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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
92/100

92.……おい、いい加減食うのを止めろ

それから俺たちは、すっかり争う意欲を無くしたオークたちから詳しい事情を聞き、この後の始末に取り掛かることにした。


まずはオロローンオロローンと、真面目なのかどうか分からない泣き方で泣き噦る貪り大王にイライラしながらも、これまでに何が起こったのかを聞き出す。……というかコイツは、常に何かを食べていないと気が済まないのか、今でも何やら木の根っこのようなものを齧っている。


「……おい、いい加減食うのを止めろ。ってかなんだよそれ?木の根っこみたいな食いもんだな」

「こここれは……イスの足なんだな!みんな食べ物を持ってきてくれなくなっちゃったんで、しょうがなく身の回りの物を食べることにしたんだな!流石に土はおいしくないので……」

「まさか本当に木なのかよ!?食わずにはいられんのかオマエは……」


呆れながらも、大王の証言をまとめると、概ね起こっていたことは俺が予想していたことのようだった。


徐々にオークたちや飼っている豚たちの間で病気が流行り出し、倒れる者が増えた。

しかし最初はそれ以上に増えるスピードの方が早かったので、あまり気にしていなかったが、ある時一気に爆発的に増えるようになり、看病する者よりも病気になる者の方が多くなった。

同時に採れる食べ物も少なくなってきたので、みんな食べる物が無くなって動けなくなってしまった。


……ということだった。


これが、生態系の怖さだ。

流石に「それは俺たちの呪いではなく自然現象なんだよ」とは言わなかったが、いきなり生態系バランスが崩れてしまうと、このようなことが起こり得る。順を追って話していこう。


俺が長野にいた時に実際に起こった出来事だが、天気が長期間悪かったり、気候が普段より暑くなってきた年に、毛虫が大発生したことがあった。

古いマンガなどではよく『木から毛虫がポトっと落ちてきてキャー!』……みたいな描写があったりするが、実はそれは一世代前までの桜の木で普通に起きていたことだったのだ。


ちょっとした環境変化で大発生した毛虫たちは、瞬く間に増殖すると、ほとんどの庭の木を食い尽くしていった。あっという間に葉っぱが無くなり、丸坊主になった木は、光合成を行うことが出来ずに弱っていく。……これが重なって来ると、次第に木が枯れることになってしまうだろう。


今では町の桜のソメイヨシノなどでは、人々が知らない間に農薬が散布されているので、毛虫も死んでいなくなってしまうが、そうでない場合、これは自然栽培だなんだという栽培方法の話ではない自然現象なので、防ぎようがない。


……このように、急激な一種類の生物の増加は、その生き物が捕食していた別の生物の絶滅をもたらすことになりかねない。これは、独自の生態系を持つ離島などで起こりやすい出来事でもある。


それが今回は、大量のオークと豚たちがやってきたこの高原で起こったということだ。……そして、それは同時に『その生物を食べる生物にとって、繁殖に最適な環境が整った』ということにもなる。それが今回は、オークたちの間で流行った病だったのだ。


病と言っても何パターンかあり、それが微生物なのか細菌なのかウイルスなのかによっても変わってくるが、この流行具合を見ていると、おそらくウイルスかもしれない。……それこそインフルエンザのようなもので、それで俺は、こちらにも感染する可能性があるかもしれないと、空気感染を予防しようとした。


要するに、大量に集まったオークたちは、ウイルスにとっての都合のいい良質な畑だったわけで、それによって短期間に爆発的に増殖することになったという事だろう。


……とまあ、これが今回起こっていた事件の全貌であり、俺が特に何かしたわけでも何でもない偶然の出来事だったわけだ。だが、生態系の知識を持っていたことで、ある程度予想できたということも事実である。こういう時は、本当に農業をやっていて良かったと思う時なのだった……。


さて、というわけで、オークたちの中で起きていたことは、概ね俺の予想と一致していた。ここまではいい、ここまでは。だが、問題はこれからなのだが……。


「そう言えば、何でオマエだけはこんなにピンピンしてるんだ?」


俺は、デカイ図体で醜く泣きじゃくる大王に対して語り掛ける。


「わわかんないんだな〜ボクちゃん昔から健康優良児なので!」

「殺す」

「オロローン……!」

「ロキ君、それについてなんだが、確かに我も同じことを思っていた。で、以前からそれについて検証した結果、一つの仮説が生まれたよ」

「おお、さすがマルミラ!画期的だな!」

「……我の台詞を奪うな。でだな、どうやらこやつは『食べた物の変換効率が異様に良いおかげで、肉体を修復し続けている』のではないかと思う」

「……なるほど。なるほどそうか……。食べ続けているのは、そういう理屈か!あり得るな!」


確かにこれは仮説だが、食べた物を分解吸収するのが生物だ。ただ、食べる物というのは、大体の生物は決まっている。小さければ小さいほど、複雑な器官を持っていないので、仕組みは単純な方がいい。蝶々だって、イモムシが食べる食草は大体決まっている。


しかし大きい生物になればなるほど、雑食性が増し、色々な物を食べて消化吸収することができるようになる。豚などはその最たる者で、野菜から穀物から何でも食べるのである。

もしかしたら貪り大王の場合、この消化吸収能力が異常に高いため、何でも食べることができるのではないだろうか?そしてそれを体の細胞の一部に変化させられるので、ここまで巨大化し、病気にも強い不死性を得たんだとしたら……?


ようやく理由が納得できた気がした。

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