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11話 アスカとの和解?


「覚悟しなさい、魔王バルバトス」

「ま、待て、我の話を聞いてくれ!!」

「問答無用よ!! 貴方の話なんか聞く必要もないわ!!」


 アスカは冷たい目で我を睨み、迫ってくる。

 何故、この娘は我の話を聞かんのだ!?


 我は逃げに道を探すように、周囲を確認する。

 一か所だけ、オリゾンやカラスに邪魔されずに逃げられそうな場所がある。


 ここしかない!!


 しかし、その場所に動こうとすると、オリゾンがその道を塞ぐ。


 お、オリゾンぅううううう!!


 こいつ、我の臣下ではないのか?

 我、こいつに何か怨みでも買ったか?

 いや、そんな覚えはない!!

 しかし、これで本格的に逃げられなくなった。

 どうすれば……。


 そ、そうだ!!

 もう一度だけ、アスカちゃんに話を!?


「だから待て!! 一度だけでも我の話を聞くが良い!!」

「何を偉そうに聞くが良いよ!! 私の答えは、いつも通りよ!! あんたを殺す事で、私の復讐と馬鹿げた使命は終わるのよ!!」


 やはり聞く耳を持たぬか!!

 

 しかし、今気になる事を言っていたな。

 馬鹿げた使命?

 何を言っておるのだ?


 我は必死に、アスカの攻撃を避けながら考える。

 助かるにはどうしたらいいか?

 馬鹿げた使命とは何か……。

 しかし、アスカの目を見ていると、考える事も無駄に感じてしまう。


「もう何を言っても無駄という事か!?」

「最初っから、そう言っているでしょう!!」


 やはり聞いてくれぬか……。

 しかし、気になる……!!


 し、しまった!!?


 我の一瞬の隙をつき、アスカは我の懐まで入ってくる。そして顎を思いっきり殴り上げる。


「ぐほぉ!!」


 い、痛い!!

 この少女か細い腕から繰り出されたとは思えないほどの衝撃が我を襲う。

 魔力を込めているのか!? 人を殴る為にそこまでするのか!?

 ちょっと待て、これってかなり不味くないか!?

 

 は、反撃をしなきゃ殺されてしまう。

 しかし、女の子を殴るのは気が引けるし……。で、でも……。

 と思っていたら、次の攻撃く……。


「ぎゃぼぉ!!」


 お、お腹は駄目。吐いちゃう……。

 わ、我はお腹が弱いの……。

 

 一度避けるリズムを崩されると、上手く躱せなくなる。そこからはアスカの猛攻撃を喰い続ける破目になってしまった。


 それから五分以上、我は殴られ続けた。

 あれから一度も避けられん。

 た、頼むから、誰か助けて……。


 我は殴られながら、ふと気付いた事があった。

 殴られた瞬間は痛いけれど、その後に痛みが残っていないのだ。

 そもそも、五分以上も人間の力と思えない衝撃で殴られ続けているのに、どうして我は気絶をしないのだ?

 普通であれば、よくて気絶するか、最悪死んでいてもおかしくないくらいだ。

 これは、おかしい……。

 何かあるのか?


 我は殴られた瞬間、殴られた箇所に意識を集中する。

 すると、殴られた瞬間、傷が回復している事に気付く。

 も、もしかして我の再生能力か?

 いや、我にそんな機能はない。


 ……という事は……。

 真実を知った時、我の全身の血の気が引いた気がした。

 

 この女……我をボコりながら、我の傷を癒して、気絶させないように、いつまでも痛めつけられるようにしておる!! 

 こ、こんなもの、拷問と変わらないではないか!!

 いや、この女は拷問をしているつもりなのだろう。

 痛みが続かないだけで、殴られた瞬間が痛いのには変わりないのだ!!


「あ、アスカちゃん!? これは戦いですらないよ!!」

「うるさい!!」


 アスカは、我をひたすら殴り続ける。

 や、止めてよ!! 精神が壊れちゃう!!


