目覚め
「…………」
ロネは目をゆっくりと開いた。
まず目に入ったのは、彼のことをじっと見下ろしている男の顔だった。
髪から装束から、全てが青で統一されている道化師姿の男は、ロネが目を覚ましたことに気が付くと良かったと安堵の息を吐いた。
「目を覚まさなかったらどうしようかと考えていたところなんだな……目覚めてくれて何よりなんだな」
かなり特徴のある物言いで呟き、傍らについと視線を向ける。
その先には、先刻ロネを獣から助けた男の姿がある。
木材を適当に組み合わせて誂えたような歪な形の椅子に腰掛けた彼は、ゴーグル越しの視線を道化師へと向けて、すぐに手元の剣へと戻した。どうやら剣の手入れをしている最中だったらしい。
「怪我はしていないんだ。目覚めない方がおかしいだろう、クレテラ」
「アノン、君はもう少し他人に興味を持つことを覚えた方がいいんだな」
クレテラ、と呼ばれた道化師は溜め息をついて、ロネの方に視線を戻した。
「君、身体の調子はどうなんだな?」
ロネはゆっくりと身を起こした。
此処は、天幕の中らしい。やや広めの間取りの中に、雑多な生活用品らしき道具がごっちゃりと詰められている生活臭溢れる空間だ。
ランプに使用されているオイルの匂いが鼻につく。そのような感想を抱きつつ、ロネはクレテラの方へと向き直った。
「大丈夫……痛くはないよ」
「血眼者に襲われて無傷でいられたあんたは運がいい」
手入れが終わったのだろう。剣を椅子の側面に立て掛けて、アノンが言った。
「普通は手足の1本くらいは簡単になくなるんだがな」
「え……」
しれっと言われたとんでもない台詞に言葉を詰まらせるロネ。
確かに、あの時は逃げなければ殺されると思っていた。そのくらいの恐怖があった。が……
そういえば、あの時もアノンは言っていた。
「ねえ、血眼者って何?」
「そうなんだな、説明は必要なんだな。これからのために」
クレテラは右目の下に描かれている雫の模様を指の腹で撫でる仕草をすると、真面目な面持ちで語り始めた。
「血眼者は憎むべき敵。それと戦うのが、此処に集まった人間に課せられた使命なんだな」