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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
90/100

90.世の中には確証のないことをすぐに鵜呑みにしてしまう奴らがわんさかいるんだよ

「大体の様子は分かった。んじゃ手筈通り、最初の方針で行くが、状況によってはどうなるか分からない。各自充分気を付けてくれ」


まだ胃の辺りがムカムカしていたが、それをどうにか押し留めながら俺はみんなに伝達した。

それを告げると、他のメンバーにもやや緊張した雰囲気が広がったのが分かったが、それよりもようやくこの先の見えない状況から抜け出せる……!という希望に満ちた表情のほうが強いのが感じられる。俺だってまさしくその通りだったからだ。


それから程なくして、俺たちはオークの集落へと出発した。


「まさか、ロキ君の言っていたことがこんなに早く起こるとはな……」

「さすが画期的な作戦を立てる男だけあるな」


ベルナルドとマルミラが俺の噂をしているのが聞こえる。……それは大きな誤解で、実はうまくいくかどうか全然自信が無かったんだよ……とは全く言えなかった。


確かに俺は、あれだけの集落と家畜が突如現れたとして、何も影響が無いとは思えなかったので、この作戦を立てたわけだが、それがいつどのタイミングでどの程度起こるのか?……とは全く分からなかったのだ。


そういう意味では、いち早く抜けたルルガとミミナの判断は完全に正しかったと言える。こんないつ何が起こるか分からないような、そんな作戦が成り立つと思うほうが馬鹿な話だ……。


今更ながら後ろ向きにそんなことを考えつつ、俺たちは再びオークたちの集落へと辿り着いたのだった。


「いいか。もう一度確認だ。この村でどんなことが起こっていようと、それは全て『俺たちの呪術によって起こしたこと』だからな。そのつもりで頼む」

「……分かっている。それにしても、本当にそんなので奴らが騙されるのか?確かに今回のように異変が起こることを予言したというのは感嘆するが、果たしてそれも奴らに通用するのかどうか……?」


心配そうに眉をひそめるマルミラに対して、俺はわざと自信たっぷりに返す。


「大丈夫だ。マルミラ、お前は理論的な人間だから分からないだろうが、世の中には確証のないことをすぐに鵜呑みにしてしまう奴らがわんさかいるんだよ」


……日本社会での様々なフェイクニュースがはびこっていた頃を思い出しながら、俺はそう言ってマルミラを諭した。当時は本当にこの手の人々には手を焼かされた。『消費者とはそういうものだ』とは言っても、何故当時の俺はそんな『すぐに少し調べれば分かるようなこと』を鵜呑みにしてしまうのか分からなかった。


……その結果、結論としては「まだ現代でも黒魔術は蔓延っている」という感想を持ったのだ。そして現代ですらそうなのだから、この中世チックなこの時代であれば、尚更その傾向は強いに違いないと思っていた。


もちろん、だからと言ってこれも確証などない。だが、これから行う作戦のことを考えれば、主演女優は確実に役になりきってもらわなければならない。そうでなければ、説得力など出ない。


「そうか……。まあ、ロキ君がそこまで言うならそうなのだろう。我も全力でそのように振る舞うとしよう」

「ああ。頼むよ」


というわけでなんとか、俺の強い推しによって、今回の作戦に他の面々も納得してくれたようだ……。




***




オーク集落の外れに着いた俺たちは、そこで起こっている異変にすぐ気付くことができた。……それは、使い魔を使った偵察や、遠視の魔法による視覚的な情報だけでは分からなかったことだ。


「な、何なんだよこの臭い……ぅぇっ!」

「腐臭……?」

「見ただけでは分からなかったが、これは……」

「き、気分が……!」


集落の外にまで漂ってくるほどの異様な臭いが、辺り一帯に立ち込めている。自然に近い暮らしをしていれば、一度は嗅いだことのある「たんぱく質の腐った臭い」だ。

その臭いの源は、遠くからでもすぐに推測することができた。それは、集落内のあちこちに『元オークだったもの』と分かる死体がいくつも転がっていたからだ。


「あれが言ってた『餓死した死体』か……?」

「あ、ああ。そうだと思う」

「それにしちゃあ、これは……!?」

「もう一度、魔法で様子を確かめることにしよう」


そう言うとマルミラが呪文を唱える。以前にも使ったことのある【千里眼】の魔法だった。

これは聞いた所によると、原理は千里眼のようなものではなく、正確に言えば『複合視覚』とでも言うべきものであり、その中身はと言えば、『他者と視覚を共有したり』、『音や熱を使った視覚』などと組み合わせることにより、総合的に統合した結果、遠くの物も感知することができる魔法らしい。

……と、久々に魔法考察をしてしまった。それは余談なので話を戻そう。


マルミラの偵察の結果、共有できる生物が少なく、他の感覚では雑音ノイズが多すぎてあまりよく分からなかったということで、最終的には俺たちは、見える辺りにはオークたちの姿がないことを確認すると、全員で静かに集落内へと近づいていった。


そして集落内に一歩足を踏み入れると、先程まで感じていた異変は、ほんの序の口だったということに気付かされることになる。


「……これは……!」

「想像以上だな……」

「な、何か聞こえませんか……?」

「一体、何があった……!?」


そこに広がっていた光景は、全く何も口にしていなかったとしても、吐き気を催すような凄惨たる光景だったと言えるだろう。……俺の胃のむかつきは、更に限界を超えそうになる。


ゾンビに襲撃されて全滅した村があったとしたら、こんな感じだろうか。

通りのあちこちには、餓死したオーク……ではなく、何らかの病気で死に、そのまま腐り始めているオークたちの死体がどこかしこに放置されていた。


いやむしろ、この様子では餓死したオークの方が少ないに違いない。……間違いなく何かの流行病が大発生したような形跡があった。そうでなければ、この大量のオークたちの死骸に説明が付かない。

さすがの自然暮らしの俺も、この光景にはかなり参りそうになった。……日本では人間型生物のこんな死体など見たことがないからだ。些か精神的に参りそうになりながらも、なんとか気力だけで正気を保たせて、観察を続ける。


「何か……分かるか?」

「どう思う?……ぉぇっ……これは、何かの感染症か?普通の死に方じゃないぞ」

「そうだろうな。以前の戦いの時と様子が似ている。この劣悪な環境も同じだ」

「不味いな……。空気感染するような病気だったら俺たちも危ない。一旦帰るか?何かマスクみたいなものがあればいいんだが……」

「空気を浄化すればいいんですね?……では風妖精シルフにお願いするとしましょうか」


そう言うとシバが精霊を呼び出す。

俺には目に見えない空気の揺らぎが起きると、俺たちの体の周りに小さな風が吹き始めて、さっきよりも臭いが消えて呼吸が楽になった気がする。どうやら、これがシルフの力のようだ。


「これで大丈夫ですか?継続している間は他の魔法が使えないので、よろしくお願いしますね」


ここまで来ても、辺りには誰も現れる様子がない。なので、そのまま俺たちは先日の貪り大王がいるはずの玉座へと向かうことにしたのだった。



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