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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
83/100

83.それにしても……苦い

結局、様子がおかしかったルルガとミミナの理由は、尋ねても教えてはくれなかった。曖昧にはぐらかして誤魔化そうとするので、流石の俺もそれならばと、彼女たちの申し出を了承することはできなかった。


「悪いけど、そういうわけで理由も分からんのに連れていくことはできん。何かあるんなら、ハッキリ言ってくれ」

「……」

「……」

「あーそうか、分かったよ!」


若干憤慨しながら、俺は乱暴に扉を閉めた。

きっとこの前に目撃した、あの不思議な様子が関係しているのではないかと思ったが、向こうが言ってこないのにこちらから聞くのは気がひける。……なので、何となく気まずくて俺はそのまま続きの作業に出掛けることにしてしまった。


結果的に、この事が後ほど俺を大きく後悔させることになるのだが……。


「とりあえず、俺は俺のやることをやるか……」




***




出発してしばらくすると、さっきまでの機嫌の悪さはどこかへ行き、逆に後悔が襲ってくるのだが、もう今更だ。

腹が減ると、すぐ感情的になって来るからいかんな……俺はルルガか。


今頃はもう、みんなそれぞれの持ち場について各自のやるべきことをやっているだろう。俺もそうしないと、な。


「どうしたのかね?早速後悔しているのかな?」

「……うるせえなあ。そんなことより、オークたちの様子はどうだ?」


頭上から、マルミラの声が聞こえる。しかし彼女は今、屋敷で保存食作りをしているはずだ。……疲れてた幻聴が聞こえるようになったか?

いや、そうではない。


彼女は、連絡事項を伝達するために、俺の元に使い魔を寄越しているのだ。そのトンビ型使い魔が、俺の前方やや上の枝の上に掴まっていた。


この使い魔を通して、俺たちは互いの情報をやり取りしている。このような広域作戦行動では、情報の伝達が何よりも重要だ。江戸時代においても、狼煙を使って大坂の米相場をどこよりも速く伝える手段が発達してたっていうしな。


このように、それぞれがバラバラに行動している間でも、連携して動けることは何よりも大事なのだった。


「ああ、オークたちの様子にも変化が出てきたようだ。以前に比べて、大分動く個体が少なくなってきているようにも思う。最近若干暑くなってきたからかな。奴らは暑さに弱い」

「そうか……。確かに、森で遭遇する数も減ってきたしな。地道な封鎖活動が上手くいってるのかもしれん」


大きく分けて、俺たちの行動方針は二つだ。水質浄化とオークたちの活動封鎖である。水質浄化に関しては説明するほどの事もないが、これに関してはオークどもを倒せば改善されるというわけでも無いため、今から地道に取り組んでおく必要がある。


こちらは現在、ベルナルドに対応してもらっている。この町に住んでいるから地理にも詳しいし、今後の長期的な活動においても指揮を執ってくれそうだからだ。


一方でオークたちの活動封鎖に関しては、俺とルルガたちが担当している。

先日のマルミラの黒魔術発言を現実化するべく、様々な手法でオークたちをあのエリアに閉じ込めておく必要があるのだ。


そのためには、生活道路を封鎖し、餌場を占領し、行動範囲を狭めていかなければいけない。

ルルガたちには、奴らの食料供給源となる採集エリアを見回ってもらい、オークたちが居たら追い払う。そして俺は、地道に奴らが使う獣道を発見し、そこへバリケード代わりとなる厄介な雑草を植えることだった。


「それにしても、こっちの植物が向こうとほとんど変わらなくて良かったよな……」


定時報告を受けるために飛び去ったマルミラの使い魔が居なくなり、一人になった俺は、まるで日本で農作業をしていた頃のようにぶつぶつと独り言を呟きながら土ごと草を引っこ抜いていた。


今植え替えているのは、ヤブガラシという草に似た植物だ。畑が荒れるとすぐに蔓延る厄介なツル性植物の一つである。

その旺盛な繁殖力だけでなく、ツルの頑丈さや小さなトゲトゲが人の体に擦り傷を作るなど、見つけたら真っ先に抜きたくなる憎っくき相手だ。だが今回はこれがかなり役に立つ。このヤブガラシは、数日もしたらあっという間に蔓延って、その行く手を阻むようになるのだ。


先日のワルナスビやこのヤブガラシに加えて、他にも似たような雑草を道沿いに植えて回るという、超絶地味な作業を俺は一人淡々と行っているのだった……。


「マルミラとシバの奴、うまいことやってるかな……?」


屋敷に残った二人には、塩漬けや乾物、そしてピクルスなど、いくつかの保存食レシピをレクチャーしてきたから、今頃奴らが頑張って作ってくれているに違いない。


そんなことを思いながら、ただひたすらに種を蒔き、苗を植え替え、ツルの伸びる先を整頓(これを整枝という)する。

そろそろ100株は越えただろうか……?これぐらいの作業量は何でもないことだった。綺麗に整地された畑であれば、一日に何百株と定植することだってあるのだ。これぐらいはどうということもない。


ただ、今回は食料を現地調達して自給しなければいけないというのが、かなり厄介だった……。


「残り、十切れを切ったか……」


残り僅かな干し肉を齧りながら、切なく呟く。

もう既に、パンは食べ切ってしまった。……あんな固いパンでも、無いよりは全然マシだった。ダイエットをしてるわけでもないのに、糖質制限のたんぱく質ばかりを食べることになってしまい、時折あっちの甘いスイーツの夢を見てしまうほどだった。


塩気の強い肉を齧ると、水分やさっぱりした物が食べたくなる。

ここは熱帯の森とは若干違うようで、果物はあまり成っていない。もしくは、オークたちによって食い荒らされてしまったのか。とにかく、俺は食べられそうな草を探しては、草食動物のようにモグモグと、生野菜を食べてばかりいた。


それにしても……苦い。



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