4話 強引な勧誘と乱入者
我は依頼主に連れられて、会社というところに連れていかれている。お金さえもらえれば、我は会社などに興味はないのだが。
そもそも、会社とは一体何なのだろうか。聞きなれない場所に連れていかれる不安はあるが、依頼料はそこで渡すという事なので、大人しくついて行く事にした。
依頼主殿がいう会社とは大きな建物だった。
建物に入ると、ソファーがいくつか置いてあり、そこで待っているように言われる。
我は素直に座りお金を持ってくるのを待つ。
暫くすると、我に負けず劣らないほどの悪人面をした男が我の前に偉そうに座った。
「がはははは。あんたがあの邪魔な家を消してくれたって人か。どんな方法で消したんだ?」
馴れ馴れしい男だ。
「魔法で消したのだ。それよりも、早く今回の報酬を貰えぬか? 我としては商業ギルドに報告して、この町から出たいのだ」
「なんだ? この町を出たいって、脛に傷がある奴か?」
脛に傷? そんなものは無いが、何を言っているんだ?
「それなら、うちの会社に入らねぇか? うちならば、脛に傷のある奴だろうと大歓迎だ。お前の魔法を俺の為に使っちゃくれないか? いや、使え!! これは命令だ!!」
命令? 魔王である我にか?
随分といい度胸だが、そんなことはどうでも良い。
「早く報酬をくれないか? 我はそんな与太話に構っているほど暇ではない」
早くしないと、勇者が起きて来るじゃないか。
アレが起きて来たら、間違いなくここにも来る。それだけは困るんだよ。
「こんなにいい条件なの蹴るのか? 愚かを通り越して、馬鹿だな。おい、今回の報酬を出してやれ」
いい条件とは何だ? ただ命令して来ただけに思うが。
依頼主殿がお金の入った袋を我に投げてくる。
こいつ等、少し不敬……いや、今の我は只の人間『マオ』だ。
我はお金の入った袋を持ち帰る為に立った。
すると、いかつい顔をした男達に囲まれている。
全員が我に対し敵愾心を持っている様だ。
「これはどういう事だ?」
「がははは。痛い目に遭いたくなかったら、俺の言う事を聞け。俺は優しいからなその金はくれてやる。だが、お前の魔法を俺が使ってやると言っているんだ。感謝しろ」
金をくれてやる? この金は仕事の報酬だろう? なぜ、物乞いにやるような言われ方をしなきゃいけないんだ?
どのみち、こんな不敬な連中とかかわるのはごめんだ。
「そういう話なら、断らせてもらおう。先ほど言ったが、我はこの町を出ねばならん。貴様等の与太話に付き合うつもりはない」
「くははははは。今のこの状況が見えてねぇのか!? てめぇ等やっちまえ!!」
困ったな。
所詮、こいつ等は只の人間だ。
簡単に倒す事も出来るが、出来れば事を荒立てたくはない。
どうしたものかな?
何かいい考えが出るまでは、このゆっくりな攻撃でも避けているとしよう。
「クソっ!! こいつ攻撃が当たらねぇ!!」
何を言っている? 我は引退したとはいえ魔王だぞ?
いつ引退したかって? 逃げ出した、じゃ、かっこ悪いだろ?
「止めておけ。貴様達の攻撃など当たる事は無いよ」
「クソ!! そいつを取り押さえろ!!」
しつこいな。そろそろ一撃くらい与えていいかな?
そう思っていると、突然窓が割れる音がした。
なんだ? と思って、窓を見ると、そこには真っ赤な顔をした勇者が立っていた。
「やっと見つけたわよ!! あんたのせいで宿屋のおかみさんに勘違いされっちゃったでしょうが!!」
え? 何の事?
「いや、我は眠ったお前をベッドで寝かせていただけじゃないか!! 感謝こそされど、文句を言われる筋合いなどないわ!!」
「そうね!! それはありがとう!! でも、朝起こしに来たおかみさんは、私が服が乱れた状態で寝ていたから、「昨晩はお楽しみだったのかい?」とニヤニヤしながら聞いてきたのよ!!」
いや、それは我は関係なくて、寝相の悪いアスカちゃんが悪いんじゃ……。
「とりあえず死ね!!」
「ぐぼぉ!!」
思いっきり右頬を殴られた!? なんで!?
