17話 真なる魔王
やれやれ……。
目の前にいる気色の悪い生物は人間の勇者。しかも、歴代の勇者の力を持っていると本人は言っている。
馬鹿げた話だと一蹴してやりたいが、アスカとの戦いで見せていた技、アレは我が戦った勇者が得意としていた力だ。それに、あの勇者も同じような事を言っていた……。
僕は魔物を喰らえば同じ能力を使う事が出来る。
まさかと思うが、目の前にいる気色の悪い生物は……。いや、それはないな。
仮に人間の王、デセーオが我と戦った勇者だと言うのであればなぜまだ生きている? 彼は正義感の強い人間だったはずだ。我等魔族でもない限りこんなに長く長生きは出来ない……。
「くくく……。こうしてお前と対峙するのはもう何度目か分からないな。魔王バルバトス……。今日こそお前を滅ぼしてやるわ」
「何度目かだと? 我はお主のような気持ちの悪い生物に知り合いなどいないぞ? 魔族にも特異な体を持つ者もいるが、お主ほど特異な体の者はいない」
「くくく……。この無駄のない体の素晴らしさが分からぬか? それに、お前も気付いているのだろう? ワシの正体を」
「正体か……。しかし解せない事もある。なぜお主が生きておる? 我が封印されたから数百年は経っているはずだ。人間は魔族ではない。百年も生きれないはずだ。それがなぜ、生きている?」
「くくく……ははは……はぁあーはっはははは!! お前は知らないのか!? 人であれ魔族で神が定めた境界を突破すれば死なない肉体を手に入れられる事に!!」
死なない肉体だと? 我等魔族も寿命が長いとはいえいずれ死ぬ。不老不死を研究していた者もいたと聞いた事もあるが、事実上成功した者はいない。そもそも、寿命があるから人というのは素晴らしいと思うのだが……。
「さて、お喋りはここまでだ。あの頃の続きを始めよう。あの時のワシは魔族や人間を喰う事は出来なかった。ワシの能力はこの二つの種族を喰う事で覚醒すると知ったのはお前が偽りの封印に逃げた後だった……。だからこそ、お前が復活した時の為に今まで歴代の勇者を喰ってきたのだ!!」
デセーオは七本の神剣を召喚する。そして背中から腕が生え、それぞれの剣を掴む。
「ふふふ……。アスカを喰らってお前を殺せば、ワシがこの世界の真の支配者になれる。さぁ、死ねぇええ!!」
これは駄目だな……。同族まで喰らってしまった以上はもう人ではない。もう心を持つ魔物でしかない。
この世には理というモノが存在するはずだ。デセーオはその理から外れた……。禁忌というのは犯してはいけないから禁忌というのだ……。
「よかろう……。お主にも一度も見せた事の無い我の本気を見せてやろう……」
デセーオは七本の剣で我に襲い掛かる。いや、それだけじゃないな。足下には先ほどの棘。それにわれの周りには鋭いつららに数々の火球が浮いている。空は曇天。
「くはははは!! この同時攻撃にどこまで対応できるか、楽しみだなぁあああ!!」
同時攻撃か。
まだ、何もわかっていないようだな。
我は手に魔力を込め薙ぎ払う。すると、我の周りに浮いていた火球とつららが全て消え去った。それだけじゃない。我はデセーオの持つ神剣の一本を砕く。
「なぁ!?」
デセーオの大きな目がさらに開かれる。だが、これで終わりじゃない。我はデセーオの腕を手刀で斬り落とし、ついでに神剣を砕いていく。
「アスカの神剣の時も思ったのだが、こ奴等の真剣にも憎しみが込められている。おそらくだが、お前は勇者を作る為に適当な村々を滅ぼしていたんだな……。そして、魔族の四天王を作り上げ勇者に倒させ、成長した勇者を喰らった……と言ったところか?」
「ば、馬鹿な……。ワシの神剣が……!?」
我はデセーオの最後の神剣を砕く。しかし、ここで気づく。
「お前自身の神剣はどうした? 馬鹿の一つ覚えの様に我に戦いを挑んできていたあの剣だ……」
「だ、黙れ……」
デセーオの顔に焦りが見える。まさか……。
「そうか……。お主の種族が魔物に変わってしまい、神剣から見捨てられたのだな。神剣は神に愛されていないと使えないと聞くからな。まぁ、神とやらがいるのかどうかは知らんが、魔物になってしまったのであれば、もうお主を殺す事に躊躇いなどない」
我がデセーオにとどめを刺そうとした時、デセーオの額から剣が突き出してきた。
「がぁ……」
「……アスカ」
デセーオを貫いたのは我の神剣を持つアスカだった。アスカの目には涙が浮かんでいる。
「こいつは私の復讐の相手よ……。人間を殺した事の無い貴方が殺す相手じゃない」
我は震える手で神剣を持つアスカの頭に手を置く。そして……。
「そうだな。ならば、我が見守っていてやろう」
「……うるさい」
そう言ってアスカは、デセーオの前に立つ。
「き、貴様!? ワシは人間の王で勇者だぞ!! お前が倒すべきは魔王バルバトスのはずだ!! 殺せ!! 殺せ!! 貴様は勇者だろうが!!」
デセーオが何かを叫んでいるがアスカは、目を閉じ微笑む。そして……。
「私は勇者になんかなりたくなかった。でも、勇者の使命とやらがあるのだったら、目の前にある脅威を消し去る事……。それが最優先でしょう?」
そう言って、アスカは神剣を振り上げる。デセーオは逃げようとしているが、額を一度貫かれている事で上手く動けないようだ。
「わ、ワシは勇者だ!! そして人間のおう……!?」
「あんたはただの魔物よ!!」
アスカが振り下ろした神剣はデセーオを両断し、デセーオは崩れ落ち、そしても突然炎が発し、燃え尽きてしまった。