きて? そうか、あんさん、魔王バルバト……むぐっ」


 我は、天狗の口を手で押さえる。

 い、いかん。誰にも聞かれていないな?

 我は周りを見る。誰も気づいていないようだ。


「苦しいわ!!」


 天狗は我の手を払いのける。


「こんな危険な話、周りの奴に聞かれている状態で垂れ流すわけないやろ!! ちゃんと、わい等の声が漏れんようにしとるわ」

「そ、そうなのか?」


 天狗の話では、幻術をかけているらしく、周りの人間には、二人で静かに飲んでいるようにしか見えないらしい。ちなみに他の奴等が声をかけてくる心配もないそうだ。

 我は、とりあえず安心する。


「あんさんも気をつけなあかんで? 前の勇者に封印された時の事を知っとる奴等なら、あんさんの顔を知っとるんやから……どうせやったら、顔を変えたらいいのに、なんで顔はそのままやねん」

「いや、我は変化の魔法は魔族の特徴を消すので精いっぱいでな。ここまで完璧に消せるのは、我と四天王くらいだからな」


 我は、ドヤ顔で説明するが、カラスは呆れた顔をする。


「何を言うとるんや。そんなん、すぐにバレるで少しは気をつけや。で? その魔王様がなんでこんな所におるんや?」


 我の威厳の為にも嘘を教えようともしたが、ミルドの知り合いというのであれば、味方になってくれるやもと思い、ここまで逃げてきた事を説明する。


 カラスは話を聞いているうちに、我の情けなさに呆れた顔になってくるが、最後まで聞いてくれた。


「あんさん、魔王やのに魔王っぽくないな。そうや、勇者アスカと言えばな」


 そう言って、何かの紙を取り出し我に見せてくれる。どうやらゴシップ紙の様だ。


【勇者アスカ、熱愛!! ファン、嘆きの声!!】


 ほぅ、あのゴリラにそんな相手がいたとはな。これはめでたいし、これを期に我を忘れて幸せになってくれるとありがたい。


「何を安心しきった顔しとんねん。良く記事を読んでみぃ」

「何?」


 我は記事をよく読んだ。

 アスカが一夜を共にした男がいるというのだ。まぁ、恋人同士ならば問題などないだろう。

 日時は昨日? どういう事だ? 


「昨日の出来事がどうして記事になっている? 我のいた時代にはこんなに早く記事には出来なんだぞ?」

「あのなぁ、あんさんが封印されてから何年経ってると思ってるねん。今やったら、次の日の朝に号外が出る事もおかしくないわい!!」


 ま、マジか?

 それにしても昨日は、アスカは我の部屋……。

 男の特徴……厳つい顔……これ、我の特徴に似ておるな。

 え? も、もしかして……。


「こ、これ、我の事か?」

「せやろな……思い当たる節があるんか?」

「あぁ、昨日と言えば、アスカが我を殺しに来てな、不眠不休で我を追って来たみたいで、その場で寝てしまったのだ。で、床で寝させるのは可哀想だと思ってな、ベッドで寝かせたのだ。あ! 我はアスカを寝かせた後にすぐに宿を出たぞ? そこは勘違いしないでよね!!」

「なんや知らんが、あんたムカつくわ」


 な、なんで!?

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