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5話 勇者アスカ


 商業ギルドで、我を哀れむ目に暫く耐えていると、奥から昨日の受付嬢がやってくる。

 そして、魔法の鎖で繋がれた我をチラッと見てから、勇者アスカと親しく話し出す。


「あら? アスカじゃない。商業ギルドに来るなんて珍しいわね。それに、その首輪をつけている人は、確か無茶な仕事を請け負ったマオさんだっけ? アスカに飼われたの?」

「いや、我は犬ではないのだが、受付嬢よ、このゴリラを何とかしてくれ」

「誰がゴリラよ!!」

「ぐはぁ!!」


 反論できぬからと言って、いきなり殴ってくるのはどうかと思うのだが!? こういう所がゴリラだというのだ!!

 受付嬢のリカとやらは我とアスカのやり取りを見て笑っている。笑う暇があるのなら助けてくれないか?

 そもそも、勇者でありながら、こんな凶暴な性格というのもおかしな話だ。勇者というのはもっと爽やかで、綺麗な目をしているものではないのか?

 こ奴は、見た目は可愛らしい類だと思うが、中身がゴリラだ。爽やかさとは程遠い。


「楽しそうで何よりだわ。で? 今日はどういった用件で来たの? アスカは魔王を殺す事に忙しくて、彼氏も出来てないでしょう? もしかしてマオさんが彼氏なの?」

「違うわよ!! 誰がこんなおっさん!!」


 いや、確かに長く生きているからおじさんはおじさんなのだが、面と向かって言われるとショックを受けるな。


「それに私はそういうのは良いのよ!! 後、魔王ならもう捕まえているわ!!」


 アスカが我を指差すと、周りの商人が一斉に笑い出す。

 ぐぬぬっ、確かに我は今首輪をつけられているが、こう見えても立派な魔王なのだ!!


「へぇ、アスカもそんな冗談がいえるようになったのね。お姉さんは嬉しいわ」

「いや、冗談じゃないんだけど? こいつが魔王バルバトスなんだけど?」

「あはは、恐怖の象徴と言われた魔王が、そんなに大人しく首輪をつけられるわけないでしょ」


 恐怖の象徴とは少し、いや、大分、脚色されていると思うのだが、なんだ? この胸の奥の痛みは……。

 悔しい……悔しいのぉ……。

 我はこう見えても、何代の勇者を相手にしてきた、魔王なんだぞ?


 我の目から熱い何かが溢れてくる。


「おっさん、そんな女の子に泣かされてちゃ、情けないぞー」

「わ、分かっておるわい!!」


 く、くそぅ。

 こ、これが涙というモノか!? い、いや、どこかの帝王でもないのだから、それくらいは知ってるけどさぁ。


「ちょっと、あんた魔王でしょ!? もう少し偉そうにしてよ!! これじゃあ、私が弱い者苛めしてるみたいじゃないのよ!!」

「弱いモノではないと自負しておるが、虐めているのは事実だろうが。そもそもお前が首輪をつけるからややこしくなるのだ!!」


 我とアスカが言い合っていると、リカが手を叩く。


「はいはい。イチャイチャしなくていいから、「だ、誰が!?」アスカ、何か用事があったんじゃないの?」

「あ、そうだった」


 アスカはリカに何やら書類を渡しておる。そう言えば、会社とやらを出る時に金庫を破壊して中身を取り出しておったな。

 我が以前の四天王に聞いた話では、勇者は、他人の家のタンスやつぼを破壊しても許されると聞いた事があるが、まさかこの目で見る事になるとはな。

 しかし、金庫を破壊した時は衝撃だったぞ。

 我でも知っている事なのだが、金庫というモノはダイヤルを合わせて鍵を開錠してから開くモノじゃろ? アスカはダイヤルなど合わさずに、いきなり金庫の取っ手を力尽くで回し、開けておったぞ? それを見たらゴリラとしか思えなくなるではないか。

