1話 魔王と勇者
新作始めました。
逃げる魔王と追う勇者という、王道のストーリーです。
我は魔王バルバトス。
つい三日ほど前に復活したのだが、この状況は何だ?
我の明るく楽しい雰囲気だったお城は、禍々しく改築されておるし、毎日手入れしていた玉座も、邪悪な装飾をされておる。
我としては、こんな気持ち悪い城よりは、可愛い城の方が好みなのだが。
我の寝室にあった、秘蔵のぬいぐるみも無くなっておった。誰だ? 捨てたのは……。
実は、眠りにつく前から、姿と性格が合わんとは、よく言われていた。見た目は、厳ついおじさんだからな。
そして、我の姿を見た者は、言い知れぬ恐怖を覚えていたそうなのだが、我はこう見えても、究極の平和主義者だ。戦えば痛い。痛いのは嫌だからな。
眠る前の魔王四天王も平和主義だったので、こと問題なく魔王城の運営はできていたし、人間界への侵略など、もってのほかだった。
しかし、魔王というのは勇者と戦う運命がある。
我としては、こんな運命に意味がないと思っておったのだが、勇者はそう思っていなかったらしい。
我と戦った勇者は、さわやかな青年だった。そして、暑苦しかった。
彼を返り討ちにすることはたやすかったが、それでは彼が可哀想だと思った。
我を倒すことで、彼が英雄になり世界が平和になるというのなら、我としても願ってもないことだからな。
事前に四天王達と打ち合わせをして、我は封印された。いや、頃合いを見計らって、我自身が封印されるように眠りについたのだ。
我が眠っている間、配下の四天王達に人間との友好を深めてもらう予定だったのだ。
しかし、いざ目を覚ましてみると……、部屋は勝手に改装されているし、かつての四天王達はもういなかった。今の四天王に追い出されたそうだ。
今となっては、この城に我のかつての配下は一人もいなくなっていた。
あれから何年経ったかは知らんが、魔王城が禍々しく改築されるくらいは時間が経ったのだろう。
まぁ、我としてはそこはどうでも良い。
問題は今の四天王と配下達だ。
今の四天王は野心があるらしく、俺が起きる前から人間界を侵略してるそうだ。そして、それに同調する配下達。
更に聞きたくないことも聞いてしまった。今代の勇者もしっかりと現れているらしい。
四天王は勇者と血で血を洗う関係だそうだ。
何してくれてんのぉおおおおおお!?
この話を聞いた時、我はつい絶叫してしまった。
我としては、運命とやらがこちらを向くまではできれば平和に暮らし、適当に育った勇者にわざとと負けて、また寝るのが予定だったのに、これじゃあ、どちらかが死ぬまで殺し合いになるじゃないか!?
我が悶絶していると、魔族の一人が報告に来た。
「魔王バルバトス様。四天王のアストロ様が勇者に倒されました」
「あ、うん」
アストロって誰? いや、報告してくれるのは良いけど、我、アストロとやらのこと知らないんだけど……。だって、見たことないから……。
ハッキリ言った方が良いかな? 今の四天王ってどんな顔しているんだろうね。我が起きた時には、四天王のうち三人勇者に倒されていたからさぁ……。
「バルバトス様!! 勇者アスカが魔王城に進行してきました!!」
「あ、はい」
へぇ~、勇者ってアスカって言うんだね。名前からして女の子なのかな? はははー。
って……。
えぇええええええええええええええええええ!!!!!!!
勇者って、もう魔王城に来ちゃったの!?
我、まだ寝起きなんだけど!?
「バルバトス様!! 報告します!! 勇者の進行速度は恐ろしいほど速くこの魔王の間に来るのも時間の……」
「え? どうしたの?」
この報告してきた魔族、何も言わなくなったんだけど?
「ぐふっ……」
「え?」
魔族が血を吹き出しながら倒れたんだけど? 何があったの?
