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理系男子と文系女子  作者: あおねこ
イマジナリーワールド
16/18

-16-

「ああ、その前に確認をしておきたいことがあります」


 スーツ姿の男が壇上からひらりと飛び降りた後、佐藤は右手を上げてそう言った。


「何です?」

「そちらの黛先生ですが、どのように対応すれば良いですかね。一緒に来ます?」

「馬鹿なことを。彼女は再教育中です。邪魔はしません」

「そうですか。それは結構」


 佐藤はそう言うと小さく頷き、スーツ姿の男はネクタイを軽く緩めた。


「あ、あの!服部先生!」


 その時壇上から黛の声が聞こえた。その言葉に佐藤は小さな違和感を覚えたが、それが何か直ぐに思い付くことが出来なかった。

 服部と呼ばれたスーツ姿の男は小さく舌打ちをした後、肩越しに振り返ると黛を睨みつけるが、黛の視線は真っ直ぐ佐藤に向けられている。


()()<世界>では傷一つつけることが出来ませんでした!()()()気をつけて下さい!」

「君は黙って其処で見ていなさい。これ以上は何も喋るな」


 服部がそう言うと、何時の間にか黛の後ろに立っていた旧日本軍の物と思われる軍服姿の男が音も無くその細い首に腕を巻きつけた後、膝裏を軍靴で蹴り付けるとその場に跪かせる。軍服姿の男の年は20代にはまだ届かない頃だろうか。黒く日焼けした顔は精悍だが、何処かに幼さを残しているように見えた。

 黛は膝裏を蹴られた痛みと首を絞められる苦しさに顔を真っ赤にさせていたが、その視線は佐藤から外していない。その視線を受け、佐藤は小さく頷いたが、服部は黛の方を向いておりそれを見ることは無かった。


「……服部さんで良いですかね?余所見をしていても良いんですか?」

「……ああ、申し訳ないね。気を使わせてしまったかな。その隙に1度位は攻撃も出来たでしょうに」


 服部はそう言うとゆっくりと佐藤のほうへ向き直る。


「いえいえ。これでも本当に、散々苦労して此処まで来ましたので……。折角なので此処は正々堂々正面からいかせて頂こうかな、と」

「そうですか。それが最後のチャンスだったかもしれないのに勿体無い」


 服部はそう言うとスーツの内ポケットに手を差し入れるとA6サイズほどの薄汚れた本を取り出した。その表紙には小さく右書きで『ヨミカタ』と書かれていた。


「……見つけた。見つけた。ようやく見つけた。こんな所に、こんな近くに居たのか」


 服部が手にした本を見た佐藤は大きく目を見開き、(しわが)れた声でそう呟いた。その頬は細かく震えている。それを見た服部は良く見ればモデルのように整っているその顔の眉間に皺を寄せるようにして、訝しげに佐藤を眺めている。


「<ヨミカタ>。そんなところに居たんだな。これは大当たりだ。これは是非黛先生には何か奢らないと気が済まないな」

「何を言っているか良く分からないが、そうだね。私は<ヨミカタ>と呼ばれることもあるよ。この字を知っていてよく今まで命があった物だね」

「ああ、そうさ。よく命があった物だ。感謝をしても足りないよ」


 佐藤はそう言うと白衣の下に見える、ちぐはぐな自分の服装をちらりと一瞥した。服部はそれを特に如何とも思わず話を続ける。


「だがそれも今日までのようだ。君から<PTA>の情報をしっかりと頂いた後は綺麗さっぱり無かったことにしてあげよう」

「傲慢だな<ヨミカタ>。いや、魔術師協会が、か」

「獅子が獲物を狩ることを傲慢とは言わないよ、佐藤さん」


 服部がそう言うと同時に、一瞬にして体育館はだった空間は何処かの野原に変わっていた。その野原の所々には背の高い松の木がそびえ、空の色は茜色に染まっていた。

 ちらりと佐藤は黛が居た所に目を向けると、突然壇上が消えたためその上に登っていた黛はそのまま落下して地面に強く両膝を打ったのか少し涙目になっていたが、その首元に腕を回している古い軍服姿の男の表情に変化は見られなかった。


「私の<世界>は黛君の物とは一味違うよ。本当の魔術師の力を良く知るといい」

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