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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
91/100

91.ああ、だがまだこの作戦は終わっちゃいない

「これが本当にあの……オークたちの集落か……?」

「ひどい……!」

「これだけの速度で病が広がったって言うのか……!?」


かつての玉座への道は、地獄の様相を呈していた。


オークたちの集落には、もう過去の賑わいはなく、そこにあったのはとにかくたくさんの肉の塊。……いや、塊ですら無い、生命が朽ちる前のたんぱく質に分解されかけたナニカだった。


最早集落は崩壊しかけており、俺たちが歩いていても、襲ってくるようなオークは誰もいないようだ。俺たちの周りにいるのは、黒ずんだ体で横たわる病死したオークか、家の奥の方から聞こえる呻くような声のオーク、そしてほんの僅かに生き残ったと思われる、怯えた様子で遠巻きに見るオークだけだった。


「おい!お前たちのボスと会いたい!案内しろ!」

「ひ……ひぃ……っ!」


俺がオークに何かを話しかけようとすると、それより先に奴らは逃げ出してしまい、まともな話にはならない。……まるで、忌まわしき何かが集落に呪いをかけにやってきたとでも思ったのだろうか?


「何なのだ……あの様子は……?」

「うーん……。とにかくこの感じだと急いで用事を済ませたほうがいい気がする。急ごう」

「はいっ!」


シバの精霊に合わせて、俺たちの周囲を囲う空気の渦も移動する。

おかげで、俺たちはほとんど何の苦労もなく、再び貪り大王の元へとたどり着くことができた。




***




遠くから見る大王の姿は、相変わらずバカでかい巨体だったせいですぐに分かったが、どうやら以前とは全く違う雰囲気をまとって座っていた。


「おおぉ……。オロローン……オロローン……!」


謎の奇声をあげながら、何かを口に運び続けている……もしかしてあれは、泣いているのか?あんなにいた取り巻きたちの姿も見当たらず、畏怖すべき脅威として君臨していた貪り大王が、今やただの邪魔な障害物かのように映っていた。

物陰に隠れたまま、俺たちは最後の確認をする。


「いよいよ大王だ。準備はいいか?」

「……大丈夫だ。この我の赦しを乞うのであれば、一刻も早くここから立ち去れと言えばいいのだな?」

「ああ、とにかく自分が神になったかぐらいのつもりで頼む。後はお前の演技力次第だからな?」

「……画期的なことを言ってくれるではないか……。分かった、任せておけ」

「よし……行くか!」


この長い戦いにも、いよいよ終わりが近づいている。俺たちは最後の気力を振り絞って、あの巨大オークの前へと進み出ていった。


「貪り大王よ!」

「……!?」


俺たちに気付くと、大王は一瞬だけ食べる手を止めてこちらを見る。脂肪に埋もれた目の奥が、真っ直ぐに俺たちを見て驚愕の表情になったような気がした。


「度重なる勧告にも従わず、暴飲暴食の罪を重ねる者よ……罪深きオークたちよ!ついに我が怒りは頂点に達した!見よこの惨状を!!!……我が呪いを解いて欲しくば……」

「うえええおおおぉぉ〜〜〜んんんん!ごめんなさいごめんなさい!!!すいませんでしたぁ〜〜〜っ!何でもするので、どうかお許しください〜〜〜!!!」


「……は?」


何の交渉もすることなく、オークの群れは既に崩壊していたようだった……。




***




「じゃあ、お前たちはもうほとんど残っていないって言うのか……?」

「そ、そうなんだな〜……。段々と来る者が減っていって、最近はもう誰も来てくれないんだな〜……」

「お前は動けないのかよ?」

「ぼぼぼ僕ちゃんは一人ではもう動けないんだな。いつもはみんなに持ち上げたり引っ張ったりしてもらってるんだな〜……」

「死ね」

「オロローン……!オロローン……!」


大王の話をまとめると、やはり俺の睨んだ通り、一気にこの流行り病は広がっていったようだ。日本にいた時も、インフルエンザが畜産クラスタの間で大流行した時には、友人たちが皆恐怖に怯えていたのを思い出す。


例えば鳥インフルエンザなどは、鳥の中で流行するインフルエンザだが、そこから豚インフルエンザを経由して変異し、最終的に人間が感染する致死性の高いインフルエンザになってしまうことが懸念され、鳥インフルエンザが発覚した段階で全て処分されてしまう。

……それが、インフルエンザなどの感染症の怖さだ。


おそらく、オークたちにも同様の現象が起こったのだろう。都市でインフルエンザが流行するように、密集した地域で同じ生物が暮らすようになれば自然発生する、これは自然の摂理だからだ。


それを、オークたちの住環境と、奇形の豚から推測した、俺の博打のような賭けだった……。


「……ロキ君、君の画期的な頭脳がもたらした勝利だな。これなら後に遺恨も残るまい。我の名誉のことも考えてくれたようだしな……。何というか、こうハッキリ言うのは正直苦手なのだが、礼を言わせてくれ。……ありがとう」


急にマルミラが俺に対して話しかけてきた。

……そうか、これで一応依頼は終わったのか。見れば、ベルナルドもシバも、どこかホッとしたような、祝福するような笑顔が浮かんでいることが分かる。


けどそれにしても、マルミラのロリチックな容姿と声で言われると、なんだかこっちの方が恥ずかしくなってくる……。俺はそんな照れ臭さを隠すように、話を切り替えることにした。


「ああ、だがまだこの作戦は終わっちゃいない。悪者を倒してめでたしめでたしなんてのは、お伽話の世界だ。俺たちはこれから、『……この状況をどう収めるか?』を考えて、やっていかなくちゃいけない。それはもしかしたら、これまで以上に大変かもしれないぜ?」


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