え? あの後ろに立っている、赤い髪の毛をポニーテールにした女の子……何?
顔立ちも幼く可愛らしいんだけど、で、でかい。胸部は発達しているようだね。いやいや、おじさんエッチじゃないよ?
いや、女の子、剣を思いっきり持っているんだけど……その剣、血が滴っているね。おじさん怖いよ。
うん。
そこで死んでる魔族を殺したのは彼女だね。可愛い顔しているのに怖いね。
「あ、我は用事があるから、ここで帰らせてもらうよ?」
あの子、目が逝っちゃってるんだよね。関わり持つと良くないことが起こりそうだね。
あれ? 彼女の目が我を見ているぞ? なんでかなー?
「魔王バルバトス!! やっと見つけたぞ!! 両親の仇!!」
えぇえええええええええええええええええええ!!
彼女の両親に、我が何かしたの!?
いや、していないよ!? え? どういうこと!?
「ちょ、ちょっと待って!? 我、三日くらい前に起きたばっかりだよ? 君の両親なんて会ったこともないよ!?」
「嘘つくな!! 私の故郷を襲った四天王のブエルが「魔王バルバトス様の命令で勇者を殺しに来た!!」と言っていたぞ!!」
はぁあああああああ!?
ちょ、ちょっと待って!? ブエルって誰!? 我、そんな人知らないよ!?
「覚悟!!」
ちょっ!?
襲って来たよ!!
とはいえ、我も腐っても魔王。簡単にやられはしないんだけどさぁ……。
数分後、我は勇者の前で片膝をついていた。
おかしいなぁ。
我の首に剣先があるんだけど?
ってかなんなの!? この子、無茶苦茶強いんだけど!?
簡単にやられはしないとは言ったけどさぁ、簡単にやられちゃったよ。
「魔王と言っても大したことはなかったわね。バルバトス、最期に言っておきたいことはある?」
最期って、我死ぬの? 嫌なんだけど……。
「さっきから言っているけど、我は君の故郷を襲う命令出してないからね、剣を収めてくれないかな?」
「はぁ……最後まで嘘を吐く魔王というのも情けないわね」
ちょ、ちょっと待って? なんで信じてくれないのかな?
あ、我の姿が恐ろしいからかな? でも心は綺麗だよ?
「もう思い残すことはないわね。死になさい」
あ、これ、あかんやつや……。
そう考えた時、我は行動に出ていた。
「すいませんでしたぁーーーーー!! もう悪いことはしませんので助けてください!!」
自分で言うのもあれだが、見事な土下座だったと思う。
いや、見事という言葉では足りないな。完璧だった。
あれほど美しい土下座は、きっと勇者も見たことがないだろう。
しかし、勇者は非情だった。
土下座をする我の頭を踏みつけてきたのだ。
「全く、魔王だというなら潔く負けを認めて死になさい」
潔く死ぬって、我は三日前に起きたばかりなんですけど!?
我が勇者を下から見上げると、そこには勇者の……。
「し、白……」
我がそう呟いた瞬間、勇者の踏みつけた足が離れる。
勇者の顔を見ると真っ赤になっていた。
初心よのぉ~。
まぁ、我も女性との経験はないのだが……。
い、いや、そんなことよりも、今がチャンスだ!!
我は必死に逃げようとしたのだが、勇者が魔法で足を取られる。
な、魔王を足止め出来る魔法って何?
我は勇者の方を恐る恐る見た。
勇者の顔は、真っ赤になって鬼の様な形相をしている。
ちょ、ちょっと待って!? 下着を見られたくなきゃスカートなんて履いて戦わなかったらいいんじゃないの!?
「この変態魔王がぁああああああ!!」
我は、この日何度目か分からない死の恐怖を感じ本気で逃げた。
そして、何とか逃げ切ることが出来た……。
もう、勇者とは会うこともないだろうから、何処かで素性を隠して静かに暮らそう……。
我はこの時は、勇者も諦めてくれた、と思っていた……。
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