13話 元四天王ミルド
再開です。
我が魔王バルバトスという事を知り、人間の王は驚いて……、いや、表面上は驚いているようなふりをしているが、思っているよりも心根は平静を保っているようだ。どうやら、かなりの曲者の様だな。
アスカも人間の王のリアクションが少し意外だったのか、少しだけ驚いた顔になっていた。
「デセーオ王、彼が魔王バルバトスだと信じていないのですか?」
アスカが人間の王の態度にそう聞いたのだが、王は笑った。
「何を言っている、勇者アスカ。彼が魔王バルバトスだという事に充分驚いている。それに、お主が魔王だと話すのであればそうなのだろう。アスカ、お主は我が国が誇る勇者だ。そんなお主が言う事を疑う必要ない。信じているぞ……」
くくく……。
どうやらこの人間の王は、本音と建前の使い方をよくわかっているようだ。
我にはアスカを信じている風には全く見えないぞ?
我はアスカに小声で話しかける。
「アスカ……。あの王は……」
「分かっている。今は何も喋らないで……」
アスカがゴリラ並みの凶暴な者とはいえ、鈍いわけではないようだ。アスカにも何か考えがあるのだろう。我としても、今は事を荒立てるつもりはないし、今は大人しく事の成り行きに任せよう……。
アスカは人間の王に四天王討伐の報告をしていた。我も会った事の無い四天王の話を聞くのは初めてで、実に胸糞の悪い連中だったようで、話を聞いているだけで苛立ってしまいそうだった。
そして、アスカの報告が終わった直後、人間の王が我に視線を移してきた。
「魔王バルバトス殿……、貴殿に聞きたい事がある」
「なんだ?」
魔王相手に……『殿』と敬称をつけるか……。本当に何を考えておる?
「バルバトス殿は、アスカの報告にあった魔王四天王の事をどう思っておるのだ? アスカが四天王を全員倒したと聞いたが、自身の部下が全員殺されてなお、なぜアスカの隣に立っておる?」
ふむ……。人間の王が疑問に持つのも当然だろう……。
アスカが倒したと言う四天王がアスカの人生を狂わせたのは知っておる。しかし、我はアスカが倒した四天王がどんな人物だったのか、いや、顔すら知らない。
知っているのは、我が信じていた四天王を追放し、そして、我の素敵な城を勝手に汚らしく不気味な城に改造しくさった。という事くらいだ。
……しかし疑問に思う事もある。
オリゾンと再会して思ったのだが、彼の力が衰えていると思えなかったし、彼が本気を出せば勇者アスカと互角に戦えそうだった。
力を奪われたのか? そう思ってみたが、オリゾンは……いや、我が信じた四天王はそう簡単に力を奪われるような愚か者ではない……。この疑問を持った時、アスカにも確認を取ってみたのだが「あんたよりもオリゾンの方が強そうね。あんたがどれだけ力を隠しているかは知らないけど、オリゾンは間違いなく、私が殺した四天王よりも遥かに強いと思うわよ」と言っていた。それを聞いて、さらに腑に落ちん……。
いや、そんな事は人間の王にとっては関係ない事だな。今は素直に話をしておくとしよう。
「信じてもらえるかは分からんが、我が復活したのはつい最近なんだ。アスカの故郷を襲ったと言う四天王の存在すら知らなかったのだ……。そんな連中が死のうとどうとも思わんよ。それに、アスカと共にここに居るのは、人間の王、お主と和平交渉をしたかったのだ」
「和平交渉だと?」
……?
今、王から僅かに殺気と戸惑いを感じたような気がしたのだが……。いや、気のせいか?
アスカに視線を移すと、人間の王をジッと見ていた。つまりは、今の殺気だけは気のせいではなかったみたいだな……。
我が王の出方を伺っていると、人間の王は突然笑顔になる。
「済まぬが、和平交渉と言われても、こちらにも準備が必要となる。しばらくはこの国に留まってくれないか?」
我はアスカに視線を移す。アスカは、無言で頷く。
「わかった。宿を用意してくれるのか?」
「あぁ、お主達には、とある貴族の家で過ごしてもらう。準備には三日ほどかかるが、もてなしは充分にさせるつもりだ……。そちらの天狗族と魔族もそちらで休むがよい」
カラスはともかく、人間に完璧に変化したオリゾンにも気付くのか……。
どちらにしても、今は従っておくとしよう……。
我等とアスカは紹介された貴族の家へと向かう。
「アスカ……。人間の王というのは、いつもあぁなのか?」
「あぁってどういう意味よ」
「そのままの意味だ」
アスカなら気付いているだろう。だが、アスカは何も喋らない。やはり、人間の王を信じておるのだな。まぁ、当然だろう……。
しかし、アスカは小さな声で「どこで誰に聞かれているか分からないんだから、その貴族の家に着くまではそう言う話をしないで……」と睨まれた。
なるほど……。
確かにここは人間の国。我は魔王……、確かに歓迎されたいないのかもしれないな……。
……つまりは、今向かっている貴族というのも……。
「嬢ちゃん。その貴族が誰なのかは知っとるんか?」
「いえ、知らないわ。ただ、ここ数年で急激に力をつけた貴族がいるとは聞いたわ……。おそらくその人でしょうね……」
「さよか……」
カラスも何か思う事があるようだな……。
それにしても、オリゾンがさっきから静かだな……。そして、我を睨んでおる。
……とまぁ、冗談はさておき、王が教えてくれた貴族の家からは魔族の気配を感じる。これは勇者であっても気付かないだろう。魔族独特の気配だ。オリゾンもそれに気付き、我を見ていたのだろう。
「オリゾン」
「分かっているべ。それに、この気配アイツだべ」
「あぁ……」
恐らく、貴族というのはアイツだ……。
アイツがなぜ人間の国で貴族をやっているかは分からんが、会ってみて話を聞いてみる必要がある。
貴族の家は周りの家に比べて少し大きな物だった。近年、急激に力を伸ばしたと言っておったからな……。これでは、周りの貴族からも睨まれるだろう……。
いや、もしかしたら都合がいいのかもしれないな……。
アスカがノックをしようとした時、扉が少しだけ開いた。
「どちら様?」
出てきたのは人間の女性……いや、やはり彼女だったか……。
「あ、あの……。王から……「アスカ。事情を話す必要はない」……え?」
アスカは我の言葉にキョトンとした顔をしておった。そして、我は前に出る。
「久しぶりだな……。ミルド」
「お久しぶりですわ。バルバトス様」
そう……。この女は我が信頼した四天王……ミルドだった。