我はその場に倒れる。なんて威力をしているんだ!? ゴリラかこの女!?
我は勇者を見上げる。
「……今日も白か……」
し、しまったぁああああああ!! うっかり口を滑らせてしまったぁああああああ!!
「この変態がぁああああ!!」
思いっきり踏まれてしまった。
首、折れてないよね?
「お、おい。いきなり入ってきて、お前は何だ?」
「うるさいわねぇ。それよりこの状況はどういう事? 説明しなさい!!」
何で我怒られているの? この子何なの?
我が起き上がろうとすると、片手で持ち上げられる。
本当になんなの? この子の力……。
我は勇者にさっきまでの会話内容を教える。
「へぇ~。不正勧誘という訳か。そう言えば、冒険者ギルドでも有名だったわよねぇ。この会社の腐り具合は……」
勇者の口角が吊り上がる。
めっちゃ怖いんですけど……。
「ねぇ、なんでこいつ等を始末しなかったの? あんたの力なら余裕だったでしょ?」
「いや、何事も暴力で解決するのは良くないと思ってな。我としてはお金さえもらえればそれでよかったのだ」
「ふーん。どうでも良いけど」
どうでもいいんかいっ!?
勇者は、男達を睨んでいるが、男達も突然の美少女の乱入に戸惑っているのかと思ったが、どうやら良からぬ事を考えているらしく、襲いかかろうとしていた。
「くはははは!! そのマオとどういった関係かは知らんが、ここに来た以上、綺麗な体で帰れると思わない事だな!!」
「マオ?」
「あぁ、我の偽名だ」
「ふふっ、魔王だからマオ、単純すぎて笑えるわね」
し、失礼な。我が頑張って考えた名前を!?
「さて、たっぷり楽しませてもらおうか? お嬢ちゃん」
あ、これはあの男、死んだわ。
勇者も思いっきり肩を震わせているし……今のうちに我も逃げようかな?
ぐえっ!!
何!? クビに何かついているんだけど!?
「何逃げようとしているのよ。逃がすわけないじゃない……」
ひぃ!? 目、目が怖すぎる!?
「ちょっと、こいつらを痛めつけるから大人しく待っていなさい」
そう言って勇者は男達をボコボコにしだした。
やっぱりあの子はゴリラか何かだと思うんだよね。強すぎる。
しばらくして、両手両足を骨折させられた男達が、固められ、後は社長と呼ばれた男だけになった。
「ま、待て!! 金ならいくらでも払うから、用心棒にならないか? 何なら愛人でも構わん!!」
いや、それはどう考えても火に油を注いでいる言葉なのだが? 馬鹿なのか?
あ、勇者がソファーを持ち上げて殴った。アレは痛いだろうな……。
男は白目で失神している。哀れである。
「さて、商業ギルドに行くわよ」
「え? なんで? 我はこの町から出たいんだけど?」
「どうして?」
「逃げる為に……あ!?」
「だから逃がすわけないでしょ? 馬鹿なの?」
この首の何かさえ取れれば―!!
クソっ!? 取れん!?
「それを取るのは無理よ。取る方法は、そうねぇ……私を動揺させたりしたら取れるんじゃないの? ふふふっ」
なんて恐ろしい拘束具なんだ!? 我にこのゴリラを動揺させる事なんてできるはずがない!?
我は繋がれたまま商業ギルドに入る。
商業ギルドでは怪訝な目を向けられる。なにせ、今の我は犬の様に首輪をつけられているのだ。なんだこの羞恥プレイは!?
「ちょっと、受付のリカいる?」
「え? リカさんはギルマス……「そんな事いいから呼んできて」、あ、はい」
この子、勇者だからって少し偉そうにし過ぎなんだけど……。
いや、我を哀れな目で見るんじゃない!! 我は奴隷ではない!!
「あんた、何商人たちに威嚇してんのよ。大人しくお座りでもしてなさい」
だから、我は犬ではない!!
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