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12話 人間の王の城


「いい? 私が許可するまで口を開くんじゃないわよ」


 この国に入った瞬間、アスカにそう言われた。

 我は今、アスカと共に人間の王がいる《ディサイヤ》という国に来ている。

 この国は人間至上主義らしく天狗族であるカラスを見てヒソヒソと話をしている。


「なんや、この国の連中は感じが悪いのぉ」

「ごめんね。この国はこの世界に人間だけがいればいいと思っている傲慢な考えを持った国なの」

「ちょ、ちょっと待つが良い」


 パンっ!!


 え?

 な、なんか叩かれたよ?


「私が許可するまで喋るなって言わなかったっけ?」


 我は素直に頷く。

 カラスは普通に喋ってたのに、なぜ我は殴られなければならぬのか……。


「あんたの言いたい事は分かるわよ。人間至上主義の国の王が、魔族との和解など望むのか心配なのでしょう?」


 我は喋るなと言われたので、無言で頷く。


「それなら心配ないと思うわ。この国の陛下は人間至上主義ではないもの」

「そうなのか!?」


 我はアスカに睨まれて、口を押さえる。


「勇者ちゃん。一ついいだべか?」

「なに?」


 何故、オリゾンは普通に喋っていいのに、我は駄目なのだろう?

 魔王差別ではないのか?


 ちなみにオリゾンも人化の魔法を使って、今の姿は人間だ。


「比較的人間と友好関係にある天狗族であるカラスすら、あんな目で見ているというのに、その国の王が人間至上主義ではないのはおかしくないべか?」

「うーん。なんて言ったらいいんだろう? 陛下は自分の部下に亜人を起用する事が良くあるの。今だって、城には数多くの亜人が出入りしているはずよ」

「それなら、どうして町の人間は、亜人蔑視の目をしているんだべか?」

「それは、この国の歴史に関係があるのよ」


 アスカの話では、この国は何百年も前に当時の勇者が建国したらしく、その勇者が人間至上主義だったために、国民もその考えが普通になってしまったそうだ。

 

 ん?

 何百年前?


「それって、我が封印した時の勇者か?」

「はぁ?」

「に、睨むでない。そもそも我だけ喋ってはいけないとは酷いではないか。その理由を教えてもらいたいものだ」


 アスカは、溜息を吐いて、我を睨む。


「私の気分よ」

「気分か!?」


 予想以上に斜め上の理由だった。

 いや、いくらなんでも酷すぎではないか?


「はぁ……分かったわよ、喋っていいわよ。で? 何?」

「いや、我が前に封印されたときの勇者が建国したとなると、おかしいと思ってな」

「どうおかしいのよ」

「あぁ、我は先代勇者が襲ってくる前は、人間との和解に向けて大詰めの交渉をしておった。その時、人間の王は人間至上主義ではなかったはずだ。その国の王子が勇者になったと聞いたが、父親が魔族との共存を視野に入れている王だというのに、その息子が人間至上主義の国を作るというのはおかしいと思ってな」


 少なくとも、魔族が排除されるのは百歩譲って分かるとして、あの王が亜人までも排除するだろうか。

 例え、息子が勇者であったとしても亜人との取引は少なからず国に収益を出していたはずだ。

 いや、代が変わればそれもあり得るのか?


「うーん。私もその時代の人間じゃないから、詳しくは分からないわね。でも、あんたが封印された時期とこの国が人間至上主義になったのは、ほぼ同時期よ」


 そう考えると、王が考えを変えたと思っていいのかもしれんな。


「そんな事よりも、今からお城に入るから、余計な事は言わないでよね」

「う、うむ。分かった」


 我は、アスカの後を静かについて行き、城へと入る。

 城の中は、我のゴテゴテした趣味の悪い装飾ではなく、豪奢で趣味の良い明るい城だった。


「わ、我の城とはずいぶん違うな……」

「そうね。あんたの城は、いい意味も悪い意味も含めて魔王の城だったからね」

「いや、あれは我の趣味じゃないからね」

「そうなの?」

「我はもっと可愛い感じが好きなのだよ」


 我が自信満々にそう言うと、アスカは笑う。


「魔王が可愛い感じとか……おかしい」


 むぅ、そこまで笑う事ないではないか。

 しかし、こ奴も笑うと普通の少女だな。いつもこういう顔をしていればよいのに。


「なに?」

「何でもない」


 我達は、王の待つ謁見室へと向かった。

 すると、前から若い女性を引き連れた金髪の青年がアスカに手を振って駆け寄ってくる。


「帰ってきていたんだね、アスカ」

「えぇ、少し野暮用で一時戻りました」


 ん?

