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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
88/100

88.俺も……残るよ

「俺も……残るよ」


そう言った俺の言葉に、ルルガとミミナは何も言わなかった。ただ、「そうか……」と言って、村に戻る準備を始めたようだった。

俺はそれに少しだけガッカリした気持ちを感じながら、先程の台詞とは裏腹に、それでも彼女たちを責めることはできなかった。


……元々は、俺の勝手で始めたことだ。頼まれてやったことなのだから、ここで辞めてもこの面子なら誰も文句は言わないだろう。……けどそれは、それだけは俺が嫌だった。

自分が始めたことは、どんな結末になったとしても自分で責任を取る。……それが独立して農業を始めた俺のささやかなプライドだった。だから、この一連の問題も、俺には最後まで見届ける義務がある。そう思った。


けどそんなのは、俺自身の問題で、ルルガたちには全く関係がない。確かにこの世界に呼び寄せたとはいえ、命まで賭けるほどのことではないだろう。……そうだ、それが当然だ。だから、彼女たちが抜ける選択肢を選んだ所で、俺には何の文句を言う権利も無い。


逆にそれどころか、自分の作戦の不備を詫びてもいいぐらいだ。……だから、彼女たちに掛けられる言葉を俺は何一つ持っていなかった。


一方でマルミラの方は、なんと言っていいか分からないのか、小さく「……ありがとう」と言うと、そそくさと自分の仕事に戻ってしまったようだった。ただ少しだけ、嬉しそうな表情をしていたのは、俺の見間違いだろうか……?


ともかく、食糧が尽きたのと同時に、俺たちのチームワークにも亀裂が走ってしまったのは間違いなかった。……なかなか、RPGのようには行かないもんだ。




***




次の日、ルルガとミミナは村に戻って行った。特に別れの挨拶も無く、素っ気ないものだった。「……気をつけてな」と、真剣に言うので、俺も「生きてたら、また寄るよ」と社交辞令のように返す。


お互いになんと言って良いのか分からずに、気まずい別れとなった。……あれだけ快活だったルルガが、最後まで無言だったことだけが気になる。


……いや、こんなことになったんだから、あんな態度を取るのも当然だろう。異世界から来た奴が、こんな役に立たないただの農家で申し訳なかったな。嫌われたって仕方のないことばかりだ。……正直、それからしばらく、内心は最悪だった。


ルルガたちが屋敷を去ってから、俺たちは再び作業に戻った。

「一緒に行きましょうか?」というシバとベルナルドの申し出を断って、俺は再び一人で森へと入った。


シバにはまだまだ食糧を生産して欲しいし、ベルナルドには町との連携をお願いしなくてはならない。マルミラはそのネットワークのハブとなるので、あまりフィールドで危険な状況になることは避ける必要がある。……そんなことを見越しての単独行だったが、正直少し一人になりたい気持ちもあった。


……ダメだ。ここんところ、どうも情緒が不安定だ。

先日倒れてから思ったことだが、どうやら免疫力が下がっているような気がする。……おそらく、深刻な栄養不足だ。


一度、仕事で香港に半年住んでいた時に、似たような症状があった。

居住環境や食生活が変わると、人間は腸内細菌がその変化について行けなくなる。そのため、食事の消化吸収が悪くなるのだ。


これまではおそらく、ジャングルのフルーツや野菜と赤身の肉をベースとした割りといい食生活をしていたので抑制されていたのだろうが、思い返せばこの町に来てから、ちゃんとした食事をしていない気がする。……時折感じる寒気が、やはり何らかの体調不良を知らせていることは間違いない。


例えば風邪を引いた時に、消化にいいうどんなどを食べるのは、人間の体のエネルギーは、消化をすることか体温を上げることのどちらかに割り振られるからだと聞いたことがある。消化に悪いものを食べてしまうと、そちらにエネルギーを取られて体温が上がらなくなると言うのだ。


……そう考えると、この体調の悪さも納得することができた。


(風邪……引いたかな)


誰にともなく一人呟く。割りと最近は一人で行動することも多かったが、今回の出来事で更にその孤独が深まり、もの淋しさを感じるようになった。……というか、それもあるが何だか森の中の様子がおかしい。耳を澄ませてみるが、妙に辺りが静かだった。


(おかしい……。動物が……いない?)


動物どころか、虫の鳴き声ですら僅かにしか聞こえない。そういえば、所々に何か獣が荒らしたような跡も見える。いや、獣というよりあれは……人間のような……?


『あの森は死んでいる』


先日ミミナが言っていたことを思い出す。もしかしたら、ついに俺が予想していた変化が起きてきたのかもしれない……!




***




「マルミラ、森の様子がおかしい。何か分からないか?」

「ちょうどその報告をしようと思っていたところだ。……ロキ君、オークたちの様子がおかしい」

「何?……一体何が起こってる?」

「まだ詳しくは分からんが、目撃する人数が激減している……!」

「……分かった。みんなを集めてくれ。落ち合う場所はあの野営した場所だ。それまでに俺は奴らの様子を見てくる」


俺はマルミラの報告を受け、急いでオークの集落へと向かった。


まだ今なら間に合う。

まだ今だったら……色んな何かが壊れる前に、以前と同じ関係を取り戻せるはずだ……!


どこかそんな風に思いながら。




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