3話 深夜の訪問はやめて欲しい。
勇者は、我と目が合うと口角を釣り上げた。
「み・つ・け・た」
声は聞こえなかったけど、口が確かにそう動いた!?
やっべぇええええええ!! もう見つかった!?
我はすぐに部屋に顔を引っ込めた。
い、いや、今のは幻覚だ。我が勇者を怖がるがあまり、幻覚を見たということに出来ないかな?
我は決死の覚悟で、もう一度外を見てみた。すると勇者はいなかった。
「良かった~。いなかったよ。だいたいこんな深夜に女の子が一人で立っているわけないよね?」
我は、そろそろ寝ようかと振り返った。
すると、そこに笑顔の勇者が剣を握って立っていた。
そして再び笑顔で、こう言い放った。
「幻覚だったらよかったのにねぇ~? 見つけたわよ、魔王バルバトス!!」
「!!?」
ど、ど、どうして勇者がこの部屋にいるの!?
い、いや、入ってきた気配を全く感じなかったよ?
「さぁ!! 覚悟しなさい!!」
「ちょっ!? 今、深夜だから他のお客さんに迷惑になるよ」
我がそういうと、勇者はキョロキョロして声を小さくする。
「さぁ、覚悟しなさい」
「その前に教えて? なんで、我がここにいることがバレたの?」
「さぁね。私とあんたには殺し合う運命の糸で繋がっているんじゃないの?」
はぁ!? 勇者みたいな可愛い女の子と運命の赤い糸なら大歓迎だけど、殺し合う運命の糸なんて今すぐ引き千切りたいんだけど!?
それに、偶然にしてはこの子、我の部屋を見上げていたよね!?
「い、いや、今我の部屋をジッと見てたよね? 我がここにいるのを把握してたんじゃないの?」
「さて、どうかしらね~。じゃあ、死んでもらおうかしら?」
勇者は剣を構える。が、その姿に隙があるように見えた。
魔王城で戦った勇者は、攻撃する隙すら見せなかったが、どういうことだ? 剣を持つ手もぷるぷる震えているみたいだし。
「どうやら体調が悪いようだな。今日の所はお互い退かぬか?」
「冗談。あんたを殺す為にここまで来たのよ? 逃がすわけないじゃない」
我は、話をしながら逃走経路を確認していた。
くっ、窓か? 窓しかないのか!?
「ふふふ……、この町まで不眠不休で走ってきたかいがあったわ……さて、死ん……う……ね、眠い……あんた……何……を?」
勇者はそう言って、その場で倒れてしまった。
うん。我は何もしていないね。恐らく不眠不休で走って来たから、我を見つけて気が緩んで眠くなっちゃったんだろうね。
アスカちゃんったら、ドジっ娘だね。
「う~ん。魔王コロス~」
物騒な寝言を言っているね。
仕方ない。ベッドで休ませてあげるか。
あ、剣は危険だから破壊しておこうかな。これを使えなくすれば諦めるかもしれないし。
ん? これは聖剣か? い、いや、神剣か!!?
今度の勇者はこんな物騒なものを持っていたのか。
だが、我の力を使えばこんなもの。
「デリート」
この魔法で、神剣は消滅した。
これでこの子も、我を追ってこようと思わんだろう。
我は勇者をベッドで寝かせ、そっと宿屋を出ようとした。
宿屋の玄関口で店主のおばさんに声を掛けられる。
「おや? こんな時間にどうしたんだい?」
「い、いや、我は今からお仕事なので、出かけようとして!!」
「え? こんなに遅くにかい? 何か隠していないだろうね」
鋭い人間だ。
しかし、我の部屋に勝手に寝ているいる勇者がいては、このおばさんが驚いてしまうやもしれぬな。一応、伝えておくか。
「我の部屋に、女性が寝ておる。我の知り合いだから、朝まで寝かせてやってくれないか?」
我は丁寧にそう言ったのだが、おばさんはニヤニヤしていた。
「あんたも、怖い顔をして隅に置けないねぇ~。分かったよ、朝までゆっくり寝かせてあげるよ」
「済まないな」
何やら、誤解をしているようだが、まぁ良いだろう。
しかし、仕事に行くには少し時間が早い。
本当は逃げたいが、我が受けた仕事だ。それだけはきっちりこなさないと、この宿屋を紹介してくれた受付嬢に悪いからな。
我は、時間まで適当に町を徘徊して、商業ギルドへと向かった。
「家の解体の仕事を受けたものだが」
「あぁ、あんたか。よろしく頼むよ」
商業ギルドには、我に劣らぬほどの悪人面をした男がいた。これが依頼人らしい。
我としては、さっさとこの町から逃げたいのでちょちょいっと仕事を終わらせたいのだが……。
「あんた、怖い顔をしているな。そんな顔じゃモテないだろう?」
いや、失礼だな!? その言葉をお前に返すわ!!
まぁ、今はそんなことどうでもよい。
我は失礼なおっさんと解体予定の家の前へと向かった。
家は結構大きく、これを一人で解体しろということだった。
「おい、流石にこれは人間一人では無理ではないのか?」
「ガハハ。あんたもそう思うか? 俺もそう思うぜ!?」
こいつ、腹が立つな。
しかし、自分でも無理だと思うことを何故依頼したのだ? これを聞く必要もありそうだな。
いや、我にそんな暇はない。さっさと終わらして逃げるのが先決だ。
「依頼主殿。これを消し去ればいいのだな? 方法は問わないな?」
「ん? あぁ、俺としてはこの建物が邪魔でな。上から予算は出ないが解体しろと無茶を言われてたんだ」
「そうか。ならば一瞬で終わらせてやろう」
我は、魔法を唱える。これは重力魔法『グラビティプレス』という魔法だ。
重力を使い、この家を圧縮し尽くしてやろう。
「グラビティプレス!!」
我が魔法を唱えると、家は一瞬で黒い塊に飲まれていく。そしてそれが収束していき、やがて消える。
「はい。終わり」
「あ、あ、あ、あ、あ」
依頼主殿の顎が外れそうになっている。大丈夫か?
「あ、あの、終わったぞ?」
我が声をかけても反応がない。
いや、それでは困るのだが? 我としては早く逃げたいのだが?
「あんた、すげえな!! 是非うちの会社に来てくれないか!」
「い、いや、急いでいるのだが?」
「そう言わずに頼むよ!! な?」
「いや、だから……わ、分かった」
我は何をやってるんだ? 早く逃げないと勇者が来るではないか!?
しかし、断れない。
こういう時に自分の優柔不断さが憎い。
我は依頼主殿の会社とやらに向かうことになった。
感想、アドバイスなどがありましたら、よろしくお願いします。