 我は、殴られながら縋るような目でオリゾンとカラスに助けを求めるが、二人は我の視線に気付かず、楽しそうに談笑している。


 カラスはともかくとして、オリゾン君!? 今は違うとしても()主君がここまで痛めつけられているのを見て談笑って、何を考えているの!?


 ここで、カラスが我の視線に気づいてくれた。

 流石は、我の友。そう思ったのだが、カラスの口からは信じられない言葉が発せられる。


「おいおい、バルバトスの旦那、もうちょいしっかりせぇよ!!」


 お、お前は何を言っておるんだ!?

 どう考えてもしっかりするとかそんな問題じゃないだろうが!!

 一方的にやられとんねん!! あ、カラスの口調がうつった……。

 

 カラスの声でオリゾンもこちらを向く。

 しかし、その目はなぜか哀れなものを見る目だった。


「勇者ちゃんの事を考えれば、アレは仕方ないべ。しかし、バルバトス様、情けねぇべ」


 情けないのは認めるけど、もう少し我を大事にして!!

 それに仕方ないって、我、何もしていないよ。


 ちょっとアスカちゃんも、そろそろ殴り飽きてきたんじゃない、って、頬を染めて、ウットリしながら殴り続けているよ!!

 この子、危ないよ!! ドSな方向に目覚めちゃっているよ!!


 殴られ続けて十分を過ぎた頃、アスカちゃんが手を止めた。

 や、やっと、気が済んでくれた? と思ったら、アスカちゃんはどこかから剣を取り出す。

 あ、あの剣は!?


「さて、そろそろとどめを刺させて貰うわよ」


 あぁ、我の命もここまでか……。

 アスカちゃんの目は本気みたいだし、我が消滅させたはずの神剣もなぜか復活しているし……。


 あぁ、魔王になんか生まれなければ、もう少し楽しく生きれたかなぁ……。


 我は目を閉じ、せめて痛くないように死にたいなぁと考えながら、その時を待っていた。

 しかし、いつまでたってもその時は来ない。それどころか聞こえてきたのは、悲痛なアスカの声だった。


「どうして、今更邪魔をするのよ!?」


 邪魔をする?

 我はそっと目を開けてみる。

 すると、目の前でオリゾンがアスカの剣を掴んで止めていた。

 

 え? アスカの斬撃を止めたの? あの凶悪な斬撃を?

 ま、マジ? オリゾンってそんなに強かったの?


「もう気が晴れたべか? バルバトス様も反省している様だから、気が晴れんでも、これくらいで勘弁してやっでくんねぇか?」

「うるさい!! そこをどいてよ!! 私はこいつを殺して自分も死ぬのよ!! 邪魔しないで!!」


 む?

 我を殺して自分も死ぬ?


「どう言う事だべ? オデに話してみるべ。話せば少しは気が紛れるかもしれねぇべ」

「うるさいうるさい!! 家族を……弟を失った私にもう生きている意味なんてないのよ!! せめて、こいつを殺して、少しでもスッキリしてから死にたいのよ!!」


 我はアスカの顔をジッと見てみた。

 アスカは目から大粒の涙を流し、真っ赤な顔をしてオリゾンに「どいてよ!!」と泣き叫んでいる。

 これは、我が思っている以上に深いかもしれん。


「あ、アスカ……わ、我は……」


 何も言葉が浮かばぬ。

 死んだ今の四天王が勝手にやった事とはいえ、アスカが我を恨む気持ちは分かる。

 もし、我が先代の勇者の時に運命とやらに抗って魔族と人間の共存をきちんと進めておったら、この子はこんな目に遭わなかっただろうか……。


「勇者ちゃん。気持ちを押さえろとは言わんべ、でも、バルバトス様の話くらいは聞いてやってもいいんじゃないべか?」

「うぅ……」


 アスカはその場で泣き崩れる。


「まず誤解があるようだから言っておくべな。バルバトス様は、魔族の中で一番強いかもしれんが、性格はヘタレそのもので、人間を殺した事が無いんだべよ。バルバトス様の本来の力ならば、勇者ちゃんといえどただでは済まないはずだべ」


 ヘタレとは何事か!!

