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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
93/100

93.だから何か、美味しい食べ物を恵んでくだせぇ……!

貪り大王の生態についての考察は進む。


研究機関が無いのでハッキリとは分かるはずもないが、なんとなく納得できそうな答えだった。……そう考えると、皮膚の固さもよく分かる。木の幹のようなものか。


木の幹の組成と言えば、『リグニン』と『セルロース』そして『ヘミセルロース』だ。このうち、リグニンが最も固く、分解されにくい物質である。

その理由はと言えば、未だにその構成物質が解明されていない通り、非常に複雑な分子構成をしているかららしい。


つまり、大王も樹木のように色んな物を食べて消化吸収しているおかげで、普通の皮膚以上に固い表皮が出来上がったのではないかということだ。……本当にそうなのかはともかく、確かにこれで説明は付きそうな気がする。健康優良児というのも、ある意味当たっているかもしれない。


「なるほどな……。そうか、もしかしたらこれは何かの役に立つかもしれんぞ……!」

「ん?どうしたロキ君。何やら画期的な匂いがするな!」

「そうだな。……みんな、とりあえずオークたちとの戦いはこれで一旦終結したわけだが、問題なのはこの後だ。残念ながら、オークを倒した所でこの環境はすぐには修復しない。もちろん、長い時間をかければ自然と元通りになっていくはずだが、俺たちにはそこまでの猶予はない。そこでだ……!」


そこまで言うと、俺は少し間を作り、みんなの注目を集める。いよいよ大詰めだ。


「ここに、病院を作ろうと思う」

「……病院?」

「というと、怪我や病気を治すためのあの施設か?」

「そうだ。とは言っても、簡易的なものだがな。俺に一つ考えがある」

「……ふむ、聞こうではないか、その画期的なアイデアを!」

「マルミラ。……『ワクチン』って知ってるか?」

「ん?何だねそれは?」

「簡単に言うと、病気を予防するための薬だよ。だが、これは普通の薬ではない」

「普通の薬じゃない……というと?」

「病気の元を薄めたものを体の中に投入して、その人の治癒能力を上げるというものだ。……何人か生き残っていたオークがいたろ?あいつらを連れてきて、まずはその血を手に入れよう。『血清』って奴だ」


俺はできるだけ分かりやすく、要点だけをかい摘んで説明した。大雑把な仕組みは分かるが、具体的に詳しく説明してくれと言われても、俺は医者ではないので分からない。なので、とにかく重要な部分だけを伝えた。


「……なるほど。ロキ君、大賢者たる我は、その話は聞いたことがあるぞ!蛇に噛まれた時に行う、あの原理だな!そして、司祭たちの治癒魔法でもそのようなものは確かにある。病気から逃れた者の魔力を吸収し、病気になった者へ移すのだ。それで結構治る者も多いと聞くぞ?」

「……何!?魔法でワクチンとかあるのかよ!……やるじゃねーか異世界……」


まさかの展開に、かなり驚きを感じ得ない俺。

こんなにメシはまずいと言うのに、医療行為は進んでいるというのか……しかも魔法バージョンとは……!


「まあ、治るんならなんでもいいわ。魔法ってのが驚きだけど、仕組みとしては同じようなもんだな。それならともかく生き残った奴を探そう。もしくは豚の方でもいいや」

「そうだな。我も魔法が使える司祭を派遣してもらうように伝えておこう。……そうだ、無事解決しそうだと報告をせねば!」

「……長かったですねぇ……」

「これで元の食生活に戻れるんでしょうか、ようやく……」


仲間たちが、安堵のため息を吐く。

まだ全面解決とはいかないが、それでもなんとか見通しは立ってきたようだ。まだまだ先は長いだろうが、ここからは地道に活動していけば何とかなるに違いない。かつてない長い戦いだった……!


「……おい、お前もちゃんと手伝うんだぞ?」

「分かりました!分かりましたなんでもやります!だから何か、美味しい食べ物を恵んでくだせぇ……!」

「死ね」

「オロロロローン……!」


全く懲りていない貪り大王をとりあえずほっといて、俺たちは生き残りオークを探すことにした。




***




「お願いです……!お願いだからお見逃しを……!」


俺たちを危険な呪術師だと思い込んでいるオークたちを誘導するのは、それほど難しいことではなかった。


どうやらオークたちにとって、ただ食べているだけの貪り大王よりも、謎の呪術師の方が危険で上位の相手だと、無事に認識してくれたようだ。ちょっと脅しただけでブヒブヒ言いながら着いてくるようになった。


「おいお前、お前はまだ他のオークたちのように、病気は発症してないんだな?」

「……え?あ、は、はい〜!なにとぞ!なにとぞお助けを〜っ!」

「……ふむ。助けて欲しくば、貴様の血を差し出せい……!」

「ひいぃ〜っ!!!」


などと、少々呪術師ジョークを交えて脅しながら、なんとか健康なオークの血清は手に入れることはできた。


だが、異世界医者ではない俺は、そんな専門的な知識は無いので、これをどうしたらいいかとは分からない。さらに、この世界には注射などという便利な物もなさそうなので、仕方なく薄めたものを食べ物として食べさせることにした。……効果は薄そうだが、できることといったらこれぐらいだ。まずはこの辺りからやっていくことにしよう。


「ロキ君、この後は一体どうするんだい?オークたち全員にこの血清を食べさせていくってことなのか?」


今回、最終的に戦闘にならなくてホッとしているのか、ベルナルドが落ち着いた様子で話しかけてくる。俺は若干考えながら答えた。


「うーん……、確かにそれも手だが、このメンバーではあまりにも時間がかかりすぎる。やっぱりここはどこかから医療チームを連れてくるしかないな。その司祭たちに手伝ってもらおう。……って、できるかな?」

「うむ、おそらく大丈夫だろう。我に任せておけ!オークたちの脅威はもう退けたのだ。あの腐れ領主に、なんとしても言うことを聞かせてくれるわ……!」


問題が解決したからか、急に強気になるマルミラに、俺はやれやれと思いながらも、任せることにした。


……確かにその通りだろう。

あんなに手こずって、町が半壊した相手を無事に収めることができたのだ。それぐらいやってもらわなければ意味がない。

それに、オークたちを追い払うためといえば、喜んで協力してくれることだろう……。


……さて、後はもういくつかの問題を解決すれば、この事件もいよいよ解決ということだろうか……?



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