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理系男子と文系女子  作者: あおねこ
イマジナリーワールド
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 最近ではもう珍くなった木造の校舎の廊下を、くたびれた白衣を羽織った男が歩いている。白衣の下はセンスを疑いたくなる大きなロゴがプリントされた深緑色のトレーナーと、所々擦り切れている白いスラックスを着ている。白衣の胸元にはやや斜めに付けられたネームプレートに佐藤とゴシック体で書かれていた。

 顔を見ると、年は好意的に見ても三十台前半と言うところだろうか。特段整ってもいなければ不細工だと指を指されることもなく、どこかですれ違ったとしても印象にすら残らない。そんな顔つきだった。黒い髪は小ざっぱりと切りそろえられている。不潔そうなな感じは見られなかった。特徴を強いてあげるとすればあえて誰も選ばなさそうな、祭の際にくじ引きの外れ景品で貰えそうな太い黒縁の眼鏡をかけているところだろうか。


 その白衣の男、佐藤が歩く廊下の照明は所々切れ掛かっているのだろう。天井には等間隔に配置されている長い蛍光灯は滅点を繰り返し、お化け屋敷の様な雰囲気を醸しているが気にも留めていないのだろう。歩む速度は一定のリズムを刻み続けている。

木製の廊下は男が歩く度に所々でぎしぎしという耳障りな音を立てるが、佐藤は別段気にする様子もなくその先を進み、所々青い塗装が剥げた観音開きの金属製の扉の前で立ち止まった。扉の上には「体育館」と金属製のプレートが嵌っていた。


 佐藤はその扉の片側の取っ手に手をかけると扉はぎぎぎ、と耳障りな音を立てながらゆっくりと開いていく。恐らくは上下の滑車の油が切れているのだろう。扉が開いた後、佐藤は手の平についた錆びを白衣に擦り付けて落としていた。


 扉の先の体育館は天井の照明でオレンジ色に照らされていた。広さはおおよそ一般的な体育館と同じ程度だろう。そしてその広さからすると恐らくは高校の物だろう。なかなか綺麗に整頓されていて体育館内の床には埃などが積もっている様子は見られなかった。


 体育館の奥に目を向けると壇上があり、その上に配置されている演台には一人の男が両肘を演台に付き、その上に顎を乗せていた。

 年は20代前半だろうか。疲れたような表情をしているが控えめに見ても眉目の整った顔立ちをしている。ファッション雑誌の表紙を飾っていても不思議は無さそうだ。佐藤とは比べるまでもない。

 更に演台に隠れていない胸部から上を見ると、皺一つないシャツの上に明るい灰色のジャケットに袖を通している。仕立てはしっかりしており、その生地も高級な物を使用していることだろう。


 佐藤はその男を気にした風もなくゆっくりとした足取りで体育館の真ん中まで歩き、足を止めた。

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