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10話 もうこれ以上、喋らないで……。


 オリゾンが我の名を叫んでしまった事で、船内はパニックになっている。

 船長は、我を見て怯えた顔になっておるし、乗客の殆どが顔が真っ青になっておる。


 おかしいな。我は、何もしていないのに……。


 空気を読まずに、オリゾンは我に話しかけてくる。


「バルバトス様。ご無事だったんだべなー。あの若造共がオデ達を追い出してから、バルバトス様の安否だけが心配だったんだべよ」


 空気は読めていないが心配をしてくれていたのは素直に嬉しいではないか。

 しかし、今は正体を隠して船に乗っていたのだ。

 とはいえ、オリゾンの好意を無下にするわけにはいかぬ……。


「オリゾンも無事だったんだな。それよりも、人間達に誤解を解いてくれないか? 今は、少し理由があって人間として行動しておるのだ。今のままでは、我が魔王とバレてしまう」


 オリゾンは「何故バレていけないのだ?」と聞いてきたが、そこは華麗にスルーする。

 オリゾンも少しは空気を読んでくれたようで、「分かったべ、オデに任せるべ」と胸を叩いた。


 オリゾンは自信満々に船長達の所へと向かう。

 これで少しは誤解が解ければいいのだが……。

 そんな事を考えていると、カラスが呆れた顔で我に近付いてきた。


「おい、いいんか?」

「何がだ? ここは、我やお主がいうよりは確実だろう?」

「いや、確かにそうかもしれんがな、なんか嫌な予感がするんや」


 嫌な予感がするってどういう事だ?


 我はカラスと一緒にオリゾンの行動を見る。

 オリゾンは船長に向かい、「おい、話を聞いてくれねえか?」と顔を近づける。

 

 いや、顔近過ぎるだろう。

 鼻がくっついておる。


「ひ、ひぃいいいいいい」

「話を聞くだ!!」

「は、はい!!」


 船長の股間が濡れておる。可愛そうに、漏らしたか……。


「あんさん、止めんでいいんか?」

「も、もう少し、様子を見るとしよう」

「あ、あんさんがええなら、それでええけど……」


 我とて不安だが、これしか方法は無いのだ。

 オリゾンは、船の客達を見回す。

 そして、腕を組み「あの人は魔王だけども魔王と違うべ!! バルバトス様がそう言っとるから、そういう事だべ!! 人間みたいな魔王だべ!!」と叫ぶ。


 な、何言ってんのぉおおおおおお!!

 ぜ、全然大丈夫じゃないじゃないか!!


 しかも、最後、人間みたいな魔王って言ってるじゃん!! 普通は逆だよね。魔王みたいな人間ならギリギリセーフだけど、人間みたいな魔王だったら、魔王だよね!!


「せやから言うたんや。あんさんはもう少し人を見る目を養った方がええ」


 我はオリゾンを止めに行く。


「オリゾン!! それ以上は喋らないでぇええええ!!」

「なんでだべ? バルバトス様は人間と仲ようしたい言いうてたべ。だから、魔王である事を黙っていると言ったべ。オデは魔王じゃないと言ってるべ」


 こ奴は自分が何を言っているか、理解しているのか?

 もう一度、自分のセリフを思い浮かべてみようか!?


「もう一度誤解を解いてくれるかな?」

「分かったべ、魔王バルバトス様」

「はいアウト―!!」


 我はオリゾンの口を押さえる。


「何するべ」

「だから、なんで何度も魔王と言うの!?」

「だって、バルバトス様は魔王だべ」


 だーかーらー!!

 我が悶絶しておると、オリゾンが船長の下へと近づく。


「船長さん。これは真面目な話だべ。これ以上、先には進まん方が良いべ。これ以上進むと沈没するべ。今日は一嵐くるべ」

「え?」

「だから、引き返すべ。もし、上がうるさいと言うならば、オデが脅したとでも言えばいいべ」


 オリゾンは、そう話しクラーケンに戻っていく。

 