 しかし、我は、我は……。


「う……そ……よ……」

「本当だべ。でも他の魔族は別だべよ。バルバトス様が特別というだけだ。オデも、当時の四天王も争い事で人間と対立したり、場合によっては、人間を殺したりしているべ。でも、人間も魔族を奴隷にしたり、罪をなすりつけたりして無実の魔族を処刑して殺したりしているべ。こればっかりは仕方ないで済まないかもしれねぇが、お互い様だから仕方ないべ」


 お互い様と言ってしまえば、それまでなのだが、当事者としてはそう簡単な事ではないかもしれない。しかし、それを解決しようとしたら、どちらかが泣き寝入りするか、それともお互いを滅ぼし合うしかないだろう。


 だいたい、魔族同士でも人間同士でも殺し合いが起こっているのだ。異種族間で揉め事が起こらないわけがないのだ。


「これは重要な事だべ、納得いかないと思うが聞いてくれ。バルバトス様が封印された理由はな、先代の勇者がバルバトス様の話を聞かずに何度も戦いを挑んできたからこそ、自分が封印される事で勇者と魔王の争いに終止符を打とうとしたんだべ。それに、ヘタレのバルバトス様の教えを受けている魔族は、人里を攻め込むなんて馬鹿な真似はしねぇべ」


 さっきからヘタレと言われる度に、胸が痛いんだけど……。


「でも、現に私の村はバルバトスの名の下に滅ぼされた……」

「まず、そこがおかしいんだべ」

「え?」


 我もオリゾンの話を食い入るように聞いていると、横からカラスが「なんで、あんさんまでそんな真剣に聞いてるねん」とツッコまれる。


 だって、我も知りたいじゃないか……。

 我の知らない事実もあるかもしれない。


「オデ達を追い出した四天王、勇者ちゃんが討ったという四天王はバルバトス様の性格はおろか、顔や名前すら知らんはずだべ」

「え?」「は?」「なんやて?」


 え?

 我の名前すら知らないの?

 それっておかしくない?

 我が復活した時、報告に来た魔族がいたよ?


「で、でも、村を襲って来た四天王は「バルバトス様の名の下」と叫んでいたわよ!!」

「それもおかしいべ。オデの知っている四天王達は、自身が魔王になろうと画策していた奴ばっかりだべ。バルバトス様の名も知らずに、「魔王が復活したら殺して自分が魔王になる」といってた奴ばっかりだったべ。だから、オデ達は、もしもの時の為に素直に四天王から退き、バルバトス様が復活した時に、バルバトス様だけを救出する予定だったべな。その為に、誰に魔王バルバトス様の名前や顔を教えなかったべ。それどころか、肖像画なんかも引き払ったべ」


 そ、そんな話、初めて聞いたよ!?

 じゃ、じゃあ、アスカが来なくても我はピンチだったのか!?

 いや、むしろ、アスカが来たから生きていたのか!!?


 なんか複雑だ!!


「少しは、オデ達の事を信用してくれたべか?」

「……今すぐは信用できない。で? あんたはこれからどうするつもりなの?」


 は、初めてアスカちゃんが普通に話しかけてくれた。

 我……感激。


 おっと、いかんいかん。

 ちゃんと答えねばな……。


「我は、人間の王と会ってみようと思う。今からでも、魔族と人間の和平交渉を始めるべきだと思うのだ」


 それこそが我の望みであり、我は平和に暮らしたいのだ。

 もし、この話が成功すれば、今後アスカのような不幸な者も現れないかもしれぬ。

 アスカは何かを決心したのか立ち上がり「分かったわ。私が王に掛け合ってあげる」と微笑んだ。


 いつもこの顔ならば、我としても嬉しいのだがな……。


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