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始まりの開拓者たち  作者: 高柳神羅
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出会いは唐突に

 ロネは逃げていた。

 足がもつれる。限界を超えて動かしている身体が酸素を求めて喘いでいる。

 幾度となく転んだせいで、帽子も衣服も泥に塗れてぐちゃぐちゃだ。

 自慢の赤毛も目茶苦茶になっているであろうことが、想像するまでもなく分かる。

 仕方がないのだ。逃げなければ殺されてしまうのだから。逃げる以外に、打てる手立てがなかったのだから。

 子供の足で今の今まで逃げおおせていることが不思議でならないが、きっとそれは相手が遊んでいるからなのだろう。

 本気でかかられていたら、とっくの昔に捕まっている。そのくらいは子供の頭でも何となく分かる。

「……は」

 後ろを振り返る。

 草木に隠れて、白と黒の縞模様の巨体がこちらに向かって駆けている様子が見える。

 この分だと、まだまだ相手は諦めてはいないようだ。

 何で、こんなことに。

 鼻頭が熱くなる。泣きそうになるのを懸命に堪えて、ロネはとにかく足を懸命に動かした。

 肩から提げている鞄が重い。時折後方に引っ張られる感覚を感じる度に、どきりとする。

 逃げる際に荷物は邪魔だ。捨ててしまえば身軽になるのだろうが、今自分が置かれている状況が、彼にそうさせることを躊躇させていた。

 何処なのかも分からない森林の中で、身ひとつ。

 生き延びるために荷物は必要なのではないかという懸念が、頭に付き纏って離れてくれないのだ。

 後方から唸り声が聞こえてくる。追手の声だ。

 ロネはろくに湧いてこない唾を懸命に飲んで喉を湿らせた。突っかかるような感覚に思わず咳き込みそうになった。

 がさがさ、と木々の葉が大きく揺れた。

 突如として上空から現れた小さな影が、ロネと獣との間に割って入るように落ちてきた。

 銀のきらめきが虚空を滑る。

 どん、と重い衝撃音がして、獣が咆哮を発した。雄叫びではなく、悲鳴に近い声だった。

 ロネは振り向こうとして、草に足を取られて転んだ。膝を思い切り擦ったようだったが、今はそのようなことなどどうでもいい。

 肩を上下させながら、何とか後方に振り返る。

 まず目に映ったのは、横たわっている獣だ。

 眉間に何か鋭いものを突き立てられた痕跡がある。流れている血の量こそ少ないが、それが致命傷になったらしいことは明らかだ。

 力を失った赤い眼が、ぼんやりと虚ろに前方を見つめている。

「血眼者か」

 そう呟いたのは、獣の前に跪いた格好で佇んでいる黒服の男。

「ただの獣なら食用になったが……血眼者となると無理だな」

 緋色のレンズを填めたゴーグル越しに獣を見つめる瞳が、残念そうに獣の全身を観察している。

 左手に携えた剣の刃に付着した血を手袋で拭い取り、彼は肩越しにゆるりと振り返ってきた。

「災難だったな。あんた」

 視線が鋭い眼差しで見つめられ、ロネはようやく、自分がこの男によって助けられたことを理解する。

 助かったのだと自覚すると、急に緊張の糸が切れた。

 彼は男の言葉に答えることもなく、その場にぱたりとひっくり返ってしまった。

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