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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
94/100

94.まあとにかく、早くこんなに苦い食事とは別れを告げたいものだな!

「……さて。じゃあ、あと片付けないといけないことと言えば、水質浄化と食料の再生産ってことか……?」


誰にともなく、俺は一人呟く。

辺りは、天気も気にする暇がないほどあっという間に日中が過ぎ、いつの間にか日が傾きかけて来た所。

……俺たちは、鬱陶しい大王をあのまま放置して、一旦集落の外れにある森の付近まで戻って来ていた。


集落内では病気感染の危険性があるため、オークたちからは離れた場所で今日の野営をすることになった。

これから急いで町に戻ろうとしても、真夜中に森の中を移動するのは危険だ。昔、奥多摩の山奥で開拓をしていた時のことを思い出す。……あの時は、真っ暗な中崖の上を急いで駆け下りたりして、一歩間違えば転落死していたかもしれないと思ったことを思い出す……。


それを考えると、安全な場所で寝られるということは、とても幸せなことだ。

特に今回は、戦いらしい戦いも無かったので、内心ホッと胸を撫で下ろしていた。


……あれから時間がある時は、戦闘訓練をするようにしているのだが、最近一人で行動するようになってからは、ほとんどできていなかったからだ。


「これからやらないといけないことを確認しよう」


食事の準備が整い、みんなが集まった所で、俺は議題を切り出す。


「まずは感染症の拡大を防ぐこと。普通の動物と違って、オークたちは人間に近い種族だ。だからあの病気をほっとくのはマズい。何とか手を打たないといけない」


焚き火を囲んで、円を描くように座り、装備を外す……って、これは俺はほとんど関係ない。ベルナルドの話だ。

そういえば、俺も防具を何とかしないといけなかった。せめて皮鎧辺りでも身に付けるようにしようか……?


「それに関しては、昼間に話した通り、領主に依頼して専門家を頼むことにしよう。我々だけでは手が足りないし、知識も不足している」


マルミラの返答に、思考がズレそうになっていたのを軌道修正し、話を戻す。


「そうだな。俺も医療知識に関してはあやふやだから、余り突っ込まない方が良さそうだと思ってる。それよりは、自分の専門分野を活かす方だよな。……ってことで、次に水質浄化と同時並行で食料増産だな。これは地道にやっていくしかないけど、オークたちの数が減ったから、これからは確実に良くなって行くはずだ」


「その辺りは私に任せてくれていいよ。残っている数少ない住人の人たちの中からも、少しずつ協力してくれる人が出てきた。オークたちの脅威が無くなったということが分かれば、さらに増えてくるだろう」


「そうですね。ボクも大分やり方が分かって来ましたし、水の精霊ウンディーネたちも喜んでいるので、かなりやり甲斐があります!」


シバとベルナルドから頼もしい返事を聞いて、俺は思わず笑みがこぼれた。……一時の様子から比べると、状況が好転していれば、人はモチベーションが湧いてくるんだな……ということを実感したのだった。


そんな雰囲気が伝わったのか、辺りの暗さと裏腹に、空気が明るくなるように感じた。用意されたのは、一欠片の干し肉とピクルスのような漬け物だけだったが、誰からともなくそれを口に運び始め、食事の時間が始まった。


「やることは益々多くなってきてしまったが、ようやくここで先の展望が見えて来たな……。ロキ君、改めてお礼を言わせてもらうよ、ありがとう」


「……だから、やめてくれって。まだ全然解決しちゃいないし、正直俺がホントに役に立ったのかは分かんないぜ?あの様子だと、ほっといてもあの感じになってたっぽいし……」


辺りの暗さと焚き火の灯りがそうさせるのか、マルミラが突然らしくないことを言い始め、俺は正直照れ臭くなる。

ジッと焚き火の炎を見つめる彼女が、一体何を考えているのかはよく分からないが、少なくとも本心を言っているということだけは分かった。……焚き火の炎には、そういう部分があるからだ。


「いや、我々だけでは確信が持てなかった。君の画期的知識があってこそだ」

「それは……買い被り過ぎだよ。実際、ルルガたちだって森の異変には気付いてた。たまたま俺がそれを説明できたってだけで、あいつらの間にもそういう知識はあったんだよ」


そう言って、ここにはいない二人のことを思い出す。……どこかみんな、このことには触れないようにしていたのか、辺りをしばらくの沈黙が漂った。


「……。そうか、まあいい。我らが君に感謝しているということだけは確かだということだよ」

「そうですよ!戻ったら早くこのことを知らせに行きましょう!きっとまた一緒に協力してくれると思います!」

「そう願いたいものだな。私もここ最近は珍しく死にたさが減ってしまい、非常に申し訳なく思っているぐらいだ」


みんなが気を使って元気付けてくれているのが分かる。

……確かに、この後また村に戻って、彼女たちにこのことを告げたらどうなるのだろうか?


……喜んでくれるだろうか?

……それとも、言った通りだと愛想を尽かされるだろうか……?


長いこと一人の時間が多かったので、久々に柄にもないことを考えている自分がいる……。と同時に、こちらに来てからの濃度の濃い時間が、少なからず自分の中で軽いものではなくなっているということに気付いた。


「………………」


「まあとにかく、早くこんなに苦い食事とは別れを告げたいものだな!」

「そうですね!」

「……なあ、ちなみに一体これ何の野菜なんだ……?俺こんなの教えたっけ……?」

「え?あれ?何でしたっけ?確かあの人が作った奴ですよね……?」

「ああ。確かウリの一種だと言っていたな。普段は食べないらしいが、まあこういう時だからな……。確かに苦味はあるが、食べられないほどではない」


何かの浅漬けのような物を食べながら、俺たちは談笑する。が、唯一この場に足りない物は、やはりうまい食事だろう。

何かを達成した後に食べる食事は何でもうまいんじゃないかと思っていたが、必ずしもそうでもないらしい。

口の中に広がる苦味を押し殺しながら、俺は呟く。


「ホントか?……俺にはちょっと無理だなこれは……」

「……まずいぞ……!」

「そうだろ?ベルナルド。いくら食料不足とはいえ、これはないよなぁ!……早くうまいもんが食べたいわ……」


同じく苦い顔をしているベルナルドに同意しながら、俺は天を仰ぐ。……とその時、ベルナルドの様子がおかしいことに気づいた。


「……そうではない」

「ん?……どうしたんだベルナルド?」

「気配が……。『死の気配がする』……!」


『!?』


急に立ち、剣と盾を掴むベルナルド。俺たちは呆気にとられて彼に聞く。


「ど、どうした?敵襲か!?」

「分からない……」

「ま、まさかオークたちが!?」

「いや、とりあえず近くには生物の気配は無いし、これといった音もしない。だが……」


言葉を溜めるベルナルドの表情に、いたずらの様子は見えない。


「この場一体に『死の気配』が急に立ち込めてきた。……なんだか分からないが、急いでこの場を離れた方がい……ゴフッ!」


『!!!』


「どうしたベルナル……ぐ、ゴホッ!?」

「うっ……!こ、これは……!?」


突然その時、その場にいた全員が急に苦しみ始めたのだった。


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