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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
84/100

84.くそっ!なんでこんな所まで……!?

三日目。


とうとう食糧が尽き、体力の限界を感じた俺は、一度屋敷に戻った。……いや、正確には「戻ろうと」した。だがそれは、ちょっとした事故により、遅れることになってしまった。


その理由だが、定時通信で使っているトンビのピーちゃんに連絡し、食料が尽きたので戻る旨を伝えると、森の外れまでマルミラの屋敷に仕えている使用人が馬車で迎えに来てくれるということだった。


これまでにも何度か世話になっている御者の人だったので、安心して待っていたのだが、約束の時間帯になっても来る気配がない。心配になって見に行こうと思ったのだが、移動してすれ違いになってはマズいと思い、俺はそのまましばらく待っていた。

するとそこへ、突然三匹のオークたちが現れたのだ!


「くそっ!なんでこんな所まで……!?」


それまでは、森に入ってからほとんど出会うことがなかったオークと、まさかこんな時に出会うとは……!


完全に油断していた。

一人で活動する以上、周囲に警戒しておくことは当然であり、万が一出会ってしまっても、接触する前に遠ざかることが重要だ。


幸い、奴らは警戒さえしておけば分かるし、遠くからでも目立つので、なんとかこれまでは遭遇しないで済んだ。しかし今は、ここから動けないし、馬車と鉢合わせすることは避けなければならない。

そこで俺は、一旦オークたちをその場から引き離すべく、歩き始めた。


今回なんとか助かっているのは、オークたちが非常に鈍いことだ。

前回のコボルドたちは、一応統率が取れており真面目だったので、こんな俺でも頑張って戦わなければならなかった。だがオークたちは基本的に臆病で、人間を見ると向こう側が避けてくれることも多かった。

お陰で俺も、なんとか戦いの腕を披露しなくて済んでいる……というわけだ。


一対一で武器での戦闘ならまだしも、乱闘になってあの巨体でのし掛かられたら堪ったもんじゃない!小柄な相撲取りぐらいの質量はあるぞあれ……。


そんなわけで、争いを避けながらトラップを張り巡らせていた俺なのだが、これまでにオークがこんな所まで現れたことは無かった。……一体、オークの集落で何かが起きているんだろうか……?


俺は思う。

生物がその行動様式を変えることは、なんらかの変化があったに違いなかった。




***




オークたちは、何かを探しに来ているようだった。

そしてその何かは、簡単に推測できた。『食料』である。


マルミラから聞いていたオークの習性と言えば、それは「雑食である」ということだ。

奴らはなんでも食べる。それは豚と同様に、ほとんど見境なしだ。


あまり好んで動物を狩って肉食はしないようだが、鳥やウサギなどの小動物は食べるようだ。これはおそらく臆病な性格のため、鹿などの大きい哺乳類は危険があるからだろう。


たまに地元でも山道を走っていると、急に鹿が飛び出して来たり、道端で草を食べている所と出くわすが、あの巨体にはいつも驚かされる。

たまにオスの角が生え変わった後の取れた角も落ちているが、あの角で貫かれたら人間など致命的な重傷を負ってしまう。

実際、それで死ぬ人も何人かは居たはずだ。


そう考えると、狩猟はかつては重要なタンパク源であるのと共に、生態系を維持するための貴重な日常生活の一つだったわけだが、危険と隣り合わせであることには変わりなかった。


そんなわけでオークたちの主食は木の実や雑穀であると言えるようだ。以前マルミラがオークたちが去った後にトイレを調査すると(よくやったものだと思う……)、その排泄物の中にはそのような形跡があったらしい。


この情報は、作戦を建てる上で非常に貴重な情報だった。


俺たちがやろうとしていることは、簡単に言えば『兵糧攻め』だ。

ある地域に生物が大発生してしまうと、一気にそこの生態系のバランスが崩れて、食糧が枯渇する。さらにそれだけではなく、ストレスや衛生面も悪化することが多い。


……俺は、東日本大震災後の東北地方でそれを見た。


農村部ほど自然と共存した余裕ある暮らしが成り立っていたのに比べ、都市部の避難所は千人もの人々が体育館の中で暮らし、その環境は酷いものだった。


しかも、自分たちで何も生産できないため、生活が全て外部に依存する事になる。そのストレスというものは、想像もできないものだった……。


結局、その時の経験が俺を農村に移住させた原因の一つになるわけだが、それはまた別の機会に語ろう。何なら一つのストーリーに創作しても良いかもしれない。……ってまた話がズレた。


要するに、急に人口が増えたこの森の一部は、オークたちによって急激に食料が枯渇しつつある、という事だ。


昔から戦略には『兵站へいたん』という言葉があるように、戦においても食糧の確保は最も重要だ。そのせいで勝敗が決したことだっていくらでもある。

外から移住してきたあのオークたちが、そんな計画ができていたとはとても思えない。


そこを狙って、擬似的なあの時の避難所を作り出そうというのが今回の狙いだ。


……まあ、毒を流すのに比べて大差ないエゲツない作戦と言われればその通りなのだが、この際仕方ない。

それにもしかすると、それよりも早く何らかの異変が起こるのではないかというのが、俺の予想なのだった。







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