ソロスタート?
「落ち着け!!」
狭い教室内で、一段大きな声が響く。
声の主は確か、橋川 龍斗。
クラスの中心的存在だ。
その橋川の声のお陰で、騒然としていた教室が、シンと静まった。
(何だ…?なぜか従わないといけないような…。あいつ、もしや能力者か?)
俺はそれに疑問を抱いた。
確証は無いが、なぜだかそうと言える自信。
能力者同士だから分かるものかもしれない。
「今は騒いでいる時じゃない!この状況で生き延びるには、冷静な判断と、皆の協力が必要だ!」
やはり、奴は能力者だ。
頭が冴えていき、思考がよく巡る。
だが、橋川が能力者という話は聞いた事がない。
恐らく、今まで隠して来ていたのだろう。
能力者が能力を隠すことは珍しい事ではない。
凄い能力を持っているだけで施設送りとかは、たまに聞く話だ。
さっきのを見る限り、橋川の能力は【王声】。
意識して声を発すると、それに周囲が応えてくれるリーダー向けの能力だ。
しかし、これを持っていると軍への推薦などがよく来るらしい。
それが嫌で橋川は隠していたのかもしれない。
(まぁ、隠してるのは同じだがな…)
「分かった者は席についてくれ!」
そう橋川が言うと、皆が矢継ぎ早に席に着いて行く。
それを見た橋川は教壇に立つ。
「皆も分かっている通り、今俺たちは深刻な状況に瀕している。ここがどこかも分からない、食料の目星もつかない、などなど、かなり危険だ」
橋川が言うと、皆は思い出したかのように緊迫した表情になった。
「じゃ、じゃあどうすんだよ」
クラスの1人が抑揚のない声で尋ねる。
橋川は少し頷くと前を向き、再び話始めた。
「まずは、ここから出よう。ここはどこかの森林のようだから、いつまでもいて夜になると危険だ」
皆がそれに頷く。
「そうと決まれば早速出発だ。はぐれる恐れがあるから、三人一ペアを組んでくれ」
言われるがままに、俺たちは三人一ペアを作る。
俺たちのクラスは30人なので、ちょうど良い人数だ。
俺は堅也と香織のペアを組んだ。
「よし、行こう!」
そして俺たちは、教室の外へ出た。
→→→→→→→→→→
「にしても、草が多くて邪魔だな」
「そうね、中々に歩きづらいわ」
「そい!そぉい!!」
「…あいつだけは別みたいだが」
「…そうね」
俺たちが教室を出てから早1時間経っている。
外は深い森らしく、時々ツタがぶら下がっていたりするため、どちらかといえばジャングルだ。
木は多いわ草は長いわで苦戦しているのである。
堅也だけは身体向上能力で木をばったばったなぎ倒しているが。
どうやら、一応帰り道の目印として、木を倒しているらしい。
決してあいつの趣味ではない。
「次は…あっちです。」
先頭にいる、由佳世 葵が斜め右前に指を指す。
由佳世も能力者で、能力は【サーチ】。
半径数百メートル以内の物体や地形の把握が出来る能力。
使い手によって距離は変わるらしい。
俺たちは由佳世のこの能力のお陰で安全に進めている。
俺たちは斜め右に曲がり、草をかき分けながら進む。
すると…。
「次は…、ん…?何か後ろから来ます」
「何か?」
橋川が尋ねる。
「はい、結構なスピードで走って来ています。形は…!オオカミ似です!」
何かに気付いたらしい由佳世が声を荒げる。
それを聞いた橋川が皆に大声で言う。
「後ろからオオカミ似の何かが来るらしい!気を付けろ!」
皆が一斉に後ろを振り返る。
すると、確かに銀色の毛を持ったオオカミらしきものが来ていた。かなりのスピードで。三頭。
「うぉし!任せろ!」
動いたのは堅也だった。
折った木を持ち上げ、そのままオオカミに叩きつける。
しかし、オオカミはいとも容易く木を破壊し、堅也を襲う。
だが、堅也も負けじと【咆哮】の能力を使い、オオカミを怯ませ、その顔に思いっきり拳を振るう。
殴られたオオカミは宙を飛び、そのまま動かなくなった。
「木より威力があるあんたのパンチって一体…」
香織が少し呆れつつ言う。
俺も同意した。
しかし、今はそんな場合ではない。
確かにオオカミ一体は処理できた。
けど、まだ後2体いる。
「今度は俺が!」
次に飛び出したのは、…えーと、誰だっけ。
まぁ、金髪のモヒカンとだけ言っておこう。
「違ぇよ!黒髪短髪の荒武だよ!」
律儀な奴だな。
ともかく、その荒何ちゃらが飛び出して、右手をオオカミの方へ向ける。
すると、オオカミの下から炎が渦巻き、あっという間にオオカミを呑み込んでしまう。
しかし、オオカミはまだ動けたようで、炎から脱却し、よれよれの姿で荒…を襲おうとする。
そこに堅也の拳が横から炸裂。
吹っ飛んだオオカミは動かなくなった。
最後のオオカミはというと、勝ち目はないと思ったのか、俺の方へ向かって来た。
…ん?俺?
「は?え?」
「グルァ!!」
「お、いおいおい、嘘だろおい!」
俺は一目散に逃げ出した。
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