 アスカの奴、随分と嫌そうに返事をしているな。


「どうしたんだい? いつものように抱きついてきて構わないんだよ」

「そんな事をした覚えはありませんので、失礼します」


 アスカはそう言って、青年を避けて歩き出そうとするが、青年はアスカの腕を掴む。

 アスカはいや層にエネール王子に掴まれた自分の腕を睨む。


「エネール王子、離してくれませんか? 私はデセーオ王に用があって戻ってきたのですが」

「まぁ、待ちたまえ。未来の妻と語り合ってからでも父上はお許ししてくださる」


 未来の妻!?

 という事はアスカは、王子様の婚約者なのか!?


「何度も言っていますが、私には魔王を倒すという使命があります。それに平民の私が貴方の妻になることはありません。手を離してください」


 アスカは本当に嫌そうにしているな。

 少し手助けをしておくか?


「エネール王子と言ったな。失礼を承知して申すが、アスカは我が王に会う事を最優先に動いてくれておる。手を離してくれぬか?」

「!!」

「な、なんだ!? 私を誰だと思っている!?」


 む?

 アスカが何か言いたげだが、ここは我に任せておくがいい。


「エネール王子であろう? 先程アスカがそう呼んでいたな」

「私を王子と知って、私に命令をするのか!!?」


 命令?

 はて、命令などした覚えが無いのだが?


「何を言っておるのだ? 我は命令などしていないぞ? アスカがゴリラのような女であることは事実だが、女の子の腕を力いっぱい掴む事は無いだろう? もし、話があるのなら、用事が済んでからでよかろうと言っているだけなのだが?」

「うるさい!! 衛兵!! こいつを捕らえろ!!」


 エネール王子が衛兵に命令すると、衛兵達が一斉に動き出す。

 ふむ、これは不味い事になったな。


「はぁ……こうなるから黙ってて言ったのに……」

 

 アスカは溜息を吐いて、我に近付く。


「彼があの記事の相手です。私は彼の妻になるので、エネール王子の妻にはなれません」


 アスカが我に寄り添う。

 えぇ!? これどういう状況!!?

 我が困惑していると「いいから、今は話を合わせなさい!!」とアスカが呟く。


 我はアスカの肩を抱き「う、うむ。そう言う事だ。エネール王子、申し訳ないがアスカは我の妻になるのだ」という。

 うん。アスカをゴリラと言ったけど、やっぱり女の子は柔らかいね。


「な、な、な」


 エネール王子は、顔を青褪めさせている。

 王子の後ろでは、取り巻きの婦女子が「平民のアスカに王妃の資格はないのよ」「まぁ、お下品な」等、色々と言っている。


「き、キサマ!! あの記事通りというのであれば、アスカを抱いたのか!!」


 抱いた?

 まぁ、今抱いているよね。


「見て分からんか? 抱いておるよ」

「な!!?」


 エネール王子が止まってしまった。

 今のうちにこの場を去ろうとアスカに言うたのだが、アスカは顔を真っ赤にしておる。

 いかん、いかん。いつまでも抱いていては、何をされるかわかるまい。


 我はアスカと離れ、歩き出す。


「ちょっと……そっちは逆……」


 おっと、我とした事が、間違えてしまったか。

 む?

 アスカがカラスやオリゾンと話をしておる。我をドジと言っておるのか?

 いや、仕方ないであろう。この城に来るのは初めてなのだから。


 

 暫くはアスカに話しかけても顔を真っ赤にさせて無視された。オリゾンに「アスカは不機嫌なのか?」と聞いてみると「バルバトス様は鈍いだべな」と鼻で笑われた。

 どう言う事だ?


 大きな豪奢な扉の前でアスカが立ち止まる。


「ここにデセーオ王がいるわ。一応人間の王だから、失礼な事をしないようにね」

「分かっておる」


 アスカは、溜息を吐いた後、兵士に「アスカが会いに来た」と言う、すると兵士が扉を開けた。

 

 謁見の間には、エネール王子を老けさせたような顔つきの壮観な王が座っていた。


「アスカ、息子が失礼をした。で、その男がそうなのか?」

「はい、彼が魔王バルバトス(・・・・・・・)です」


 アスカが我の事を紹介した瞬間、謁見の間の空気が重くなった気がした。

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