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異世界農家  作者: 宇宙農家ロキ
三章 異世界で出稼ぎに出る俺
81/100

81.たまに一体誰のために作ってるのか、分からなくなる時があるよ……

「……食料が尽きそうだ、ロキ君」

「なんだって……!?もうか?」

「ああ、あの領主め、こんな所だけは役立つというのか……あの様子だったから、住民たちが見限るのがやたらと早かったようだな。既にどんどんと町の人々の避難が進みすぎていて、町から物資が消えつつある……」

「マジかよ……」


こんな所で、想定外の事態が起こるとは思わなかった。

この時代のこの世界、まさか保存食や加工品があるはずもない。最近は何故か立ち位置が逆転しているようだが、食べ物が腐らず保存できていると言うのは、物凄く素晴らしいことなのだ。


自然においては、すぐに食料など腐ってしまう。……それを克服するために、人類は様々な工夫をしてきた。それが発酵食品であり、乾物なのである。そしてまた、フリーズドライであり、真空パックなのだ……!


「ロキ君、大丈夫か?聞いてるか……?」

「あ、ああごめんごめん。ちゃんと聞いてるよ。そうか……何とかしないとな。具体的な量か日数は分かるか?」

「そうだな。今町で手に入る物を含めて、すぐに調べさせよう。屋敷にある物では、あと一週間も保ちそうにない……」


マルミラのその言葉を聞いて、俺は予想以上に事態は深刻なのだということを悟った。既に一週間以上も屋敷に滞在して、俺たち四人が新たに増えてから、消費される食料も一気に増えたはずだ。


そんな中、地域の生産量も落ちれば、住む人間も居なくなったのでは、食料が一気に枯渇するのも当然かもしれない。日本に住んでいた時は意識しなかったが、食というのは普段から目に見えないインフラと物流によって成り立っているのだ。

あまり注目はされないが、一流の農家は、かなりその物流を意識しながら生産を考えているのである……。


「マルミラ、頼みがある。すぐにベルナルドたちとルルガたちにコンタクトできるか?指示を変更する」

「分かった。用意しよう」




***




「そっちはどうだ?ベルナルド」

「ああ、ロキ君。シバ君はとても素直でいい子だね。おかげで僕も死にたくならずに進んでいるよ」

「そうかそりゃ結構。あとどれくらいで終わりそうだ?」

「彼のおかげで、ブラウニーやノームたちも手伝ってくれてね。あと数日もあれば貰った種は全部播けそうだよ」

「分かった、サンキュー。だが生憎のお知らせだ。食料が尽きかけてる。これから慌てて増産に入らなきゃいけない所だ。また追加で頼むことがありそうだ。終わったら戻ってきてくれ。あと節約もな」


マルミラの、使い魔を媒介とした遠隔会話魔法により、ベルナルドたちとのコンタクトは取れた。続いてオーク集落の森の中に潜む、ルルガたちの方へと向かう。


「ピーちゃんは使い魔とは言え、トンビだからな。頑張っても半日ほどはかかってしまうだろう」


そう言われて待っている間に、いくつかの方法をシミュレーションしてみる。

前回はうまい物を食べるためだったが、今回は切実に生きていくためだ。さらにここには、冷凍庫も冷蔵庫もない。気候も涼しくはあるが、熱帯に近い場所だ。

果たしてどこまでできることか……?


「おーいロキー!元気かー?」

「ロキ殿!久々だな!私はこうして話せるのを待ち焦がれていたぞ!」

「おーお疲れお疲れ。首尾はどうだ?」


俺はもうすっかり奴らの扱いには慣れて、挨拶も早々にあしらいながら様子を聞いた。


「むぅ、冷たいぞ!ロキ!」

「相変わらずつれないお方だ……だが、そこがまた……」

「悪い、緊急事態なんだ。食料が尽きかけてる。早急に対策を取らないといけない。そっちの様子はどうだ?」

「ななんだってー!」

「なんと……⁉︎本当か?……こちらは概ね予定通りだ。いくつか奴らの使う小道を発見し、そこを中心に妨害工作を行なっている」

「豚ちゃんもいたぞー!」

「ああ、あれからまた何匹か脱走した豚を見た。どうやら扱いきれなくなってきてるみたいだな。君の言っていた通り、奇形も何匹かいたぞ」

「そうか……ありがとう。引き続き頼む。あ、そうだ。お前たちなら豚を捕まえてくるのなんてわけないよな?一度合流したいんで、その時に持ってこれる分だけ捕まえて来てくれ」

「分かったぞー!できるだけ美味そうな奴、捕まえてくなー!」


森の中に入り、本来の生活に近づいて、彼女たちもテンションが上がってるのかもしれない。なんだか活き活きとしているのが伝わってきた。


「羨ましいものだな。彼女たち狩猟採集民族には、自然そのものが恵みなんだろう」

「そうだな……。俺のいた世界ではな、こんな説もある。『農耕の始まりが、人類の争いの引き金だった』とな」

「キミのように進んだ世界でか……⁉︎それはなんとも、皮肉な話だな」

「全くだ。農家なんて、最も同情される職業なんだぜ?……たまに一体誰のために作ってるのか、分からなくなる時があるよ……」


思わず漏れてしまった俺の本音に、マルミラは特に何も言わずに肩をすくめるだけだった。ついつい俺も喋りすぎたな……と、ポリポリ頭をかきながら、再び思考の海に身を投げるのだった。


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