 やはり、我は間違っていないな。


「これは、あの噂のゼニーの会社の裏帳簿じゃないの。良く、こんな分かりやすい証拠を手に入れたわね」

「そうね。この男が受けた仕事がゼニーとやらの仕事だったのよ」

「なんですって? そんな馬鹿な、私達は事前にアイツからの仕事を受けないように審査などをしているのよ!!」

「それをすり抜けていたんでしょうね。金に意地汚そうな男だったから、それくらいするでしょう? で? これを使って、あの会社を潰す事が出来るの?」

「ふふふっ。商業ギルドを敵に回した事を死ぬ寸前まで後悔させてやるわ。それよりもよ、こんな物を、どうやって手に入れたの?」

「あぁ、このゴリラが会社という場所の金庫を破っておったぞ。力だけでな」

「え?」


 我が丁寧に教えてやると、リカが驚いている。

 アレ? 


「何を驚いているんだ? 勇者は他人の家の者を勝手に持って行っていいというルールがあるんだろ? 昔の知り合いが言うておったぞ?」

「ちょっと!! 余計な事言わなくていいのよ!! 殺すわよ!!」

「いや、アスカは勇者だけどそんな事しないし、そもそも、今の時代でそんな事をしたら、普通に犯罪者よ。マオさんの知り合いの人はいつの時代の人なの?」


 む? 確かに、前の勇者に封印されてから何年経っているかも我にはわからぬからな。そもそも我が復活してまだ一週間ほどだしな。

 まぁ、それは良いとして、アスカの奴、随分と動揺しておるようだな。

 ん? こ、これは首輪の力が弱まっておる!!

 もしかして、この女が動揺した事によって、首輪の力が解けかけているのか!!?

 これはいい事を思いついた。


「そ、そもそも、こいつの力はおかしいのだ。人間ではないぞ? ゴリラだゴリラ!!」


 ここまで悪口を言われればこ奴も動揺……ん? 首輪の力が強くなっている? どういう事だ?

 あ、あれ? アスカの顔が真っ赤だ……ま、まさか……。


「あんた……調子乗ってんじゃないわよぉおおおおお!!」


 え? あ、し、しまったぁあああああああ!!

 これは動揺させたんではなく、怒らせたという類の奴か。ま、不味いぞ!?

 我は首輪のせいで逃げられぬ!! 

 く、かくなる上はこれしかない!?


「ど、どうか命だけは助けてください!! 勇者様!!」


 我は得意技の土下座をして命乞いをした。

 あと、我は学習もしている。

 今、アスカの反応を見る為に上を向くのはご法度だ。また下着を見て踏みつけられてしまう。


「ちょ!? こ、こんな所で勇者って!?」

「え?」


 ん? く、首輪の効果が消えている?

 ど、どういう事だ?


 我はそーっと上を見ると、アスカは顔を隠していた。

 どういう事だ?


「こ、これは?」


 我はリカに説明を求めると、溜息を吐いてアスカの肩に手を置く。


「あぁ、アスカは目立つのが嫌いなのよ。今、あの子は恥ずかしくてしょうがないんじゃないの?」


 よっっしゃああああああああ!!

 これは逃げられる!!

 

「そ、そうなのか。じゃあ、リカ殿にアスカの事を任せる。我はこれで!!」

「え?」


 それだけを言い残し、我は商業ギルドの玄関まで走る。

 首輪はもう消えている。アスカが気付いて、我を追おうとしているが弱点はもう掴んでおるわ!!


「ここに()()()()()()がいるぞー!!」

「お、お前ぇええええええええ!!!」


 その言葉で、町の人達も一斉にアスカの方へと駆け寄る。

 ざまぁああああああああ!! これで、逃げ切れるぞぉおおおおお!!


 我は必死に走り、町から逃げた。

 頼むから、もう追ってこないでくれ。


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