「本当に忠告したべな。これ以上進んで死んでも知らんべな」


 そう捨て台詞を吐き、帰ろうとする。

 流石に魔王とバレた以上、我もこれ以上船には乗っておれんな。


「オリゾン、我も乗せて行ってくれ。近くの海岸まででいい」

「分かったべ。そっちの天狗はどうするべ?」

「あ? わいもいいんか?」

「いいべ、バルバトス様のお友達みたいだから、問題ないべ」


 いつからカラスが友達になったのかは知らないが、我とカラスとオリゾンはここで船と別れる事にした。



 その後、船長はオリゾンに言われた通り、船を引き返し、出航した港町に戻った。

 その港町で、バルバトスの事を報告しようとしたが、その前に、海運会社の上司に呼び出された。

 船長は、勝手に引き返した事を咎められると思ったのだが、咎めるどころか、褒められた。

 なんでも、船長たちが進んだ先で大嵐があり、何隻もの船が沈んだそうだ。

 奇跡的に数人の生き残りがいたのだが、その皆が「魔族に忠告されて無視した」と言っていた。


(という事はあの魔族は自分を助けてくれた?)


 船長は自分達も魔族に忠告されたと上司に話す。

 すると、上司が「実は、もう何十年も前からクラーケンに乗った漁師の魔族が海の危険を忠告し、それを守らなかった船は、大体沈没している」と話してくれた。


 上司は当時、それを信用していなかったのだが、今回の話を聞いて信用する事に決めたそうだ。

 そして船長も、オリゾンに感謝し、バルバトスの事を報告する事は無かったという。


 オリゾンの言った「バルバトス様は人間と仲良くしたい」とその言葉を少しだけ信じてみようと思ったそうだ。




「ここなら、安全だべ」

「あぁ、ありがとうな。オリゾン」


 クラーケンに揺られる事、三日。我達はようやく海岸に辿り着いた。

 本来のクラーケンなら、海の中を速く移動出来るのだが、今は我らを乗せているので、時間がかかってしまった。

 しかし、ここならば、アスカも追ってはこれん。

 何故なら、我等ですらどこにいるかを分かっていないのだからな。


「で? バルバトス様はこれからどうするだべか?」

「む、どうするとは?」

「魔王軍を再編するだべか?」


 魔王軍の再編か……。

 我の目標は人間達と仲良くする事だ。

 その為に魔王軍を再編しても、良い事が無いような気がする。


「いや、我は魔王を引退しようと思っておる」

「引退だべか?」

「あぁ、我が魔王を名乗る以上、きっと嫌な思いをする者も多く出るような気がするんだ。実際、あの四天王達が原因で勇者アスカに追われているからな。その、追ってくるアスカも、我の名の下に家族を殺されていた。勿論、我は関係ないぞ?」

「知ってるだべ。一度、勇者アスカとは会った事があるべ。めんこい娘だったべが、目つきは暗く濁っていたべ。まさか、その理由がバルバトス様だったとは驚きだべ」


 あれ?

 我のせいとか聞こえたんだけど?


「いや、今の我の話聞いてた? 我は何も指示していないんだよ?」

「だけど、バルバトス様の名の下にやられたんだべ。勇者アスカがかわいそうだべ。バルバトス様はいつから、そんな非道になったんだべか?」


 おかしいな。

 今の我の説明、何かおかしかったかな?

 それともオリゾンの耳が腐っているのかな?


「カラス。我は説明に失敗したのか?」

「わいに聞くなや。今の会話を聞いてると、頭が痛くなってくるわ」


 うん。我も話が通じなさ過ぎて、頭が痛いの……。


「バルバトス様。少しお仕置きが必要だべ」


 オリゾンは、水を操る。

 まさか、自分の配下と、話の行き違いで(相手が話を聞かないだけだが)戦う事になるとは……。


「仕方あるまい。勇者アスカに壊されかけている我の威厳を取り戻す為に、オリゾンには少し痛い目を見てもらう必要があるな!!」


 我は魔法で応戦しようとする。

 その時、上空から物凄い殺気を感じた。


 我が空を見上げると、アスカが降って来た。



 アスカが地上に着地すると、砂煙が舞い上がる。

 そして、砂煙が止むと、アスカが我を睨んでいた。


「見つけたわよ。魔王バルバトス」

「え? な、なんで?」


 アスカは剣を取り出し、我に突きつける。


「言ったでしょ、貴方と私は殺し合う運命なのよ」


 そんな運命はごめんだが、逃げたいのに逃げられそうにもない。

 オリゾンが我を逃がさないように監視をしておる。



 我……絶体絶命?

いつも読んでいただいてありがとうございます。

もし、感想やアドバイスなどがあれば、ぜひ書いて行ってください。お願いします。

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